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精神科医が教える、ウクライナ報道による共感疲労の予防と対策

【ウクライナ報道による共感疲労】

ロシアによるウクライナ侵攻について、連日報道されています。

ウクライナの悲惨な状況をTVやネットで見るたびに、深い同情の念が沸き起こってきますが、同時にとても暗い気持ちになります。

戦争、災害、犯罪などによって悲惨な体験を負った人の話を聞いたり、現場を目撃することで、メンタルヘルス不調が起こることを、"二次受傷"または“共感疲労(compassion fatigue)”と呼びます。具体的に起こる症状としては、不安、抑うつ感、不眠、悪夢、イライラ、フラッシュバックなどが挙げられます。

このような症状は一過性であることが多いのですが、メンタル不調が長期化すると、うつ病や不安障害といった、精神疾患に発展する可能性があります。

そこで、今回の記事では、ウクライナ侵攻報道による共感疲労の予防と対策について、簡単に紹介したいと思います。

【SNSの使い方】

1.SNSの時間を減らす(Doomscrollingを減らす)

 これは最もシンプルな方法です。悲惨なシーンの視聴時間が長いほど、暗い気持ちになります。したがって、SNSの視聴時間を減らすことは共感疲労を予防するのに効果的です。海外では、悲劇的なニュースをTwitterなどで読み続けることをDoomscrolling(ドゥームスクローリング)と言いますが、まずはこのドゥームスクローリングを減らしてみましょう。


2.SNSの視聴時に音声をオフにする

 動画中心のSNSにおいては、映像だけでなく音声も配信されています。映像に“音”が加わると現実感が増し、悲劇的シーンは視聴者に刺さります。このため、ウクライナ侵攻のニュースにおいては、まずは最初は音声をオフにしてから視聴することをお勧めします。


3.動画の画面を小さくする

 例えスマホの小さなディスプレイであっても、いきなりショッキングな画像が目に飛び込むと、人は大きなストレスを感じます。特にSNS上の戦争や災害の動画は、傷ついた人々や遺体が映されていることもあります。そのようなショックを回避するために、画面を小さくしてから視聴したほうがよいでしょう。


4.自動再生をオフにしておく

 自動再生は、次に何を視聴するのか迷わなくて便利ではあります。しかし、戦争関連の動画をみていると、そのようなショッキングな画像が自動再生されるかもしれません。こういった事態を避けるためにも、自動再生はオフにしておくことをお勧めします。

【メンタルヘルスの維持の方法】

1.自分が感じている気持ちを否定しない

 ウクライナ侵攻の悲惨な状況を見て、恐怖や不安を感じることは自然なことです。それは決して、あなたが弱いせいではありません。


2.ウクライナ侵攻について、友人や家族と話してみる

 気の合う友人、あるいは家族と一緒に、このウクライナ侵攻についてどう思ったかを話し合ってみましょう。自分の感じていることを周囲に伝えるだけで、気持ちは随分と楽になります。

3.日常の「あたりまえ」に感謝する

 おそらくこの記事を読んでいる人のほとんどは日本人だと思います。いまの日本における「あたりまえ」は、ある意味「奇跡的なもの」だと思い、自分がおかれている環境、とくに周囲の人々に感謝しましょう。感謝の念を抱くことは、心身の健康維持に役立つという研究結果も出ています。


4.ウクライナ侵攻で困っている人々に手を差し伸べる

 ウクライナの人々の支援の仕方として、遠くに住む我々日本人ができることして、まずできることは寄付・募金が挙げられます。小額でもよいので、寄付・募金をすることは、ウクラナイの人々を助けるだけでなく、自分の気持ちを少し楽にさせます。過去の研究で、「他人を助ける」という行為が、行為者の幸福感を増幅させることが示されております。


5.セルフケア・運動

 沈んだ気持ちや、緊張や不安を軽減するために、リラクゼーション、ヨガ、マインドフルネスなどを日常生活に取り入れましょう。またジョギングなどの軽い運動も不安を軽減するのに有用です。この他にも、自分に合ったストレス軽減方法があると思いますので、是非試してみましょう。


6.メンタルヘルスの専門家に相談する

 上記の様な方法を試しても、気持ちが晴れない、眠れない、不安で仕方がない、という方は一度メンタルヘルスの専門家に相談してみた方がよいかもしれません。カウンセラーや精神科医に相談し、治療の必要性について伺ってみましょう。

【Your Mental Health Matters !】

Your mental health matters !

以上、共感疲労の予防と対策について簡単に紹介しました。

ドゥームスクローリングは、メンタルヘルスに良くないので控えるべきですが、これは“ウクライナ侵攻について、目を背ける”という意味では決してありません

この問題について考え、ウクライナの人々の気持ちに寄り添うことはとても重要です。

しかし、そうは言っても共感疲労によって、みなさんの健康が損なわれることは避けなければなりません。

あなたの健康は、とても大切なことなのです!(Your Mental Health Matters !)

まずは自分を大切にし、無理のない範囲でウクライナ問題に向き合いましょう。

【まとめ】

・ウクライナ報道における共感疲労とその対策について紹介しました。
・悲惨なニュースを見続けるドゥームスクローリングはメンタルヘルスを悪化させます。
・ドゥームスクローリングによるメンタルヘルス悪化を防ぐためには、SNSとの向き合い方を考える必要があります。
・メンタルヘルス維持の方法を紹介しましたが、なかなか改善しない場合は、専門家に相談しましょう。
・ウクライナ侵攻は大きな問題ですが、まずはご自身のメンタルヘルスにも目を向けましょう。

【参考文献など】

1.Watching War Unfold on Social Media Affects Your Mental Health.

https://time.com/6155630/ukraine-war-social-media-mental-health/

2.Mental health: What is doomscrolling and how can we stop it.

https://www.weforum.org/agenda/2021/07/doomscrolling-mental-health-covid19-sleep/

3.How war videos on social media can trigger secondary trauma.

https://www.dw.com/en/how-war-videos-on-social-media-can-trigger-secondary-trauma/a-61049292

4.How to cope with stress and anxiety caused by the war in ukraine.

https://www.verywellmind.com/anxiety-about-ukraine-and-the-threat-of-war-5221204

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