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The Asaxas Chainsaw Massacre-01-


偶然、上野でパンダが焼け死んだ。
偶然、隅田川がプランクトンの繁殖で血の色に染まった。
偶然、浅草駅に散った酔っぱらいの吐瀉物が「666」をかたどった。
偶然とはねじれにねじれ、必然に行き着くもの。
8月26日、東京都内の演芸ホールでは群発的に巨大殺戮が行われていた。
江戸川区、文化ホール。
「ヒハハハハ!まだまだ逝くぜ!!」
生首を片手に男が叫ぶ。破れ扇の袴がはためく。
池袋では無残に肉塊が転び、江東区いきいきカルチャー劇場には無言の死が。国立市公会堂を覗けば銃殺、惨殺、大爆殺。軍靴がホールを踏み荒らす。
そして、噺家の聖地、浅草クススでも……。

これは7人の落語家の身に起きた悲劇の物語である。
柳平と嵐平次、落語家たちの運命が一層哀れさを感じる。
だが、たとえ彼らが長生きしなかったとしても、かくもおぞましき恐怖の体験はのぞまなかったろう。
彼が帰ってきた夏、寄席は悪夢へと転じた。
その出来事こそ――江戸落語史上最も異様な犯罪の一つ――浅草チェーンソー大虐殺だ。

ひたすらに話し続ける。
三方をコンクリート壁で囲まれ、鉄扉で閂された八畳間。それが柳平の世界だった。
白髪と髭は伸びきり、鬼を彷彿とさせる。白熱灯が点き続けているせいか眼は異様な光を放っていた。
「心眼かい」
不意に、扉の向こうから声が聞こえた。
ひたすらに話し続ける。
柳平がその日噺に選んだのは、たしかに「心眼」だった。
だが、柳平は確信している。この八畳間に訪れた人間はひとりとしていない。年月の長さは壁に刻まれた夥しい数の正の字が証明していた。そう、現実ではない……一度ならば。
ここに来たのはいつだか覚えていない。ただ、己が噺家になりたての時から柳平はこの場所で過ごしてきた。
寄席こそ生きる場所ではないのか。飼い殺しではないのか。
否。
断じて違う。待ち続けているのだ。磨き続けた噺を、寄席で披露できるその時が来るのを。
「心眼かい」
扉越しの二度目の問いかけ。来た。声は己の幻聴ではないことの証左だった。
柳平は初めて噺をとめた。
「へい」
「心眼は人の心を見抜く話だな。桜柳平......、お前には私が見えてるか。」
「......落語協会会長。」
「ほお、その心は。」
「芯が通った声です。きっと同業に違いねぇ。そんでもってお若いのに腹の据わった匂いが扉の隙間からしやす。」
「流石だ。」
鉄扉に空いた配膳口から紙片が放り込まれた。柳平はそれをうやうやしく拾う。
「落語協会会長 瑞相亭京馬」とシンプルな書体で書かれていた。
「お前を寄席に出すか試す。」
ついにこの時が来た。
目覚めたら一画ずつ壁に刻んできた正の字は2191個と三画目。ちょうど三十年経っていた。
己の予感は間違っていなかったのだ。
師匠は「噺家は24時間練習しなくちゃなれねぇ」と口を酸っぱく言っていた。
だから、いつも気絶するまで練習してきた。目の眩む膨大な月日も、噺の完成には短く足りなかった。
落語の神様は柳平の献身を見ていたのか。
がちゃん、と鍵が鳴る。
寄席に出る夢を何度も見た。寄席のためなら擦り切れた畳も座布団と変わらない。
鉄扉が開く。
目の前には、紋付袴の若い男がいた。彼が瑞相亭京馬だろう。そして両脇には包帯を巻いた見習いが二人。
そして、もう一人。
その男には目隠しと猿ぐつわが施され、体は簀巻きにされていた。
「夜薙屋嵐平次一門だ。」
「夜薙屋……ランページ?」
京馬は語りはじめた。
「お前があなぐらにいる間、落語界は大きく変化した。まず、私が会長に就いた。そしてそれを見越したような夜薙屋一門の独立......。嵐平次が率いる夜薙屋は裏落語家だ。」
「裏……、なんですって?」
「裏落語家。奴らは落語で人を殺す。」
京馬の眼が柳平を見据える。年齢が二回りも違う相手の柳平に有無を言わせぬ気迫があった。沈黙が過ぎる。
「噺の世界は語りが骨となり、見立てが肉となる。一流の落語家がその力を暴走させたら、どうなるか。現に我々、落語協会は味わっている。」
合図をすると、弟子の一人が鞄から紙袋を出した。京馬が開くと、強烈な血の匂いが鼻を突く。赤黒くなった着物や扇子の骨が押し込まれていた。
「このまま放置すれば、噺家は暗殺の大発明家になってしまう。桜柳平……。私は落語を暴力の従者に堕落させるつもりはない。」
京馬は柳平に扇子を手渡した。その指はすらりと白く長い。
「明日まで待つ。寄席のために夜薙屋を一人残らず殺れ。」
柳平は扇子を見つめる。骨太で堅牢な江戸扇子だった。
厳格な上下関係をもつ落語界。会長の言葉は絶対である。だが、柳平の心は揺らいでいた。
本当に落語で人が死ぬのか。
血まみれの遺品を目にしても事実として受け入れがたかった。
再び京馬を見る。彼の眼に嘘はない。30年間狂わず、孤独に落語を続けてきた男の覚醒を待つ眼。それは祈りにも似ている。
簀巻きの男を見る。紫の破れ扇の紋付袴にはいくつも黒い染みができていた。これは血だ。この男はやはり人殺しなのだ。殺すに値する人間。
いや。
柳平の頭に可能性がよぎる。
この男がもし醬油さしをひっくり返しただけなら......。
あり得ない。
疑念と覚悟がせめぎあう。
殺せ!
待て。
殺せ!
嫌な予感がする。
殺せ!
殺せ!
殺せ!!!!!
.............。
いつのまにか固くつぶっていた目を開く。
柳平の眼に覚悟が宿っていた。
京馬は頷くと、見習いに猿ぐつわを解かせた。
「言い残すことは」
「もう半分……。」
柳平は深く息を吐き、呼吸を整える。水平に扇を構えた。
すべての運を使い切ったっていい。俺のために死んでくれ。
「頼む......。」
垢で黒くなった指に力を込めた途端。
男の息が荒くなる。小刻みに二、三度震えると、男の顎が天井を向いた。
男は死んだ。


