あまえび

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読書感想#31「農場の少年」

「大草原の小さな家」シリーズのうちの一冊ですが、この巻の主人公はローラではなく、ローラの夫になるアルマンゾの少年時代です。 読んでいて特に心を惹かれたのは、たくさんの美味しそうな食べ物の描写です。とくにパンプキンパイが食べてみたいなと思いました。暮らしぶりは、インガルス家と比べるとかなり裕福な印象を受けました。 それでも、裕福とはいえアルマンゾは10歳に満たない頃から家の農場の仕事を手伝わされていて、現代の子どもと比べるとかなり忙しく、遊ぶ時間などほぼないような暮らしです。当

    • 読書感想#30「シルバー•レイクの岸辺で」

      「プラム•クリークの土手で」に続く、「大草原の小さな家」シリーズ。今回は、冒頭でいきなりメアリイの失明が語られるというショッキングな始まり方です。書かれ方はずいぶんあっさりしていて、家族の嘆き悲しむ様子などは書かれていないのですが、ローラにも辛い出来事だったため掘り下げて書けなかったのかなと思いました。 それにしても、末っ子のグレイスもいつの間にか生まれていて、グレイスの出産の様子などは細かく描いてもよかったのではないかと思いました。 この巻を読んでいて感じたのは、姉のメア

      • 読書感想#29「プラム•クリークの土手で」

        「大草原の小さな家」のインガルス家の物語。全巻で大草原の小さな家を後にして、ミネソタ州のクリーク(小川)のそばへやってきます。 横穴小屋というのは現代の住宅に住んでいるとなかなかイメージが湧きませんが、なんとなく「指輪物語」のホビットの家を思い出しました。 この巻でも、インガルス一家は自然に翻弄されつつも家族同士協力して、信じ合い、たくましく生きていきます。1番印象が強いシーンはやはりイナゴの大量発生でしょうか。家の隙間から入ってきたり、イナゴの大群が草を食い荒らす音が一日

        • 読書感想#28「大草原の小さな家」

          前巻「大きな森の小さな家」の最後に、ローラがこの「いま」は永遠だというようなことを言っていましたが、そこから一転、インガルス家が小さな家を後にして引越しをするシーンから始まります。馬車で道なき道を何日もゆく旅は、現代の引越しよりはるかに大変だったと思います。 しかも、引越し先に家が建って待っていてくれているわけではなく、手頃な土地を見つけたら、そこに1からお父さんが家を建てるのです。このシリーズを読んでいて何度も思いましたが、無いものはなんでも自分たちの手で作ってしまう、昔の

        読書感想#31「農場の少年」

          読書感想#27「大きな森の小さな家」

          インガルス一家の物語「大草原の小さな家」シリーズの一巻目です。 ローラがまだ5歳くらいの時の話で、四季折々の森での生活が綴られています。 私は「長い冬」から読み始めたので、ローラはまだ子どものような年齢なのになんて働き者なんだろうと驚きましたが、さすがにこの最初の巻では、人形などで子どもらしく遊んでいて安心しました。しかし、何の悩みもない子ども時代というわけでもなく、完璧な姉メアリイへの嫉妬が見え隠れする場面もあります。先に「長い冬」を読んでいてメアリイが失明することを知って

          読書感想#27「大きな森の小さな家」

          読書感想#26「わが家への道 ローラの旅日記」

          「大草原の小さな家」シリーズの、ローラの足跡を辿る最後の本と言えます。タイトル通り、物語ではなく日記形式で、ローラが夫と子どもとともにサウスダコタ州デスメットを離れて、ミズーリ州マンスフィールドに引っ越す様子が書かれています。650マイル(1040km)の長旅です。 7月17日の夏の盛りに出発して、8月30日に旅が終わるのですが、エアコンもない馬車で1ヶ月以上引っ越しのために移動すると言うのは現代の私たちからするととても壮絶だと思いました。 しかし、ローラの日記には悲壮感は

          読書感想#26「わが家への道 ローラの旅日記」

          読書感想#25「はじめの四年間」

          「大草原の小さな家」シリーズの、ローラとアルマンゾの結婚後の生活が描かれる巻です。 ですが書かれたのはローラの作家活動の初期で、インガルス家の物語よりも先らしいので、書き方が「長い冬」や「大草原の小さな町」などに比べると淡白な印象で、物語というより日記のようでした。 それでも、退屈な内容というわけではなく、度重なる災害で作物がダメになったり、息子の死産など不幸な出来事を経験しながらも逞しく生きていくローラの姿に引き込まれました。胸踊る冒険などない何気ない日々も、十分に闘いの日

          読書感想#25「はじめの四年間」

          読書感想#24「この楽しき日々」

          少女から立派な大人へと成長していくローラの物語。私は、岩波少年文庫版の「長い冬」から読み始めたのですが、一連のシリーズの「大きな森の小さな家」から読み始めていたらローラの結婚式のシーンでもっと感動したのかなと思いました。「長い冬」以前のシリーズの作品も今後改めて読みたいと思います。 ローラは、冒頭のブルースターさんの家での下宿では辛い思いをしますが(奥さんが旦那さんに包丁を振り上げていたのも実体験に基づく話だったのだろうかとゾッとしました)、学校では生徒から好かれ、ボーイフレ

