「なぜそうプレーする必要があるのか?」『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座 技術編』 「はじめに 監修者ジョアン・ミレッ」 を全文公開
ご好評をいただいておりますロングセラー『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』(ジョアン・ミレッ監修、倉本和昌著)の第二弾はGKの"技術"にフォーカスします。
技術編と銘打った今回は、ポジショニングやセービング、1対1の型などジョアンが30年以上GKのプレーを分析して導き出した秘伝の技術指導メソッドを大公開!
『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座 技術編』(ジョアン・ミレッ監修、倉本和昌著)は5月20日より順次書店へ並びはじめます。
本日は「はじめに 【監修者 ジョアン・ミレッ】」を発売に先駆けて全文公開です‼
『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座 技術編』
著 倉本和昌
監修 ジョアン・ミレッ
ページ数 192
判型 A5判
定価 2200円(税込)
出版社 カンゼン
発売日 2022年5月20日
ISBN 978-4-86255-642-4
はじめに 【監修者 ジョアン・ミレッ】
自分が考えてきたことが文字として表現され、本になるというのは非常に光栄なことです。しかも自分が愛してやまないGKについてのものであり、おまけにスペインではなく日本で出版される。この本も、私にとっては決して小さくない遺産といえます。
自分の考えをすべて出してみるというのは、少し恥ずかしいところもあります。どう思われるんだろうと気になるからです。今回も、KAZU(倉本和昌:著者)に協力してもらいながら、読者の感情を察しながら真実を語っていきました。
アメリカの有名な作家であるスコット・フィッツジェラルドの言葉を借りるならば、「なぜ?」「どうやって?」「なんのために?」という問いに対して私の答えを考え続けてきました。つまり、「失敗体験を共有するほうが、成功を共有するより素晴らしい!」と。もちろん誰かの成功、成果に対して賞賛することは素敵なことです。しかし、私の場合この本を書くことができたのは、散々失敗してきた過去があったからなのです。
間違った技術アクションはなぜ起こってしまうのかという分析を進めることは、最終的に成功につながる行為だと思います。
ただし、理解することは私にとって重要ではありません。それよりも、この機能はこう作用する。なぜならば~と説明できる理解したものを伝えて、選手ができるようにならなければいけないからです。
「なぜそうプレーする必要があるのか?」
私はこの理論を作り上げていく中で、試行錯誤を続けてきた成果がこの本になります。それは私一人ではなく、ともに戦ってきたGKたちのおかげでもあります。彼らは私の考え、メソッドを信じて実行してきてくれたわけですから。
これは私の2冊目の書籍になります。買ってくださった読者を失望させないことはもちろんですが、これまで私を信じてくれた人たちの思いを裏切るわけにはいきません。そして、私のGKのためにも失敗するわけにはいかなかったのです。
皆さんが進むべき道は、まず自分自身をGKコーチとして高めていくこと、そうすることで監督、他のコーチへより影響力を広げることができます。
GKはただ単にほかの選手とユニフォームが違う、手が使えるだけの存在ではありません。もちろんGKの一面としては正しいですが、フィールドプレーヤーとGKはまったく別物です。プレーの理解の仕方、視点も全く異なります。そういう存在であるGKは、とにかくトレーニングをこなすだけでは理想の状態にたどり着くことはできないのです。
正しい技術を教えるトレーニングメニューはありません。いいですか、一つもないのです。この本の中で紹介している技術について、説明を聞かずにトレーニングをこなしてできるようになるものは一切ないことがわかってもらえると思います。
皆さんは、「技術向上のためにトレーニングをしている」と否定するかもしれませんが、正しい技術は正しい知識と説明から入らなければいけないのです。その土台があって初めてトレーニングができるのです。
この考えに至ったのは何十年と分析し続けてきた私の結論です。そしてその方法が最もGK を助けることになると信じています。これまでプロ選手、育成年代の選手に接してきた中での成果が正しいか間違っているかは、私に関わった選手たちに聞いてください。
では、GKコーチにとって何が必要か? ここはアルバート・アイシュタインの言葉を借りましょう。
「マインド(メンタル)はパラシュートのようなものだ。機能するのは唯一開いたときだけである」
そうなんです。GKコーチとして選手に最初にアプローチをしなければいけないのは、正しい技術発揮の仕方について確信を持ってもらうように対話をすることなのです。知識と明確なプランニングを見せることで選手のマインド(メンタル)は発展していくのです。
さて、私のモチベーションの源泉はなんなのか?