雷門通りをセダンが抜ける。
「寂れた......。」
ハンドルを握る見習いが、バックミラーを見る。
黒い袴に、黒い帯をまとった老人がひとりごちる。その表情は哲学者のような陰りがある。桜柳平の箒のような髭は綺麗に剃られていた。
「師匠が厳戒態勢を敷いたからですよ。」
助手席の見習いが、頭の包帯を掻きながら答える。
路端に立ち並ぶ商店に光は灯っているが、人通りはない。夜の浅草は、久方の静寂に包まれていた。
浅草一帯に京馬は夜間の出入りを禁じた。それは、住民を守るためというより、夜薙屋を狩る目的の方が大きいようだ。
「会長を守んなくていいのかい」
「ええ。会長は先にセーフハウスへ行きましたから。その方がのびのび狩れるでしょう、幽閉さん?」
「幽閉さん。」
30年間、柳平が演芸会場「浅草クスス」に閉じ込められていた事実が歪み、「幽閉さん」なる噂が生まれたのだという。
「もとより今のあなたは噺家ではありません。裏落語家を狩る狩人です。」
助手席の見習いが微笑んだ。
「柄でもねえ……。」
柳平は景色を目で追う。何度も通った雷門、マクドナルドの紙袋が落ちている路面。埃っぽい空気。30年の歳月は、浅草を既知と未知のパッチワークに変えていた。
「外が気になりますか。」
「ずっと地中だったからなぁ」
「まるでセミですね」
「一週間、寄席で喋り倒して死んでやるよ。」
車内で笑ったのは、運転席の見習いだけだった。
「怒らないんですか。」
助手席の見習いが訊く。
「俺はのんきだからなぁ。それに噺家じゃない奴を怒っても仕方ねぇ。それにあんた、会長に雇われたボディガードだろ。」
「気づいてましたか。」
見習いは頭をかいて答えた。
「30年独房でも噺家かくらいはわかんよ。」
「幽閉さん......。あなたを見くびっていたかもしれない。じゃあこの車の行く先も?」
「銭湯だろ。」
「その通りです!それも匂いで?」
「カーナビだよ」
ナビは、馬道通り「菊の湯」を指定していた。目的地まで800メートル...。
見習いは肩をすくめると、後部座席に顔を向けた。
目的地まで900メートル...。
「本題に入りましょう。」
目的地まで1キロメートル...。
「なんだい」
「到着する前に目を通してもらいたいものがあるんです。これは──」
弾けるような乾いた音がした。見習いが、懐に手をいれたまま固まる。首から血が流れだす。火薬の匂いが充満する。
助手席の見習いはひゅーっひゅーっとふいごのような音を出していた。
「うっせぇ〜〜〜ナァ〜〜!」
さらに破裂音。破裂音。
運転席から黒い銃口がのぞく。突然の見習い同士の殺し合い。しかし、柳平にうろたえる様子はない。むしろ合点がいったような様子だった。
「『もう半分』ってのは……なるほど。」
夜薙屋が残した言葉、「もう半分」。それは落語の演目だった。そしてその内容は......。
「老人が「生き返る」」
「ハハハハハ!!気づくのが遅かったなァ、お師匠ォ~~~~~~!!!」
バックミラーに映る見習いの眼に狂喜が光る!アクセルべた踏みのセダン急加速。柳平の体が磔になった。
目的地まで1.5キロメートル、2キロメートル。目の前にコンビニが迫る。衝突する寸前にドリフト。路地を稲妻のように縫い大通りへ。車内はかき混ぜられ柳平はミキサーの中身になった。
「いってぇ。俺に何の用だい」
「決まってら!俺と裏落語勝負だよォ。その前に質問だァ!」
見習いはハンドルを切ると、車体が滑る。大通りのど真ん中で無理やりな方向転換。
「ひとォ~つ!なんであんたは京馬の前で俺を殺らなかった?」
「俺に殺しの技なんてないからだ。偶然でここにいんだよ」
「嘘にしちゃ出来が悪いぜお師匠。あんたにゃとっておきの噺があんだろォ」
「心眼か」
「とぼけんなァ!!!」
柳平の返答を食うようにしてセダンの速度が上がる。さらに体が座席に食い込む。
柳平は再び見習いの顔を見る。その表情は、京馬に近侍していた時とは打って変わり、信じていたものに裏切られた人間特有の凄まじい歪みが浮かんでいる。
「あんた覚えてんだろ?30年前の今日、客がぶつ切りにされてたのを!あんたの手で!」
「俺が……?」
「本当に忘れちまってんのか」
柳平の閉じ込められる以前の記憶はおぼろげだ。それでも人を殺していればいくら柳平でも身に覚えがあるはず。
見習いは鼻を鳴らす。失望混じりの嘲笑だった。
「畜生......、畜生畜生畜生!!!もったいぶってるだけと思ってひと芝居打ってやったのに大外れでェ!俺ァ、嵐平次の旦那より強ェ奴と戦えると思ったのによォ〜〜!!もういい!てめぇは墨田区でテキトーにブチ殺す!」
急カーブをいとも簡単に曲がると、車は浅草通りに出た。このまま真っ直ぐ行けば橋を渡り、墨田区へ渡る。すなわち、落語協会の管轄から抜け、柳平の命の保証は一切なくなる。
カーブで減速したセダンはぐんぐんと加速する。無人の浅草で暴走を止める者はいない。
「メンドクセー真似させやがってェ……。てめぇは俺のハサミでボロキレにしてやるチクショおっ!?」
突然セダンが右に曲がった。柳平はドアに押しつけられた刹那、血まみれの手が、ハンドルを右に逸らしているのを見た。虫の息のもう一人の見習いだった。
次の瞬間、制御を失ったセダンは車止めを破壊しながら、天地を逆転させた。天井と路面が迫り、血が逆流する。衝撃。柳平の意識は途切れた。


