丹羽敬忠

NHK浜松、岡崎暮らしの学校、豊橋暮らしときめきアカデミーでそれぞれ歌舞伎講座を担当、…

丹羽敬忠

NHK浜松、岡崎暮らしの学校、豊橋暮らしときめきアカデミーでそれぞれ歌舞伎講座を担当、 中国大連大学大学院日本文化論非常勤講師、 歌舞伎学会会員、慶應義塾歌舞伎研究会三田会会員、 岡崎暮らしの学校では、オンライン講座も担当しています。

記事一覧

歌舞伎の楽しみ 〜その衣装、石持〜

今回は歌舞伎の特殊な衣装について触れてみましょう。 まず、石持、これを「こくもち」と呼んでいます。もともとは衣裳用語です。 無地または無地に近い着付けの紋のところ…

丹羽敬忠
10日前
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歌舞伎の楽しみ 〜衣裳の柄〜 縞と格子

古くから着物の柄は 格子と縞が基本です。歌舞伎の衣裳にも同じことがいえます。歌舞伎の演目の中では立役、女方を問わず、その衣裳には多くの縞柄や格子柄が見られます。…

丹羽敬忠
4週間前
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歌舞伎の楽しみ 〜「赤姫」の赤〜

歌舞伎の世界で赤色は 「黒」と「浅葱色」と並んで最もポピュラーな色です。 そのわけは、、、 ① 荒事の主人公の化粧の隈取が悪人役の青い隈(藍隈)に対する赤い隈(紅隈)…

丹羽敬忠
1か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜江戸むらさきの鉢巻〜

江戸むらさきは、古くから武蔵野に自生する紫草で染められたもので、一時は全国的の流行した色です。 紫色の種類はとても多く、  藤紫、桔梗色、藤色、すみれ色、菖蒲色、…

丹羽敬忠
2か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜團十郎家の柿色〜

歌舞伎役者はそれぞれの「家」に属し、特別な関係を持っています。 歌舞伎では「襲名」という前近代的な風習が今でも行われ、それによって代々その家に伝わる「家の芸」が…

丹羽敬忠
3か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜衣裳の色と柄〜 その2

先回は色悪や粋な二枚目の立役の着る衣裳の「黒」についてお話ししました。 今回はさらにハンサムな立役の着る着物の色に見られる「浅葱色(あさぎいろ)」の事を書きます。 …

丹羽敬忠
3か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜衣装の色と柄〜 その1

歌舞伎の場面は、元来「絵」といえるほどその見た目を大事にしています。そのためには、まず役者の着る衣装が「一度着てみたい」と思わせるような人目を引く魅力的なもので…

丹羽敬忠
4か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜性念場、性根場〜

普通、私ども、一般的に「正念場」という言葉をよく使います。 例えば、「この選挙で政権はいよいよ正念場を迎える」などといいます。 この場合、「最も重要な局面を迎えた…

丹羽敬忠
4か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜実は、、〜

「実は、、」は「やつし」の世界から始まります。 それが徐々に変身してゆき、時代世話の「もどり」となって黙阿弥の頃になると因果の糸に操られた世話物の「実は」になっ…

丹羽敬忠
5か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜だんまり〜

「だんまり」とは、古くからの歌舞伎の演出の一つで、暗闇の中で繰り広げられる無言劇の形態で、歌舞伎独特の演技の様式といえます。 場面は、主に山の中の古い神社などち…

丹羽敬忠
6か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜お家の重宝〜

歌舞伎にはお家騒動がテーマの演目がたくさんあります。 その原因となるのが代々その家に伝わってきた宝物が紛失したことによるものが多いようです。 大抵は武家や公家に伝…

丹羽敬忠
6か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜待て〜

    ストーリーの次なる展開、、 たとえば、 「青砥稿花紅錦絵」 おなじみの弁天小僧・浜松屋  まんまと百両をせしめたと弁天小僧と南郷力丸、帰ろうとするところへ…

丹羽敬忠
7か月前
2

歌舞伎の楽しみ 〜責め場〜

「責め場」というのは文字通り、何らかの事情があって過酷な場所で責められる若い女性を描いた歌舞伎の場面を言います。 「責め場」がそのまま外題になっている演目は、、…

丹羽敬忠
8か月前
2

歌舞伎の楽しみ 〜ゆすり場〜

「ゆすり」は「強請」と書いています。 ご存知の「お富与三郎」の有名なセリフに「押しがり強請は習おうより 慣れた時代の源氏店、、」の、あの「ゆすり」です。 特に幕末…

丹羽敬忠
9か月前
4

歌舞伎の楽しみ 〜愁嘆場〜

今回は歌舞伎の時代物によくある「愁嘆場」についてお話ししましょう、、、。 文字通り、この場は何かの事情があってとても悲しい涙なしでは見られない場面を指しています…

丹羽敬忠
9か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜「愛想づかし」、「縁切り」〜

歌舞伎によくあるパターンが  見染め → 通い → 愛想づかし → 殺し  があります。 特に、世話物の花魁、芸者によくある演目です。 深い仲だった男と女が事情があっ…

