見出し画像

#1 DHM モデル ー コピーされにくく、顧客が喜ぶ、利益を高めるプロダクト戦略

この記事は、NETFLIXで最高製品責任者(CPO)を務めていたGibson Biddle 氏によるプロダクト戦略に関するエッセイ、1. The DHM Model の翻訳記事です。(翻訳許可取得済み)

私は、プロダクトのリーダーやアドバイザー、または役員として企業に加わるタイミングで、3つの問いに対するアイデアを発散します。

1)プロダクトはどのように顧客を喜ばせますか? (Delight)
2)プロダクトをコピーしにくくするものは何ですか? (Hard-to-copy)
3)収益性の高いビジネスを構築するために必要なビジネスモデル実験は何ですか? (Margin-enhancing)

これらの質問に対して答えることで、高水準なプロダクト戦略の仮説を得ることができます。

画像2

顧客に喜びを届ける (Delight)

現在と将来の両方で、あなたの製品がどのように顧客を喜ばせるかを考えてみてください。例として、現在のNetflixで得られる楽しさを考えてみましょう。どうすれば将来さらに多くの喜びや価値を提供できるでしょうか?

以下は、Netflixが過去に試したアイデアのリストと、考えられる将来のアイデアの候補です。

・DVDの翌日配達
・ストリーミングによる即時配信
・豊富な映画とテレビ番組
・ビデオの検索と視聴が簡単にできること
・楽しく感じるようなサイト上の体験
・ユニークな映画検索ツール
・友達からの映画の提案体験
・オリジナルコンテンツ
・どハマりするようなエピソードのあるTV
・4Kビデオ品質とサラウンドサウンド
・「いつでもどこでも」すべてのデバイスで利用可能
・各家族内の個人へのパーソナライズ体験
・ビデオをダウンロードして後で再生する
・インタラクティブな分岐ストーリー
・スポーツの生中継
・ニュースと時事
・3D / VR没入型ストーリー

Netflixはこれらのアイデアのほとんどを探求してきました。喜んでくれた顧客もそうでなかった顧客もいます。あなたの製品の「喜び」(Delight) のリストは何ですか?

コピーされにくい優位性をつくる (Hard-to-copy)

なぜ、他の企業はNetflixと競争することが難しいのでしょうか?ハミルトンヘルマーの本「7 Powers」では、競争優位を保つための7つのポイントについて解説しています。以下では、これらの7つのポイントのそれぞれと、それらがNetflixにどのように適用されるかについて説明します。

1. ブランド:お客様との信頼を築くには、信用を傷つけるような原因を最低限に抑えながら、何年にもわたって価値を提供する必要があります。現在、1億4千万人以上のメンバーがNetflixをクレジットカードを利用し、信頼してくれています。Netflixブランドは、コピーが難しいという大きな競争優位をもたらします。

2. ネットワーク効果:2008年、NetflixはXboxを使用してデバイスエコシステムを構築しました。今日、ほとんどすべてのTVや、DVD / Blu-Rayプレーヤー、ゲームシステム、セットトップボックス、モバイルデバイスが、Netflixをストリーミングするために事前に配線されています。

3. 規模の経済:Netflixのメンバー(ユーザー)は、我々の規模の経済によって可能になるオリジナルのコンテンツを楽しんでいます。Netflixは1億4千万人のメンバーにまたがるコンテンツコストを償却できるため、小規模のライバルよりも、はるかに多くの投資を行うことができます。

4. カウンターポジショニング:本来、競合他社が対抗することが不可能であることを顧客提供できることは稀です。しかし、2004年にNetflixは「延滞料なし」を宣伝しました。延滞料が彼らの利益のほとんどすべてを生み出していため、Blockbuster社は対応できませんでした。Blockbusterは同じ提案をする余裕がありませんでした。

5. ユニークなテクノロジー:Helmerの「7 Powers」の本にはこの属性は記載されてはいませんが、私にとっては不可欠な要素です。例えば、Netflixのパーソナライゼーションテクノロジー。Netflixは1億4千万人分、各メンバーごとの映画の好みを知っているため、各コンテンツの正確なストリーミング時間の予測ができ、それに応じてコンテンツへ投資することができます。つまり、オリジナルコンテンツへの投資を正しく効果的に行うことができます。

6. スイッチングコスト:顧客が1つの製品に多額の投資をして、別の製品に切り替えるのが難しい場合、このスイッチングコストがあると言えます。家族のメンバーごとにプロフィールを再作成するのは面倒なので、Netflixの顧客は、AmazonやHuluに切り替えることはありません。

7. プロセスパワー:Netflixには、多くのユニークでコピーが難しいプロセスがあります。1つの例として、何千もの異なるハードウェアデバイスの、複数の帯域幅で、毎年数万のタイトルを暗号化しています。

8. キャプチャされたリソース:最も明確な例は特許です。もう1つの例は、他の企業が利用できない緊密なチームです。Netflixの創業者のトリオ、リードヘイスティングス、ニールハント、パティマッコード(前のスタートアップで全員一緒に働いていたメンバー)は、キャプチャされたリソースの例です。

あなたの製品はどのようにコピーされにくい優位性を構築しますか?