目が覚め、柳平は体を動かす。指、腕、脚と順に確認する。打ち身の鈍痛で骨が軋むが問題はない。
あの狂人はどうなったのか。運転席を見やる。シートには鉄パイプが貫通していた。転倒した際に標識の一部が刺さり、座席の中央は赤黒く染まっている。
先端は柳平の額5センチ前で止まっていた。
「あっぶねぇ......。」
安堵したのも束の間。車内にはガソリンの臭いが充満していた。さっきから聞こえる液体の音からして時間に猶予はない。
柳平はシートベルトを外す。助手席の見習いを助けなければ。軋む骨に無理を言わせ、窓から這い出た。
「今出してやるからな」
柳平が助手席を覗く。空っぽだ。運転席に貫かれた見習いの死体があるのみで、どこにもない。
「先に逃げたのか」
セダンが炎に包まれた。逃げるように柳平は車道に転がる。
その時だった。
ヴオンンンヴオンンン
夜闇から腹に響く新たなエンジン音。
ヴオンヴオンヴオンヴオンンン
立ち上がり目を凝らす。
白いポルシェが炎を反射する。ヘッドライトが柳平を照らした。
「お前ェ!!落語の神サマに愛されてんだな!でも俺の方が愛されてんぜェ!!」
聴き慣れた怒鳴り声は、首に穴の開いた助手席の見習いの顔からしていた。どこで見繕って来たのか青紫の袴を纏っている。
身を隠さねば。だが、30年牢にいた自分の体力ではポルシェから逃げられない。立ち向かうにも先程の衝突で意識は朦朧としていた。
死にたくないが、覚悟を決めるしかない。
柳平の運命は、この浅草通りで決まった。
結局、京馬の前で見せた芝居も、変わり果てた浅草の街を見るだけで終わってしまった。
柳平は扇子を取り出す。
黒い袴に、黒い帯、黒い羽織。狩人なんて言われたとはいえ、噺家として死にたかった。
力を絞り、声を上げる。
「せめて、名前だけ聞かせてくれや!」
「俺の名は夜薙屋轢轢斎!!!!不死身にして地獄の裏落語家!!寄席の夢ごと抱いて死ねやァ!裏噺『神霧』ィ!!!」
言うが早いか、右手の扇子が変質する。ポルシェの突進。ターボが唸り、2.8秒で時速100キロに達した。
柳平は目を見開く。轢轢斎の右手には鋏が握られていた。黒い刃がアスファルトすれすれにまで伸び柳平の首を刈らんとしている。
己が技を見せたのは覚悟を見てとった、轢轢斎なりのケジメの取り方か。
柳平の脳裏に寄席の記憶が蘇る。笑い声と照明。出囃子と拍手。
懐かしさが込み上げる。
──ああ、もう一度。出たかったなぁ。
どっどっどっどどどどうるるるん
記憶が遠ざかり、エンジン音が近づいてくる。
音はすぐそこに。
うぉおおんうおおおんうおおおおん
いや、この音は違う。
ポルシェのエンジンではない。これはもっと自分が知っている音。
「毎度ばかばかしい話をひとつ……」
そう呟くと、柳平の手にはチェーンソーが握られていた。

