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第一話 落語家大襲撃【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】#絶叫杯
偶然、上野でパンダが焼け死んだ。
偶然、隅田川がプランクトンの繁殖で血の色に染まった。
偶然、浅草駅に散った酔っぱらいの吐瀉物が「666」をかたどった。
偶然はねじれにねじれ、必然に行き着くもの。
8月26日、東京都内の落語家が群発的に襲撃された。
最初に気づいたのは台東区にある落語協会ビル6階、会長室へ向かった秘書の倉田だった。
倉田は目の前の光景が信じられなかった。紫の紋付の男が
第二話 灼熱血気遊戯【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】
「芬弥サン!やべーよ!」
前座の一人、テツが叫ぶ。
芬弥と呼ばれた男が顔を上げる。体は筋肉質で肌は透き通るように白い。鼻は高く、顎は荒く削った岩のよう。全身にスラブ民族の気高さを誇っていた。
ここは銭湯、菊の湯。ひと仕事終えた後は必ず芬弥は見習いたちを連れ、この湯に浸かりに来ていた。
「師匠をつけろ。バカヤロウ」
短く刈り上げた銀髪をかきあげ、水滴が飛ぶ。
「だって!あんなにバタバターって
第三話 銀座線ラプソディ【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】
陽気な太鼓と三味線の音がこだまする。
出囃子が鳴り始めた。
柳平が重たい瞼を開く。
今日はなんだったか。先輩の噺家が柳平の体を揺らす。
「おめぇ、なに寝ぼけてんだ。次は、二つ目のお前の出番だろい」
おおそうだった、俺は二つ目に上がったんだ。
急いで身支度を整え、舞台袖に向かう。後ろから声がした。
「リュウ」
「蘭満……」
「本当にあの噺やるのか」
あの噺とは、なんだろう。疑問の前に口
第四話 チェーンソーの血脈【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】
黒の袴姿が、亡霊のように改札を抜けていく。
浅草駅は静まりかえり、昼間の人だかりが幻のようだった。
だが、柳平にとってそれは幸いだった。今、柳平は抗い難い一つの欲求に囚われていたのだ。
──人を斬りたい
金烏を斬った瞬間によぎった記憶が、ふつふつとよみがえる。肉を裂き苦痛に歪む客の顔は、紛れもなく自分の落語が生み出したものだ。あの時、手に伝わる命の脈動と反応は、寄席で受けた時の何倍もの喜
第五話 嵐と柳【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】
浅草寺を出る際に、柳平は瑞相亭京馬へ番頭の救護を頼んでいた。
程なくして、京馬から着信がかかる。柳平が通話ボタンをタッチする。
「私だ、柳平。今どこにいる」
「また浅草国際通りまで来ています」
「そうか、えつぼの死亡はこちらで確認した。番頭の方も大事には及ばないだろう」
「そいつぁ良かった」
「それから、夜薙屋金烏の方も確認した。啜木四天ならびに前座くずれの死亡もだ。派手にやってくれたな」
「
第六話 五人目の独白【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】
時刻は午前11時を回っていた。
太陽が中天に輝き、外は夏のうだるような暑さを一層強めている。しかし、浅草クススの空調設備は、それを感じさせない。たとえ今のように500席満員であっても、快適な温度調整を実現している。
だが、会場は張り詰めた雰囲気を放っていた。客が普段とは異なっているためだ。袴姿にジャージ姿、普段着の者もいるが、全員が落語協会関係者だった。
夜薙屋一門による難を逃れたいま、瑞
最終話 THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE【THE ASAXAS CHAIN SAW MASSACRE】
暫くの間、お付き合いのほどをよろしくお願い申し上げます。
今日はすこぶるお天気も良くて、散歩にはうってつけのお日柄でございますね。ただ、気温もグッと高くなりますから日射病には気を付けていただきたいもんです。……まあ、このナリのあたくしが申すのも変な話でしょうがね。
おやおや、どこにいかれるんですか。はばかりに行かれるのでしたら、申し訳ございません。会場は全て裏から閂をさせていただきました。