利益を高める (Margin-enhancing)

あなたの製品はどのように利益を生み出しますか?イノベーションに投資して将来さらに優れた製品を構築するには、利益が必要です。以下は、Netflixが実施した多くのビジネス実験です。

1998年:NetflixはDVDサイトを立ち上げ、顧客はDVDを購入またはレンタルすることができました。約90%がDVDを購入し、10%がレンタルしました。

しかし、AmazonがオンラインDVDの市場を独占することを予想していたため、その後DVDの販売を中止しました。

最初のレンタルモデルは1ディスクあたり4ドルでしたが、このサービスはほとんどの顧客を引きつけませんでした。

1999年:Netflixは会社の命運をかけて、メールを使った、DVDレンタルのサブスクリプションを行いました。毎月25$を支払って、1度に3枚分までのDVDが見放題のモデルです。このいわゆる「食べ放題」(見放題) モデルが成功しました。

2004年:Netflixは低価格のプランを提供し始めました。一度に1枚分のDVDが見放題のプランを10$/月で、一度に2枚で17$/月、一度に3枚で23$/月です。時間の経過とともに、Netflixは徐々に価格を引き下げていきました。これは継続的な価格テストと、DVDの自動配信基盤の整備、規模の経済によるコスト削減効果によって実現できたものです。

2005年:NetflixはWebサイトとDVD容器の両方で広告を出稿することを試しました。また、「以前に閲覧した」DVDも販売しました。これらの取り組みはどちらも利益を生み出しましたが、Netflixは、コア事業となるDVD-by-mailサービスがより高い利益を生み出し始めたため、2008年に両方ともの試作を中止しました。

2007年1月:初めてストリーミングサービスを開始したとき、Netflixはメンバーのプランの価格に対応して、毎月のストリーミング時間に上限を設けました。毎月23$を支払い、3枚のDVDを同時に提供するメンバー(ユーザー)には、月に23時間ストリーミングできるようにしました。同時に、無制限のストリーミングの提供に関しても、すばやくテストを行いました。結果として、ストリーミングについても「食べ放題」のモデルに切り替えました。

Qwikster (NetflixがDVDレンタルサービスとストリーミングサービスを分離させ、DVDレンタルサービスをQwiksterと名付けた) は、ストリーミングのみのサービスの方に高い価格を設定する試みでした。結局Netflixがその試みを継続することはなかったのですが、メールでのDVDレンタルは (人気がなかったのもあり) 自然になくなっていきました。

Netflixは価格とプランの両方を試し続けています。現在、価格は$ 8.99〜$ 15.99です。値段が高いプランほど、ビデオの品質が高くなり、より多くのストリームを同時に見ることができます。今日、Netflixは国際市場で低価格のモバイル専用プランをテストしています。

プロダクトのどの時期においても、さまざまな価格とビジネスモデルを実験し、評価する必要があります。これらの実験は決して終わることはありません。

画像1

現在のNetflixの価格


プロダクト戦略をつくるためのエクササイズ

エクササイズ 1:少し時間を割いて、あなたのプロダクト/サービスが現在の顧客をどのように喜ばせるかを書き留めてから、あなたが将来どのように彼らをさらに喜ばせるかについていくつかのアイデアを追加してください。

エクササイズ 2:上記の8つの、コピーされにくいアドバンテージを参考に、あなたのプロダクトやサービスが将来コピーされにくいアドバンテージを生み出す可能性がある方法をリストアップします。

エクササイズ 3:あなたのプロダクトについて、今後1〜3年間で検討する可能性がある価格とビジネスモデルの実験をいくつか挙げてください。

この時点で、あなたは、顧客を喜ばせ (Delight)、コピーされにくいアドバンテージを生み出し (Hard-to-copy)、価格とプランの組み合わせと、検証するビジネスモデル (Margin-enhancing) についての、仮説のリストが出揃っているはずです。次のエッセイでは、これら3つの観点から出た仮説をまとめ、製品戦略に落としていくプロセスを明確にしていきます。

次の記事:2. DHMモデルから製品戦略へ

このシリーズの索引

0. いかにプロダクト戦略を定義するか
1. DHMモデル
2. DHMモデルから製品戦略へ
3. 戦略からメトリクス、戦術へ
4. 事業仮説を正しく測るプロキシメトリクス
5. 戦略を実現する施策の出し方
6. Netflixにおけるパーソナライズ戦略
7. 戦略からロードマップへ
8. 製品ビジョンを探索する強力なチームづくり
9. 組織のフォーカスを決めるGEMモデル
10. 戦略を議論する場の設計について
11. プロダクト戦略のケーススタディ:Chegg
12. プロダクト戦略作成の手引き

この記事が参加している募集

私のイチオシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?