かくしてポルシェは両断された。
浅草通りに黒煙と炎が立ち上る。
路上には、炎の轍が刻まれている。その先にはポルシェの残骸。
車体が夜のとばりを燃やしていく。
──俺がやったのか。
最後に過ったのは寄席への思慕だった。地下ではハッタリだったとはいえ、今のは違う。
時速100キロで迫るポルシェをこの手で斬ったのだ。
燃える二本線の間に、柳平は立つ。葬儀めいた出で立ちを炎が照らす。皺深い顔は汗と困惑で凄まじい。
再び掌を見た。変わらず扇子が握られている。
「あ、あ、あ」
振り返ると、割れたポルシェから轢轢斎が這い出ているところだった。
男の体は無惨。右半身のみとなっていた。恐ろしい生命力である。
「み、見事……。」
柳平は問うた。
「俺は30年前、何をした」
「寄席でお前は5人の人間を殺した……チェーンソーで。ばっさばっさと」
轢轢斎は柳平の扇子を指した。
「俺の兄弟子も含めて……でも、儂は感謝している。落語のホントの使い方を見せてくれたあんたに。だから儂も裏落語家を目指した」
ごひゅっ、血を吐いたのは笑ったからか。轢轢斎は続ける。
「だが、これから先、お前が会う夜薙屋はそんな奴ばかりではない……、なにせ嵐平次は」
「嵐平次が、なんだ」
柳平が側に寄るも、既に正気の光はなかった。
轢轢斎は譫言を吐くばかり。
「毎度お話をひとつ。俺は魚屋だった……だから天才には勝てない……勝てないなら時間さえありゃいいって気づいたんだ。」
轢轢斎の眼はあらぬほうを向いていた。
「時間が無限なら……才能は老衰で勝手に死ぬ。でも俺は無限に練習して上手くなれる……どうよ……天才だろォ」
「……練習の先に何があった。」
「天才だろォ」
轢轢斎が事切れる。ゆるんだ口から何かが転げた。柳平がつまみ上げる。ウオノエだ。おそらく、この男は魚に寄生したウオノエを自分の舌に住まわせたのだろう。そして意識を預け、寄生先を変えて生きながらえてきた。
「落語の神、見破ったり......。」
柳平は炎に投げ入れた。
憑物が取れた右半身は、元の見習いの姿を見せる。首の銃痕が痛々しい。
「すまねぇな。」
ふと、見習いが撃たれる寸前の言葉を思い出した。
──到着する前に目を通してもらいたいものがあるんです
懐を探ると、一切れの紙を見つけた。
柳平はおもむろに開く。

