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精神科医が教える、不眠症とその対策

みなさん、よく眠れていますか?

健康科学においては、”快眠、快食、快便”であれば「健康」とみなされます(あくまで極論)。

一方、精神医学においては、毎日ぐっすり眠れていれば「健康」なのです(あくまで極論)。

しかし、逆に言うと眠れない日々が続けばメンタルヘルスに黄色信号が点っている証拠…、かも知れません。

そして、何日も眠れなくなると不眠症と診断されることがあります…。

そこで今回は、メンタルヘルスにとって大敵である不眠症とその対策について、簡単にご紹介します!

【不眠症とは?】

「そもそも、不眠症って何?」と思っている方もいると思います。

そこで最初に、不眠症の定義について説明します。

診断基準は様々ありますが、現在の日本においてはDSM-5(米国精神医学会の診断基準)を用いている医師が多いでしょう。

307.42(F51.01) 不眠障害 insomnia disorder
以下の3つの症状のうち、少なくとも一つが1週間に3夜以上起こり、かつ3ヶ月以上持続する状態です。
1.入眠困難: (例: 寝付くのに20-30分*以上かかる)
2.睡眠維持困難(頻回の覚醒・再入眠困難):(例: 寝ても20-30分*で目が覚める )
3.早朝覚醒 (例: 起きようとしていた時間よりも30分*以上はやく目覚める、全睡眠時間が6.5時間*に達する前に覚醒する)
<注意>
*ここに示している数字はDSM-5に記載されていた参考値です。その人の社会的環境によってはこれらの数字は異なります。

American Psychiatric Association. Insomnia Disorder. In: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:362-368.

ポイントは、「1週間に3夜以上起こり、かつ3ヶ月以上持続」という点です。

ざっくり言うと、週の半分ぐらい眠れない状態が3ヶ月続くと不眠症と言えます。

ときどき「月に2-3日眠れない」という理由で受診される方もいらっしゃいますが、この場合、厳密に言うと「不眠症」ではありません。


それから上記の1.入眠困難、2.睡眠維持困難については、みなさんもイメージできると思いますが、臨床的には3.早朝覚醒が問題になることがあります。特にうつ病の方はこの症状がでやすいので要注意です。

【不眠症の疫学】

次に不眠症の全体像(疫学)について説明します。

まずは、日本人の平均的な睡眠時間をお示しします。

NHK放送文化研究所が5年毎に行なっている調査によると、平日の睡眠時間は7時間12分(2020年)だそうです。ちなみに、同研究所によると50年前に比べて日本人の睡眠時間は1.5時間以上短縮したそうです…。

では不眠を訴える人の割合はどのくらいでしょうか?

平成29年「国民健康・栄養調査」によると、「この1ヶ月、睡眠で休養が十分とれていない」と回答した人の割合は、20.2%だそうです(図1:睡眠で休養が十分にとれていない者の割合の年次比較)。

図1: 睡眠で休養が十分にとれていない者の割合の年次比較
平成29年「国民健康・栄養調査」, 厚生労働省, 平成30年9月11日 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189_00001.html


さらに平成23年に実施された「抗不安薬・睡眠薬の処方実態について報告」によると、過去3ヶ月に睡眠薬を内服した人の割合4.7%(20人に一人)でした。

このように、不眠症は日本においてはごくありふれた病気であり、まさに「国民病」と言えます。

【不眠症の原因】

次に不眠症の原因について簡単に説明します。

不眠症の原因は大きく分けて6つに分類されますが、複数の問題を抱えている場合もあります。

1.心理的問題: (例: 心配事があって眠れない)
2.身体的問題: (例: 痛みで眠れない、喘息で苦しくて眠れない)
3.精神科的問題: (例: うつ病の不眠、統合失調症の不眠)
4.薬物による問題: (例: カフェインの摂取、アルコールの摂取、病気の治療薬*)
*抗パーキンソン病薬、降圧剤、ステロイド、気管支拡張薬、インターフェロン等
5.環境の問題: (例: 騒音で眠れない、時差ぼけ)
6.生活習慣の問題: (例: スマホ、運動不足)

上記のうち、特に2,3,4(治療薬)については専門医にただちに相談するべきでしょう。

残りについては、次にまとめる「十の極意」で対処可能です。是非、参考にしてください。

【不眠症対策: 十の極意】

最後に、不眠症対策を紹介します。これは厚生労働省が出した睡眠障害対処12の指針、睡眠障害に対する認知行動療法などを参考に(無理やり?)十項目にまとめました。

1.眠くなってから布団に入る: 眠くないのに布団に入ると、熟眠感が得られません。

2.起床時間を一定にする: 朝、日光を浴びて体内時計をリセットする。

3.刺激物はとらない: カフェイン、タバコ、アルコールは睡眠の質を下げます。

4.リラクゼーション: 快眠BGM、軽いストレッチなどはおすすめ。

5.運動: 有酸素運動を30分以上。ただし寝る直前の激しい運動はNG!

6.昼寝の活用: 昼寝は30分以内、午後3時以降はNG!

7.寝床で生活しない: 寝床は寝るために使用(ベッド上でダラダラ過ごしていませんか?)。

8.入浴は寝る1-2時間前: ぬるめのお湯(40℃)がおすすめ。

9.寝る前のスマホはNG!: 寝る1時間前には電源をオフにしましょう。

10.1-9を試して眠れなかったら、専門医に相談を: どうしても眠れない時は睡眠薬の使用を考えよう。


【睡眠薬は怖い?】

前項でさらっと「睡眠薬の使用を…」と書いておりますが、人によっては「睡眠薬は怖い…」と思う方もいると思います。

たしかに沢山飲めば副作用・依存性が生じる可能性はあります。

しかし、最近は副作用や依存性が生じにくい睡眠薬もありますので、いろいろ試して眠れない方は是非専門医に相談しましょう。

(いつか睡眠薬について、簡単にまとめた記事を紹介したいと思います。)


【まとめ】

不眠症とその対策について簡単に紹介しました。
・いろいろ試しても眠れない場合は、病院に行ってみましょう。
・睡眠薬は用法用量を守れば、怖いものではありません!(睡眠薬について、いつかまとめた記事を紹介したいと思います)


【参考文献など】

1.American Psychiatric Association. Insomnia Disorder. In: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:362-368.

2.国民生活時間調査2020生活の変化xメディア利用, NHK放送文化研究所世論調査部, 2021年

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20210521_1.pdf

3.平成29年「国民健康・栄養調査」, 厚生労働省, 平成30年9月11日

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189_00001.html

4.抗不安薬・睡眠薬の処方実態について報告, 厚生労働省社会・援護局 障害保健福祉部精神・障害保健課, 平成23年11月1日b

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001tjq1-att/2r9852000001tjri.pdf

5.健康づくりのための睡眠指針2014, 厚生労働省健康局, 平成26年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

6.アジアにおける睡眠医療の現状と展望, 大川匡子, 保健医療科学, 2012

https://www.niph.go.jp/journal/data/61-1/201261010006.pdf

7.健康づくりのための睡眠指針2014, 厚生労働省健康局, 平成26年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf


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