丹羽敬忠
10か月前
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歌舞伎の楽しみ 〜その衣装、石持〜

歌舞伎の楽しみ 〜その衣装、石持〜

今回は歌舞伎の特殊な衣装について触れてみましょう。
まず、石持、これを「こくもち」と呼んでいます。もともとは衣裳用語です。
無地または無地に近い着付けの紋のところが丸い白抜きになっている衣裳のことです。人形浄瑠璃から導入された丸本歌舞伎で、身分の低い女性やら世話女房、田舎娘などが着用しています。

「石持」の着付けは無地の着物ばかりとは限りません。田舎娘の着用する衣裳にいい例があります。「妹背山婦

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歌舞伎の楽しみ 〜衣裳の柄〜 縞と格子

歌舞伎の楽しみ 〜衣裳の柄〜 縞と格子

古くから着物の柄は 格子と縞が基本です。歌舞伎の衣裳にも同じことがいえます。歌舞伎の演目の中では立役、女方を問わず、その衣裳には多くの縞柄や格子柄が見られます。
今回はその縞や格子の柄についてご紹介しましょう。

 一般に、複数の直線が平行に配された模様が「縞」、これが垂直なら「縦縞」、水平なら「横縞」、斜めは「斜め縞」といっています。
「格子」は縦縞と横縞を直交させてできる模様をいいます。
 縞

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歌舞伎の楽しみ 〜「赤姫」の赤〜

歌舞伎の楽しみ 〜「赤姫」の赤〜

歌舞伎の世界で赤色は 「黒」と「浅葱色」と並んで最もポピュラーな色です。
そのわけは、、、
① 荒事の主人公の化粧の隈取が悪人役の青い隈(藍隈)に対する赤い隈(紅隈)で
 あることです。
② 赤の隈取は、強さ、激しさ、若さ、正義、勇気を表し、血や火焔を連想させる
 燃える色でもあるのです。
③ ですから、勇気ある若者の憤怒の表現を端的に表現する際に使われます。
④ 初代市川團十郎が14歳の

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歌舞伎の楽しみ 〜江戸むらさきの鉢巻〜

歌舞伎の楽しみ 〜江戸むらさきの鉢巻〜

江戸むらさきは、古くから武蔵野に自生する紫草で染められたもので、一時は全国的の流行した色です。
紫色の種類はとても多く、
 藤紫、桔梗色、藤色、すみれ色、菖蒲色、杜若、葡萄色、茄子紺など、花や
果実を冠した言い方のほかに、江戸時代から呼称にも独特の名前がつけられています。
例えば、
江戸紫

京紫

似紫(にせむらさき)

ほかにも、古代紫

今紫

本紫

若紫

などなどその種類は多義にわたっ

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歌舞伎の楽しみ 〜團十郎家の柿色〜

歌舞伎の楽しみ 〜團十郎家の柿色〜

歌舞伎役者はそれぞれの「家」に属し、特別な関係を持っています。
歌舞伎では「襲名」という前近代的な風習が今でも行われ、それによって代々その家に伝わる「家の芸」が家系に属する役者に伝えられ伝統になっています。
歌舞伎の世界では役者の「家」が歴史の長さ、由緒の正しさ、先祖が劇界に残した功績などが基準になって重みや格式が決まってくるようです。
ですから、襲名によって決まる役者の名前は、家の芸を継承して代

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歌舞伎の楽しみ 〜衣裳の色と柄〜 その2

歌舞伎の楽しみ 〜衣裳の色と柄〜 その2

先回は色悪や粋な二枚目の立役の着る衣裳の「黒」についてお話ししました。
今回はさらにハンサムな立役の着る着物の色に見られる「浅葱色(あさぎいろ)」の事を書きます。
浅黄色とも書くことがあるようですが、これは正しくありません、正式な日本名は古くから「浅葱色」が一般的です。
「浅葱色」はもともと藍染から出来た色です。
江戸時代に流行した色といえば、青系統の藍、それに、茶、鼠の三つです。
特に藍色は好む

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歌舞伎の楽しみ 〜衣装の色と柄〜 その1

歌舞伎の楽しみ 〜衣装の色と柄〜 その1

歌舞伎の場面は、元来「絵」といえるほどその見た目を大事にしています。そのためには、まず役者の着る衣装が「一度着てみたい」と思わせるような人目を引く魅力的なものでなければなりません。
現に、江戸時代の女性たちは歌舞伎役者の着物の色や柄を目ざとく取り入れ、当時のファッションの最先端をいくことに敏感になっていました。
例えば、岩井半四郎がはやらせた「黄八丈」、また佐野川市松が考案したという「市松模様」の

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歌舞伎の楽しみ 〜性念場、性根場〜

歌舞伎の楽しみ 〜性念場、性根場〜

普通、私ども、一般的に「正念場」という言葉をよく使います。
例えば、「この選挙で政権はいよいよ正念場を迎える」などといいます。
この場合、「最も重要な局面を迎えた」ことを意味し、これを「正念場」と言っているようです。
また、この「正念場」は「重要な場」という意味だけでなく、その重要な局面を迎える人にとって、「厳しくそれを乗り越えるためには相当の困難が予想される」という特徴があります。
つまり、本人