全支部各位
以下5名夜薙屋一門を見つけ次第、本部まで連絡のこと。

〈夜薙屋嵐平次〉
袴……花浅葱
齢……57
十八番…『子別れ』
夜薙屋一門の頭目。浅草クススの防犯カメラに書状を置く姿を確認されてから行方がつかめず。書状には「一門独立」と書かれていた。

〈夜薙屋轢轢斎〉
被害.......見習い40名,二つ目6名,真打3名
袴...........青紫
齢...........24
十八番...『らくだ』『紙切り』
江戸川区文化ホールにて目撃。鋭利な刃物を所持している。会場に並べられた首の一つから「一門独立」の書状を確認。

〈夜薙屋金烏〉
被害……二つ目12名,真打8名
袴………鉄紺
齢………45
十八番...『王子の狐』
池袋演芸館にて目撃。会場は血と肉が埋めつくす状況。特に真打の被害が大きい。血文字で緞帳に「一門独立」と書かれているのを発見。

〈夜薙屋芬弥〉
被害.......およそ120名
袴...........銀鼠
齢………38
十八番…『強情灸』
江東区いきいきカルチャーホールにて目撃。現場に変化はなく、寄席の座布団の上に「一門独立」の書状を発見。

〈夜薙屋えつぼ〉
被害……見習い80名,二つ目20名,真打10名
袴……牡丹
齢……???
十八番…記載なし
目視での確認できず。現場に落ちていた袴の切端、食べかけのあずきバーなどから国立市公会堂の犯人と断定。近隣住民からロケットランチャー所持の情報。シール付きの封筒から「一門独立」の書状を確認。
尚、見つけた場合は交戦は控え、直ちにその場から離れ生命の保持に努められたし。

柳平は懐にしまう。
己の所業を事実として受け入れる覚悟はできた。
俺が裏落語を生み出した。それが正しいならば、やることは一つ。夜薙屋の殲滅だ。
そのために解き放たれた。
そのためのチェーンソー。
柳平は脚に力をこめ、浅草通りをよたよたと歩きはじめる。
行き先はただ一つ。
夜薙屋のもとへ。

【続く…かも?】

【2021/7/2追記】一話からリニューアルして完結しました。以下のマガジンにまとめています。

ここに送られたお金は全て電楽のビスコ代として利用させていただきます。