          読書感想#24「この楽しき日々」

          読書感想#23「大草原の小さな町」

          ローラ・インガルス・ワイルダーの、「小さな家」シリーズの「長い冬」の続編です。 全巻の、長く厳しい越冬の描写を読んできていると、暑い夏の日々のシーンがとてもきらきらとして感じられました。競馬を見に行った時にローラが飲んでいたレモネードはとても美味しそうでした。 しかし、冬の厳しさがなくなった代わりに、今度は作物を荒らすブラックバードに悩まされたり、学校で嫌なクラスメイトや先生と衝突したりと、ローラや家族の新たな試練もやってきます。作物を荒らしにきたブラックバードを捕まえて美味

          読書感想#23「大草原の小さな町」

          読書感想#22「長い冬」

          「長い冬」というタイトルより、同シリーズの「大草原の小さな家」のほうが有名で通りがいいかもしれません。時はアメリカ開拓時代。ローラたち6人家族が、長く厳しい冬を生活の知恵を絞りながら忍耐強く生き抜いていく様子が描かれた物語です。ただ空想で書かれたわけではなく、作者のローラ・インガルスさんの少女時代が元になっているので、描写の細かさやリアリティの迫真さが輝いていて、長めの物語ですがあっという間に読んでしまいました。空想の魔法物語よりもある意味ドキドキする物語かもしれません。

          読書感想#22「長い冬」

          読書感想#21「教養としてのアメリカ短篇小説」

          13篇のアメリカ短篇小説が紹介されていて、読んだことがない作品の章でも、あらすじが詳しく紹介されていて面白く読めました。ネタバレはもちろん含んでいるのですがそれでも、自分で細部を確認するために読んでみたいと思えるような紹介の仕方でした。 紹介されている中で読んだことがあるのは最初のポーの黒猫だけでしたが、それも、子どもの頃読んだ時に感じた恐怖だけがテーマではない、アメリカの歴史や思想が複雑に絡んだ作品なのだと知りました。黒猫を殺すシーンがかつてのアメリカでの黒人奴隷へのリンチ

          読書感想#21「教養としてのアメリカ短篇小説」

          読書感想#20「白楽天の愉悦 生きる叡智の輝き」

          唐の詩人白居易の人生を追い、白居易が人生の上で楽しみにしていたものをテーマに色々な詩を取り上げた一冊です。 私は白居易の「足るを知る」という考え方に深く共感し、なんて達観した人なんだろうと思っていました。 ですが、その達観も最初から難なくできたわけではなく、詩を通して、官僚としての栄達の道への未練と、俗世間を離れたのんびりした暮らしの中で得る幸せの間でだいぶ揺れていたことが分かりました。きっと、本当に、「足るを知る」を心からそうだと思って実践できていたのは晩年の少しの間だけだ

          読書感想#20「白楽天の愉悦 生きる叡智の輝き」

          読書感想#19「詩のトポス 人と場所を結ぶ漢詩の力」

          さまざまな漢詩を、洛陽や長安など、場所ごとに区切って紹介する一冊です。 私個人の好みですが、華やかな都の様子より、涼州のような中華から見て辺境の地を歌う詩に惹かれました。有名な涼州詞の最初の「葡萄美酒夜光杯」の文字の並びの美しさにはため息が出ます。「ブドウのびしゅ やこうのはい」と日本語で読むのもいいですが、やはり漢詩なので中国語の音で味わいたくなります。(ちなみに現代中国語の音で書くとしたら、プータォメイジゥ イェグヮンベイ、となります) また、中国各地の地名の中に混じ

          読書感想#19「詩のトポス 人と場所を結ぶ漢詩の力」

          読書感想#18「精選漢詩集 生きる喜びの歌」

          漢詩というと、国が滅んだ悲しみや、孤独の悲しみなど、悲しい気持ちを糧に生まれるイメージがありましたが、日常の何気ない喜びや自然の美しさから生まれる詩もたくさんあるのだと分かりました。 特に、自然を歌った詩の美しさは格別だと思いました。詩は文字の羅列ですが、ひょっとしたら絵よりも色鮮やかに自然を表現できている芸術品なのではと思います。 また、昔の人は、現代よりも娯楽が少なかった分、自然にじっくりと触れる時間が多かったのではと思います。現代に生きる私たちなら、花を見てもスマホで撮

          読書感想#18「精選漢詩集 生きる喜びの歌」

          読書感想#17「中国古典からの発想」

          中国に関する「へぇ〜そうなんだ!」と面白く読める雑学を色々知ることができて面白い一冊でした。 例えば、「西遊記の沙悟浄は中国だとカッパじゃない(猪八戒も黒豚)」、「カルピスの元になったモデルの飲み物はモンゴルの発酵乳」、「織田信長の『人間五十年〜』という有名な言葉は人生が五十年という意味ではない」などなど…すぐ人に話したくなるような知識が色々仕入れられて面白かったです。 また、京劇に関する話も色々書いてあったのですが、特に面白いなと思ったのが、「日本の戦闘ヒロインは未婚の美

          読書感想#17「中国古典からの発想」

          読書感想#16「かのこ繚乱/お蝶夫人」

          瀬戸内寂聴さん作の、激しい人生を生き抜いた女性たちの伝記小説です。取り上げられているのは、芸術家岡本太郎の母でもある小説家岡本かの子と、一世を風靡した明治生まれのオペラ歌手三浦環です。 どちらの女性にも言える事ですが、ほとばしるほどの才能で周りの男たちを巻き込み、自分の養分にする凄まじい人生でした。 かの子は、一平と結婚した後も新しく恋人を作り、一緒に住まわせていたという、現代から考えてもかなり奔放な生活をしていたのでおどろきました。しかも女性は貞淑なのが当たり前とされてい

          読書感想#16「かのこ繚乱/お蝶夫人」