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神崎翼の創作小説

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投稿した創作小説をまとめてます。短編多め。同名義で「pixiv/小説家になろう/アルファポリス」にも投稿しています。
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#現代

きのこたけのこ時々アルフォート|短編小説

きのこたけのこ時々アルフォート|短編小説

 きのこたけのこ時々アルフォート。いわゆる戦争の話である。プレッツェルと答えたあなたもその一員。
 無論優劣をつけるのが目的ではない。どちらが美味しいかを議論するのを楽しむ、ある意味宣伝の一つである。人間というのはたくさんいれば自然と争いを生むものだから、争う熱をお菓子を焼き上げる熱に変えたほうがよほど生産的で、価値があり、喜ばしい。
 喜ばしい。
 喜ばしい。
 おいしい。
 やさしい。
 たの

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精肉工場|短編小説

精肉工場|短編小説

※グロ描写注意

 いつも買い物に来ていた、普通のスーパーだった。顔なじみになった灰色交じりの髪をした品出しのおじさんがいて、いつも優しい顔で今日の割引商品を教えてくれた。顔だけ知っているおじさんもいた。精肉コーナーの窓ガラス越しに見える作業所で、眼鏡をかけていつも挽肉を作っていた人。レジ打ちのお兄さんは一方的に名前を知っていた。名札に書いてあった、田中さん。女性が多いパートの人々の中で男の人、特

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夢見る人は輝かしい|短編小説

夢見る人は輝かしい|短編小説

 ただ目の前で時間が過ぎるのを待つだけになっている自分に気付く。どうにかしなければ、とその度思うけれど、時間が過ぎればいつの間にか忘れて、そうしてまた思い出す。そのたびに削れる自己肯定感を見てみぬふりして、そのくせ正当化する作業ばかりがうまくなっていくのだから、こうして身勝手な人間が出来ていくのだというお手本のような日々だった。

 とても仲の良い友達がいた。友達には夢があって、そのために努力をし

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私の女の子|短編小説

私の女の子|短編小説

 ベランダから、まるで踊るように落ちていく女の子の幻覚をよく目にする。
 何の変哲もないマンション九階の一室。ふとベランダに続く窓を見ると、その向こう、手すり壁の上で、ひらひらとスカートをひらめかせて、危なげなく楽し気に女の子が踊っている。くるくるくるくる。洋館に住むお嬢様のような、シックで上品で、丈の長いスカート。女の子の顔は見えない。スカートと同じように舞う女の子の長い黒髪が、流されるまま不思

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墓場の都会|短編小説

墓場の都会|短編小説

 無機質なビルディングが立ち並ぶ都会は、大きなミニチュアのような感覚がした。あるべきところにあるべきものを配置し、葉のひとひらすら整えられている。空を映したビルの窓が空そのものように青く光り、肝心の空は灰色のビルの合間を人工の川のように窮屈そうに流れている。既視感を感じて、ふと私は意識を巡らせた。
「ああ、そうか」
 思い当たるものが一つだけあった。墓場だ。綺麗に等間隔に並べられた墓石の合間を人が

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春、継続|短編小説

春、継続|短編小説

 ヤマザキ春のパン祭りのシールを集め損ねた。しかも0.5点足らずだった。
 こんなときに一人暮らしを始めた実感を得ることになると誰が思うのか。実家に居た頃は余裕で一枚シートが埋まり、年によっては二枚分のお皿を交換することだって出来たのに。だがしかし、実家から送られてきたお米を食生活の中心に据えた新生活だと、正直、パンを食べる隙間があまりない。せいぜいがおやつ。実家にいた頃なら6枚切り食パンが二日で

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カレンダーの×印|短編小説

カレンダーの×印|短編小説

 カレンダーに×をつける。今月9個目の×印。本当は今日、〇を付ける予定だった。でも×になってしまった。もう、今月〇を付けることはできない。
 毎月、第二土曜は子どもと会える日だった。でも今、未知のウイルスが蔓延しているからと、外出が規制されている。同じ家で暮らす家族でなければ直接会うことは憚られた。どこの家もそうだろう。だけど、これが出張や単身赴任で遠方に居る家族なら、きっとスマホなりパソコンなり

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