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カレンダーの×印|短編小説

 カレンダーに×をつける。今月9個目の×印。本当は今日、〇を付ける予定だった。でも×になってしまった。もう、今月〇を付けることはできない。
 毎月、第二土曜は子どもと会える日だった。でも今、未知のウイルスが蔓延しているからと、外出が規制されている。同じ家で暮らす家族でなければ直接会うことは憚られた。どこの家もそうだろう。だけど、これが出張や単身赴任で遠方に居る家族なら、きっとスマホなりパソコンなりを使って、画面越しにでも顔を見て、言葉を交わすことはできたのだろう。俺にはできない。酒癖のせいで自分が壊した家族に、それでも子どものために、否、自分のためにと月に一度会わせてもらっている身では、提案を口にすることすら出来なかった。別れた妻からも、そういった提案は飛んでこなかった。ただメールで、「こういう時勢だから」と断りのメールが届いただけだ。先月もそうだった。来月も、もしかしたらそうなるのかもしれない。
 明日も×をつける。明後日も、その次も。俺が俺の日々に×を付けている間にも、子どもたちは成長している。もしかしたら、規制が緩和されても、会ってくれないかもしれない。カレンダーが×で埋まっていく。〇がない。俺の日々に〇はない。
 あれから、酒に手は出していない。もう二度と飲まないと決めた。でも、壊れた家族は元通りにならない。妻と会うのは、子どもを俺に引き渡すときと、俺の元から家に帰る子どもを迎えに来るときだけだ。〇を付けた日だけ、俺は一時家族に戻れる。
 ×をつける。×が連なる。俺の今月のカレンダーには、罰しかない。

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即興小説リメイク作品(お題:今の罰 制限時間:15分)
リメイク前初出 2020/05/15
この作品は(pixiv/小説家になろう/アルファポリス/カクヨム)にも掲載しています。

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