ある大人びた子、優等生の事情: ヤングケアラーの場合
幼稚園を卒園して、小学校に上がるのは、子どもっぽいことが嫌いな私にとって、喜びでした。
幼稚園は好き。先生たちも大好き、お友達もいる、幼稚園には何種類か動物を飼ってる飼育小屋がある。先生達と園児で立てたトーテムポールが幼稚園の一角に馴染んでいます。そして、登り甲斐のある、園庭の木々。
ある日、そんな園内にHな本が投げ捨ててあり、お友達と「いつも無いものがあるから、先生に言わなきゃ」と話し合い、届けてなぜか叱られました。「Hである」ことが4歳には難しいので、先生怒らないで……。
懐かしい思い出があります。
制服もいい。
けど、スモッグは嫌なわけです。
子どもっぽいから!
1980年代の、新興住宅地に新しく建造された小学校。その最初の1年生がたまたま私たちの学年でした。明るい灰色のコンクリート製の小学校。空はより明るい灰色で、ライトグレーに曇っている。それらを背景に、風に吹かれる校庭の桜の枝に、まだ桜の花が残っており、明るい灰色の景色に幻想的なピンクのアクセントを加えます。
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そう期待を抱いて小学1年生になってみると、アナログ時計のミニチュアなどが含まれた、「お道具箱」で、むっとするわけです。
「おもちゃみたい。デジタルの時計があるのに、へんなの」
もちろん、アナログ時計は角度や形で理解できるから、重要です。
あるいは、国語の教科書などでローマ字一覧があり、世界の秘密を見つけたかのように思いました。「これで ガイコクゴ わかるよ!」
いいえ、ローマ字表記は日本語です。まだ外国語の概念を理解していませんでした。そんな小1の春。
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けれど、わずか2年後の小学校3年生になるとだいぶ分かるようになります。
ある時友達に、「源氏物語読んだ?」と尋ねられて、僕は小学校の図書室に頻繁に通い、ジャンルを問わず読む子だったから、当たり前だよ、何言ってるの? というニュアンスで、「読んだ」と答えました。友達は怪訝そうにしてました。
彼は中学生のお姉ちゃんがいるので、お姉ちゃんの教科書などで古文に触れていたのでしょう。また源氏物語の現代語訳も、小学校3年生には難しいので、彼はそのことを話したかったわけです。彼はマウンティングしたいわけじゃなくて、言葉が足りなかった。
対する私は、古典の概念がないので、自分の知っている範囲で答えるから、小学校の図書室でそういうタイトルの本は読んだけれど、「よく分からなかった」くらいの感想しかなくて、こちらも言葉が足りません。
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小学6年の冬、我々遺族にとっては突然、父が自死しました。
父方の親族の強い希望で、通夜と葬儀を我が家で行いました。その際に、親族が我が家に集まり、多くの大人から「お母さん大変だから、長男のお前がしっかりしろ」と言われ続けました。
昔のことですし、大人たちはそういう文化で生きています。私自身、言われなくてもそうします。だから、特に負担には感じませんでした。けれど、周囲の大人の8割位から圧をかけられるのは、楽しい記憶ではありません。
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小学1年の冬に、父が鬱病で倒れ、6年、彼の療養を支えて亡くしました。私の努力は無駄だったかのような、複雑な喪失と疲れがありました。母は、さらにです。
父の受けた医療は、例えば睡眠障害の熟眠困難の訴えに、母に説明なく、何度も電気ショック療法を行うなど、私には理解しにくいものです。
だから、母が当時の医療に怖さや不信感を抱くのは無理もないことでした。
父を亡くして、母も弱っていく。おそらく、あの頃の母は鬱病に分類される傾向があるけれど、専門家の助けを借りられない。母は本を読み、半ば壁に話すように、私に無念なことを話し、ナラティブアプローチを意識せずに行い、回復しました。
それは凄い努力だと精神専門の看護師さんが、レスポンスをくれたことがあります。彼らは、私からより具体的に聴いているし、経験も専門性もあるから、時を越えて分かってもらえてありがたかったです。
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我が家は、早生まれで学年で四つ、年齢で五つ下のきょうだいがいます。父に続けて母まで失うことはダメだと、12歳から14歳にかけて、子どもの限界まで「大人」として聴きました。
言葉にする力と共感能力の高い子が、プロでも代理受傷することを、家族として私がやるしか無いとはいえ、無理をしすぎです。
あの頃、子どもとしての限界に加えて、「従姉妹のお姉さん達の世代が、聴けば分かってあげられるのではないか」と、少年として無力感も抱きました。
「40代前半の女性の理不尽さや悲しみを、子どもが受け止めるのは性別関係なく、限界がある」と、あの頃は分からず、自分を責めました。
責めなくていいと気づいたのは、大人になって時間が流れてからでした。
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あとがき
この文章は不幸自慢ではなく、しっかりするのは大人だけで良いし、緊急時だと理由をつけて子ども時代を取り上げないであげてほしくて、書きました。残念ではあるけど、不幸とは思っていませんし。
頑張りすぎてる子、読者さんの周囲にもいると思うから、知識があれば気付きやすくなる。
そして、子ども時代が「戦場」だった方は、どんな困難をお持ちか分からないし、私は支援する専門性が無い。だから、お役に立てないかもしれないけれど、あなたが生き延びるためにどれほど努力し多くを失うか想像できる者が、ここに1人いることを、言葉にして置いておきます。
何の足しにもならなくても、気休めになれば嬉しいです。
全ての方へ、読んでくださってありがとうございます。
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