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歌舞伎の楽しみ 〜実は、、〜

歌舞伎の楽しみ 〜実は、、〜

「実は、、」は「やつし」の世界から始まります。
それが徐々に変身してゆき、時代世話の「もどり」となって黙阿弥の頃になると因果の糸に操られた世話物の「実は」になってゆきます。
 順を追っていきましょう。
歌舞伎が華やかな江戸中期から後半になると、「実は」は「やつし」を指している意味になっています。
「やつし」というのは仮の姿のことで、本来の姿、元の姿をチラッと変えて見せる演出を言います。そこに「実は

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歌舞伎の楽しみ 〜だんまり〜

歌舞伎の楽しみ 〜だんまり〜

「だんまり」とは、古くからの歌舞伎の演出の一つで、暗闇の中で繰り広げられる無言劇の形態で、歌舞伎独特の演技の様式といえます。
場面は、主に山の中の古い神社などちょっと不気味な場所で、月明かりさえなく、一寸先も見えない暗闇の中にどこからともなくさまざまな役柄の人物が現れて、宝物などを奪い合うといった形式がお決まりのパターンになっています。

お互いに相手の着物や刀などに触れてはっと手を引っ込めたり、

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歌舞伎の楽しみ 〜お家の重宝〜

歌舞伎の楽しみ 〜お家の重宝〜

歌舞伎にはお家騒動がテーマの演目がたくさんあります。
その原因となるのが代々その家に伝わってきた宝物が紛失したことによるものが多いようです。
大抵は武家や公家に伝わる大切な宝物が何者かに奪われ、主君は切腹、お家が断絶、その結果、跡継ぎの若君や忠義の家臣が町人に身をやつして宝物を探し家を再興するために苦労するという物語になっています。
大事な宝物が質入れされ、そのために大金が必要になって奪い合いの殺

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歌舞伎の楽しみ 〜待て〜

    ストーリーの次なる展開、、

たとえば、
「青砥稿花紅錦絵」 おなじみの弁天小僧・浜松屋
 まんまと百両をせしめたと弁天小僧と南郷力丸、帰ろうとするところへ、奥から現れた侍「ちょっと待ってくだされ」、低いが厳しい声が掛かります。

「鈴ヶ森」白井権八と幡随院長兵衛
 群れかかってきた雲助相手に見事な太刀捌き、立回り、斬り殺し、追っ払った若衆姿の白井権八。悠然と立ち去ろうとした時、暗闇の中、

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歌舞伎の楽しみ 〜責め場〜

歌舞伎の楽しみ 〜責め場〜

「責め場」というのは文字通り、何らかの事情があって過酷な場所で責められる若い女性を描いた歌舞伎の場面を言います。
「責め場」がそのまま外題になっている演目は、、、
  阿古屋の「琴責め」、中将姫の「雪責め」、「明烏」の「雪責め」
の三つだけです。

阿古屋の「琴責め」
 平家の武将、景清の恋人五条坂の傾城阿古屋が堀川御所で源氏方の秩父庄司重忠と岩永左衛門に景清の行方を尋問される芝居です。
岩永は水

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歌舞伎の楽しみ 〜ゆすり場〜

歌舞伎の楽しみ 〜ゆすり場〜

「ゆすり」は「強請」と書いています。
ご存知の「お富与三郎」の有名なセリフに「押しがり強請は習おうより 慣れた時代の源氏店、、」の、あの「ゆすり」です。
特に幕末頃の世話物ではお馴染みの言葉で、こういった場面はよく出てきます。
例を挙げてみましょう。
 「弁天娘女男白浪」  弁天小僧と南郷力丸の浜松屋でのゆすり
 「盲長屋梅加賀鳶」  質店、按摩熊鷹道玄とおさすりお兼のゆすり
 「十六夜清心」  

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歌舞伎の楽しみ 〜愁嘆場〜

歌舞伎の楽しみ 〜愁嘆場〜

今回は歌舞伎の時代物によくある「愁嘆場」についてお話ししましょう、、、。
文字通り、この場は何かの事情があってとても悲しい涙なしでは見られない場面を指しています。

「泣き紙」という小道具をご存知でしょうか?
20㎝くらいの四角に折畳んだ紙のことで、女方が泣く時、目頭の涙をソッと抑えるときに使うものです。
「泣き紙」を使うのは時代物の、しかも、年配の女性に限られています。世話物の女性は襦袢の袖で泣

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歌舞伎の楽しみ 〜「愛想づかし」、「縁切り」〜

歌舞伎の楽しみ 〜「愛想づかし」、「縁切り」〜

歌舞伎によくあるパターンが
 見染め → 通い → 愛想づかし → 殺し  があります。
特に、世話物の花魁、芸者によくある演目です。
深い仲だった男と女が事情があって縁を切る、、、。
その場合、
① 縁を切るのはたいてい女性の方から
② その動機は止むに止まれぬ義理詰であることが多い
③ 大抵それが満座の中で行われる
④ 男は女の事情に気づく余裕もなく、恥辱と受け止め後に「殺し」になる
⑤ 「

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