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#人が死ぬ

林檎破殺拳 THE RED FIST

林檎破殺拳 THE RED FIST

【以前、カクヨムで行われた第一回アップルパイ(恋愛)文学大賞に参加した際の作品です。】

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 扉を開くと紫煙が主より先に出迎えた。
 書斎で男は机に向かっていた。解きかけの新聞のクロスワードパズルを隠しきれなかったのは、俺が突然入ってきたからだろう。視線を上げるなり男は煙草を落としかけた。
 俺は構わずビニール袋を投げる。
 袋が放物線を描く。ペルシャ絨毯にワンバウンドする。袋の中身が転がった

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林檎破殺拳 THE RED FIST【第1話のみ】

林檎破殺拳 THE RED FIST【第1話のみ】

 扉を開くと紫煙が主より先に出迎えた。
 書斎で男は机に向かっていた。解きかけの新聞のクロスワードパズルを隠しきれなかったのは、俺が突然入ってきたからだろう。視線を上げるなり男は煙草を落としかけた。
 俺は構わずビニール袋を投げる。
 袋が放物線を描く。ペルシャ絨毯にワンバウンドする。袋の中身が転がった。
 女の生首だった。眉間に穴をあけ、女はひどく曖昧な表情を浮かべている。男が驚いている間にも冷

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ミュータント男子とジップガン

ミュータント男子とジップガン

 幼なじみの和矢がミュータントになったのは小学生の頃だった。
 私の家のすぐそばには裏山があった。その日は流星群の話で持ちきりで、山の上で何十分も前から空を見ていた。
 紫色の大きな光球が夜空を裂いていったのを覚えている。きれいだった。テレビで見た北極のオーロラよりも、どこかの王家の秘宝よりも何倍もきれいだった。
 それを和矢と見られたのが、なによりも嬉しかった。
「すごいね」
 私はそう言ってい

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The Asaxas Chainsaw Massacre-01-

The Asaxas Chainsaw Massacre-01-

偶然、上野でパンダが焼け死んだ。
偶然、隅田川がプランクトンの繁殖で血の色に染まった。
偶然、浅草駅に散った酔っぱらいの吐瀉物が「666」をかたどった。
偶然とはねじれにねじれ、必然に行き着くもの。
8月26日、東京都内の演芸ホールでは群発的に巨大殺戮が行われていた。
江戸川区、文化ホール。
「ヒハハハハ!まだまだ逝くぜ!!」
生首を片手に男が叫ぶ。破れ扇の袴がはためく。
池袋では無残に肉塊が転び

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【完全版】魅々子です。またお菓子を作りにきました。

【完全版】魅々子です。またお菓子を作りにきました。

前に逆噴射プラクティスで書いた話の完全版です。

魅々子 ミュージカル部の狂人。大好きな杏子先輩に会った時の照れを隠すため鉄仮面を着けている。お菓子作りが好き。
杏子先輩 ミュージカル部の麗人。魅々子の憧れの先輩。歌と演技が卓越しているため部長に推薦された。

あらすじ

お菓子作りにハマった魅々子は、「分子ガストロノミー」を手に入れるため、国内の研究機関の9割を爆破した。

しかし、学者の一人か

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魅々子です。お菓子を作りにきました。

魅々子です。お菓子を作りにきました。

 秋風が吹く深夜の住宅街。大音量のJ-popが虫たちの眠りを覚ます。騒音はアパートの105号室、ブブ崎の部屋からだ。彼はいつも通り女とソファに腰掛け、ボボ谷とベベ村をフローリングに座らせていた。

「ナァ!昨日でいくらよ。」

 ブブ崎は空のビール缶片手に、ベベ村の方を向く。ベベ村は自己肯定感の低そうな笑みを浮かべながら答える。

「き、昨日は3万でした……。な、なんか高校生はあんま金持ってないみ

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あたしの家にスカルライダーが転がり込んできた

あたしの家にスカルライダーが転がり込んできた

「ねー、やめてくんない?学校まで迎えにくんの。」

コイツはスカルライダー。ウチの最悪の居候。
懲りずに校門前に停めてやがった。今日のあたしは目力強めで言ったけど、コイツは顔色一つ変えない。てか、顔色あんのか?
取り敢えず、あたしはコイツに聞こえるくらい舌打ちをかまして、別の帰り道を選んだ。

そもそも出会いが最悪だった。一年前の今日、つまりあたしの誕生日。
あたしは買ったピノ

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【上】バルモラル城における色素復元大会とその顛末

【上】バルモラル城における色素復元大会とその顛末

スコットランド──バルモラル城には雨が降っていた。

「次の題に移る。」
山高帽の紳士は何事もなかったかのように口を開いた。

今、彼の眼前には白装束の男が4人座している。うち2人は首が無く、それは側に立つ鉄仮面の男による仕業だというのは誰の目にも明らかだった。

全ての飲料が透明になって久しい現代。元の飲み物の色を知る者は誰一人として存在しない。

そのため色素復元者(リノベーター)は、

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【下】バルモラル城における色素復元大会とその顛末

【下】バルモラル城における色素復元大会とその顛末

コウチャ……かつて世界で愛されたこの飲料も、今では名ばかりが残っていた。

匂いこそ当時のままであれ、色なき色を彩るのは常人にとって不可能であった。

しかしキリンジは勝利を確信していた。彼にはサイバネ改造した左腕があったのだ。これさえあれば正解が発表された瞬間にサイバネチューブから当該色素を投入すれば良いのだ。

「サイバネがある限りお前に勝ちはない…。どうする……?」

対するツェペリは

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