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ファイナンスの知識だけでは務まらない!? “実力のあるCFO”が持っているスキルセットとは!?

カウンティア株式会社で代表取締役・公認会計士を務めます、姥貝(うばがい)と申します。

突然ですが、みなさんは「CFO(Chief Financial Officer - 最高財務責任者)」という言葉を聞いてどういった役割を想像するでしょうか?

ベンチャーキャピタル(VC)や銀行からの資金調達でしょうか?

それとも、事業の資金繰り?

どれも間違いではありません。しかし、「Financial」という言葉が先行し、資金を管理する責任者のような偏った印象を持っている方が多くいらっしゃるのも事実。

そこで、私の専門領域であるスタートアップ企業のCFOにフォーカスし、その役割と、事業成長に欠かせない理由をお伝えします。

スタートアップにおけるCFOの役割とは?

スタートアップにおけるCFOの仕事は、プロダクトやサービスを「事業モデル」として深く理解し財務戦略に落とし込むことです。そしてファイナンス面からイノベーションを創出することを目的にビジネスと並走し続けることも必要になります。

例えば、CFOは下記のような項目を検証し、必要に応じて事業のチューニングをします。

・事業モデルはキュッシュフローを創出するか?
・資金繰りはどんな状況で苦しくなるのか?
・「キャッシュイン」と「キャッシュアウト」はどのタイミングでいくら発生するのかについての事業モデルへのチューニング
・事業モデルを成長させるためには何に投資が必要な事業なのか?
・その投資は実現可能か?
・市場規模は十分にあるか?
・事業を進捗させる上で前提となる規制や法律はあるか?

また、事業をどのようなスピードで成長させるのかの認識を経営陣で共有します。

もし短期でIPOを目指すのであれば、成長をドライブさせるため、

「いつ資金調達をしなければならないのか?」
「調達した資金を何に投下させて成長を加速させるのか?」

について『損益計画』として綿密に設計する必要があります。

必要資金の見通しがついてきたら、次は「どうやって資金を確保するのか」を考えます。

資金調達先はVC・エンジェル投資・銀行など、いくつか存在しますが、それぞれからどんな手法で、いつ、いくら調達するのかを検討しなければなりません。

大抵のスタートアップは株式発行による資金調達を計画するため、資金調達の検討資料は『資本政策』として落とし込まれます。

スタートアップCFOの仕事はCEOと共に考えて
・事業モデルを構築する。
・事業計画(係数計画)を検証する。
・資本政策を作成する。
という事になります。

上記からも分かる通り、プロダクトやサービスの全体理解と、金銭的な詳細について深く理解しておく必要があります。

CFOはファイナンスの知見だけでは務まらない?

スタートアップのCFOは「経営者」でなければなりません。

社長やCOO(最高執行責任者)が不在の時は、業務執行の役割を一時的に代理して会社を守ることができる程の『経営力』が求められます。

その『経営力』を持った上で、ファイナンス分野について実行していく役目を負っているのが理想のスタートアップCFOです。

この分野は起業経験のある財務専門家などが活躍できます。しかし、そういったCFOはほとんど居ませんよね。そのため、スタートアップではCFOを探すのが大変なフェーズでもあります。

これが「IPOの準備」や「IPO後」などそれぞれのフェーズによって求められる能力が若干変わってきます。

IPOの準備フェーズになると、IPO準備書類を大量に高精度で作成する必要があるため『事務能力』が求められます。公認会計士のような専門家がCFOとして適材となってきます。

IPO後のフェーズでは、上場を維持する為の『事務能力』に加えて、『投資能力』が求められます。調達資金で企業の買収・多角化・海外進出などを進める企業が多くありますが、その成否を分けるのは投資能力です。
会社を大きく羽ばたかせるには、社長と並走するCFOの能力が大いに影響してきます。投資銀行出身者などが能力を活かせるフェーズです。

ポイントは下記のようにまとめられます。
・CFOは会社の成長フェーズによって担う役割が変化する
・スタートアップ段階では経営全体を執行できるほどの経営力が重要
・会社の成長が進むにつれて事務能力や投資能力など、専門能力が求められる

実力のある「最高のCFO」は成長フェーズごとに適切に資金を準備できる

良いスタートアップCFOとはどんなCFOなのでしょうか?

会計・税務に詳しいだけでは、スタートアップのフェーズでは良いCFOにはなれません。また、投資銀行での経験はスタートアップフェーズで活きる場面もあまりないのではないでしょうか。(とはいえ、公認会計士や投資銀行出身者はそもそものポテンシャルと基礎力が高いので実際には大活躍するひとが多いです。)

なぜなら、スタートアップ企業においては、イノベーション事業を0→1で構築するときに起業家をサポートできる人でなければならないからです。

そもそも、「イノベーション」とはどういった状況で生まれるのでしょうか?

イノベーションの専門家のクリステンセン教授(ハーバード大学)はこう言っています。

『成長は気長に、利益は性急に』求めるべき
(著書:イノベーションへの解 クレイトンクリステンセン)

これを実現するために、会社の現金残高を極小に抑えることを意図的に実行するCFOがいます。

ギリギリまで資金調達をしないことで、社長と会社内部に「利益」への危機感を煽るのです。
(でも本当は裏で資金調達の準備を進めていて、決して資金の底が抜けないようにコントールしている)

こんなCFOがいるスタートアップは筋肉質な経営になります。

一方で「利益」を実現していないうちに多額の資金を調達するケースもあります。

良くある失敗例として「利益が出ないのは成長が足りないから」と思い込んでしまい、無駄なコストを投下してしまうスタートアップの失敗例があります。

例えば、
(1)相場を超過した給料で人材採用をしてしまう。
(2)数千万円〜数億円かけて広報やTVCMを行なったもののユーザーが着かなかった。又はユーザーはついたものの、そもそも構造的に利益が出ない事業だったことに後から気付いてしまった。

もちろん、多額の資金調達をしながらも堅実な経営を行える優秀な起業家もいます。

しかし、起業家のほとんどの方は、数千万円から数億円というお金を初めて管理下に置く経験をするのです。最初から上手くコントールできる筈がありません。

そんな起業家に「うちはお金が無いから早く利益出して!」と鞭を打ちながら「水面下」で資金調達の準備を進め、成長フェーズに応じて絶妙のタイミングで相応金額の資金を準備できるCFOは「最高のCFO」だと思います。

ポイントは次の3点です。
・スタートアップはその成長フェーズに合った事業資金の量がある
・資金調達額は、多すぎても少な過ぎてもダメ
・タイミングを見計らって資金調達を進めることが、イノベーションを生み出す状況をプロデュースすることに繋がる

実力のあるスタートアップCFOは、社長を正しい方向に全力疾走させることができます。それは、一体どういうことなのでしょうか。

次回はAmazon社を例に、「キャッシュフロー」と「イノベーション」の密接な関係についてお話いたします。

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