それはGKについての新しい知識を伝えて、「何それ?」と選手を驚かせることではなく、「こんなトレーニングしたことがないだろ?」とサーカスのようなトレーニングで選手を驚かせることではありません。
誰も見ていない部分に着目しているからです。
これまでの長年の経験と重ねてきた年齢のおかげか、プレーを見ていて瞬間的に見抜くことができるようになり、さらにその原因とどうやって改善していけばいいかまで導けるようになりました。これがGKを向上させるプロセスでもあり、特に育成年代のGKコーチは本質的に捉えていないといけない部分です。
GKの何気ない振る舞いや仕草に、その選手の状態が現れます。それがどういう状態かを示すヒントになるので、細かい部分を見逃さずにきちんとキャッチしなければいけません。素直に「今困っているから助けてほしい」と言葉にしないこともたくさんあるのです。
学びを深めるプロセスとして突き詰めたいという情熱は欠かせません。その情熱は選手にも伝わります。ということは、情熱なくして学びを深めることはできないともいえるでしょう。
自分自身で探求をやめないこと。それがすべてのスタートです。
学びはその人の努力や犠牲心だといわれることはありますが、私は「探究したい!」という、内側から溢れる情熱は追求する楽しさが根源だと思っています。
もちろん、これまで私たちに教育を施してきた先生たちは、次の世代につながるように努力することは大切ですと伝えてきたわけです。でも、その努力するというエネルギーはどこからくるのでしょう? それは喜びの感情や情熱、正しい認識からくるのです。
私は以下の3つが非常に重要だと考えています。
1.リスペクト
2.感情のやりとり
3.心に刺さる影響力
これも著名人からの言葉を引用すると「人生とは感情である」と。真剣にトレーニングするのはもちろんですが、笑いがあることはトレーニングにおいて非常に重要だと思っています。まさに感情を共有するスポーツなのですからなおさらです。
GKにとって最もひどいケガであり、最も回復に時間がかかるものは何かわかりますか?
それはメンタルの不調です。
では、脳にはどうやってスイッチが入るのでしょう?
脳が活発になるのは、共同である課題に取り組むときなのです。よって、テーマや課題に対して明確なコンセプトを作り込まなければいけません。それが長い期間モチベーションを高く保つために重要なことなのです。
「明日何をやるべきなのか?」を考える毎日では、モチベーションは維持できません。脳は互いのつながりを求めています。笑いも重要で、それが次の課題に取り組むときのエネルギーになることがあります。笑うことで、脳もよりポジティブに活性化されます。
試合中、重要なものとして注意力ともう一つ、「自分はできる」と信じられる力があります。「そんなの無理!」と思う人はミスが起きたときに改善できません。なぜなら「だって、どうせできないもん」という思考になるからです。
もし、私がこんなに細かいことを考えるのは無駄だ、どうせ意味がない、とどこかで思っていたとしたら、ここまで細かくGKのことを突き詰めることはできなかったでしょう。途中で投げ出してもおかしくないほど膨大な量だからです。
情熱と論理的に考えることの両方が必要です。常に感情が論理を上回ります。そこを理解した上で、正しい知識はその選手にどうやったら伝わるのかを試行錯誤しなければいけないのです。
そして、モチベーションと自分を高めるための日々の向上心。モチベーションだけが高くてもあなたの目標を達成できないのは日々自分を高める努力、つまり向上心がないのが原因です。モチベーションとは「習慣」です。習慣は21日で形成されると心理学者が話をしています。
そうなると段階としては、
構築期:多くの自己犠牲と少しの成果
維持期:少しの自己犠牲と多くの成果
となるのでしょう。では、習慣とはなぜ機能しているんでしょうか。それは自己犠牲、もっといい表現をするなら努力を止めないためです。習慣を変えるには一つひとつを見直し、時間をかけないといけません。いっぺんにすべてを変えるということはできないのです。
もし、よくない習慣を1ヵ月に一つ変えることができて、それが続いていたら私たちの人生は激変しているでしょう。
最後にアメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの言葉を引用させてもらいます。
「もし私に6時間、木を切る時間が与えられていたら、4時間は斧を研ぐに費やす」
私のメソッドは、この言葉が元になっているかもしれません。正しいパフォーマンスの発揮には、理解することに時間を費やさないといけない。そして伝える側のGKコーチが「いつ」、「どのように」斧を研げば、より効果的なのかを知らなければいけないと思っています。
ジョアン・ミレッ
書誌概要
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