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花見だんごは永遠に【食べログに遺された生の記録・マガジン】

2010年06月01日(火曜日)訪問

Cさんは、突然ひとりで笑い出すことがある。
思い出し笑いの時もあれば、他人の所作を見て可笑しくなっているときもある。どっちなのか分からないので、いつもあたしは感情を交えずに「ナンデスカ」と尋ねることにしている。
以前、頭がおかしくなったのではないかという疑惑を抱きつつ尋ねたところ、どうもそれがばれてしまったらしく、怒った顔で返答されたことがあったからだ。今ではあたりさわりのないカタコトで尋ねるのが無難だと学んだのだ。

また、Cさんが虚空に向かって「ちあきだんご、ちあきだんご」とうわ言のように呟いているのを何度か耳にした。あたしに向かって話しているのではないことが明らかだったので見て見ぬふりをしていたが、あまりに気になるので、先日ついに勇気を出して尋ねてみた。

Cさんの日常会話は、主語をすっとばしていきなり述語を繰り出したり、5W1Hのどれかが抜け落ちていたり、指示代名詞を多用するので、テレパシーでも使わない限りしつこく聞き直さないと真意がわからない。名詞をぽーんと投げつけられても、前後の文脈がないので推測することも難しいのだ。

ところで、この「ちあきだんご」という単語から、Cさんが何を所望しているのか大体わかっていたのだが、話したいという素振りがミエミエだったので、何も知らない純情そうな顔をして尋ねてみたのである。

「チ、アキ、ダンゴ?」
「うん、ちあきだんご」
「これ、おいッ~しぃンだから」
「買ってようかしら」
「ドコデ買エルノデスカ」
「う~ん、どこだっけかナ。あっちのほう行けばあるかも、ね」
「アッチ……」
「うん、あっち行ったときネ探してみる、おいッ~しぃンだから」

その後、所用で鴻巣に行くことがあり、その車中で「ちあきだんご」の話で盛り上がったことは云うまでもない。たまたま同乗していたY氏が「ちあきだんご」の店を知っていたので、すぐにお店が見つかり事なきを得た。出来たてのだんごをお土産用に沢山買い、早速車中で食べた。

あたしは普段、だんごなどの和菓子を好んで食べるほうではないので、自らの意思でだんごを買って食べることはまずない。間食の習慣もないので、茶菓子なども滅多に食べないし、もち米も特別好むわけではないので、赤飯やおこわなども進んで食べることはまずない。しかし、そんなあたしが久しぶりにうなってしまっただんごだった。

子供の頃、よくだんごを食べたものだった。花見の時に頬ばっただんごの味と食感は今でも鮮明に思い出せる。あんこ、しょうゆ、ずんだん、とても美味しかったなあ。でも、この千明だんごは、子供の頃に存分に味わったあのだんごより格段に美味しかった。

まず、搗き立てのお餅のような柔らかさと食感があり、少し焦がしたところに絶妙の醤油だれが絡んでとてもグゥ~だった。大切なお客様へのお茶受けや贈り物に最適。きっと喜ばれる一品になるのではないだろうか。

千明だんご@北鴻巣店



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