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出稼ぎメシ《食べログに遺された生の記録》

そして埼玉

詐欺に巻き込まれて多額の借金を負ったあたし、その一瞬はまさに地獄の門が開いた瞬間だった。精神的にも経済的にも、もうどうしようもなく絶望的な状況に陥り、人生なんて本当に呪いたくなる。昼も夜も、目の前が真っ暗で、未来なんてものは存在しないように思えた。

でも、そんなあたしの目に偶然飛び込んできたのが、聖書の一節だった。これが救いの光になるとは、その時のあたしは思いもしなかったんだけどね。久しぶりに手に取った聖書、あのマタイの福音書を読んだ瞬間、なんだか神様の光があたしの心に差し込んできたんだ。

「必要なものはすべて神様が与えてくださる」と書かれていた言葉が、あたしの心に深く突き刺さった。いや、もう信じるしかなかったんだ。悩んでばかりでは、借金も人生も解決しないからね。聖書の言葉に背中を押され、あたしは新たな一歩を踏み出すことにした。

その一歩とは、《大江戸東京》から《小江戸川越》への出稼ぎだった。なんてったって、あたしには他に選択肢がなかったんだ。東京での生活はもう無理、だから川越での新しい生活を始めることにしたんだ。

あたしが川越に到着した時、江戸の匂いが漂う街並みが迎えてくれた。時代がかった建物、風情のある石畳、まるでタイムスリップしたような気分だった。仕事は決して楽じゃなかったけど、ここでの日々は何か新しい希望を感じさせてくれた。毎朝、日の出とともに起き、仕事に励む日々。辛いことも多かったけど、その分達成感もあった。

それに、川越の人々は温かかった。町の人たちはみんな、あたしを家族のように迎えてくれた。そんな優しさが、あたしを支えてくれたんだ。借金返済への道のりはまだまだ長かったけど、あたしにはもう一度立ち上がる力があった。

神様の言葉に救われ、川越の人々に支えられ、あたしはもう一度、生きる希望を取り戻すことができた。人生って、本当に何が起こるかわからない。でも、その中で見つけた小さな光が、あたしを救ってくれたんだ。これからも、あたしはこの光を信じて歩んでいくつもりだ。

さて、次はどんな冒険が待っているのかしらね。人生って、本当に面白いものだと思う。これからも、あたしの物語は続いていくんだから……

自分の命のことで何を食べようか何を飲もうかと心配したり、体のことで何を着ようかと心配したりするのはやめなさい。命は食べ物以上のもの、体は衣服以上のものではないか。空の鳥を見なさい。種まきもせず、刈り入れもせず、倉に納めることもしないが、あなたがたの天の父は養っていてくださる。あなたがたは、鳥よりもはるかに価値があるではないか。あなたがたのうち、誰が思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか。だから、『何を食べようか』『何を飲もうか』『何を着ようか』などと言って思い悩むな。天の父は、これらのものがみな、あなたがたに必要であることをご存じである。だから、まず神の国とその義を求めなさい。そうすれば、これらのものはすべて加えて与えられるであろう。
だから、明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日が思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である

[マタイによる福音書]

出稼ぎ前


出稼ぎ後


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常日頃から並々ならぬお心遣いをいただき感謝いたします。これからも変わらぬお引き立てのほど、よろしくお願い申し上げます。