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墓場の都会|短編小説

 無機質なビルディングが立ち並ぶ都会は、大きなミニチュアのような感覚がした。あるべきところにあるべきものを配置し、葉のひとひらすら整えられている。空を映したビルの窓が空そのものように青く光り、肝心の空は灰色のビルの合間を人工の川のように窮屈そうに流れている。既視感を感じて、ふと私は意識を巡らせた。
「ああ、そうか」
 思い当たるものが一つだけあった。墓場だ。綺麗に等間隔に並べられた墓石の合間を人が歩いていく。煙の上る空は青い。配置された緑は沈黙し、整えられている。生き物がいる気配のしない、人工物だけで出来た場所。
 東京は人が多い。そのくせ、死が遠い。生きている気配が薄い。システマチックに作られた場所で、人間すらもミニチュアになって働いている。ここは、人が生きてはいない。息はしているけれど、墓の下で蠢いているようなものだ。草木は整えられ、空はあり、だけれど誰もが息をして、死んでいる。社会の歯車としてぐるぐると。ここは墓場だ。
 探せば、正しく「生きて」いる人もいるのだろうけど。この都会の真ん中で、そんな一握りの人間がすぐ見つかるものだろうか。呼吸一つすら剪定され、整えられ、死んでいるように生きていくしかない、この美しい場所で。
 信号が青に変わる。秩序だった人混みに呑まれ、その中の一人になる。ビルの合間を何かに急かされるように歩いていく。息が出来ない。そうして私も、東京の一部になる。
 ここは土の下。美しく整えられた墓場の国。

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即興小説リメイク作品(お題:東京墓 制限時間:15分)
リメイク前初出 2020/06/15
この作品は(pixiv/小説家になろう/アルファポリス/カクヨム)にも掲載しています。

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