歌集の棚から_バナーヨコ

第18回 渡慶次美帆さん(くじらブックス)

遠い海がわたしの胸のうちにありいつまでもいつまでも飛ぶ鳥 『冒険者たち』ユキノ進

 何度読んでも「好きだ」と思う。すっと心に入り込み、時間をかけて染みてくる。こんな歌集には、出会ったことがなかった。
 端整なことばで綴られる、労働者の胸中。矛盾を感じて藻搔いても、飛び出せない、動けない。かつて自分も抱えていた苦しみが、歌に結実されている。読んだ瞬間、思わず泣きたくなるほどの共感と「自分だけじゃなかった」という安堵を感じた。そんな人は、きっと大勢いるはずだ。
 魅力は他にもある。日常に転がる美しい風景を切り取った歌、現実の向こうに広がる空想の世界を覗くような歌も多数収録されている。どんなに苦しい状況でも、想像力は自由に羽ばたく。冒頭の一首は、そう伝えてくれる気がする。
 多面的で味わい深い、人間そのもの。これからまた何度も読み返すだろう一冊だ。
(「ほんのひとさじ」vol.13より)

渡慶次美帆(くじらブックス)

38冒険者たち書影

歌集の棚から 過去の記事

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第2回 竹田信弥さん(双子のライオン堂)

第3回 吉田慎司さん(がたんごとん)

第4回 中村勇亮さん(本屋ルヌガンガ)

第5回 鎌田裕樹さん(恵文社一乗寺店)

第6回 永山裕美さん(梅田 蔦屋書店)

第7回 小谷裕香さん(本の学校今井ブックセンター)

第8回 城下康明さん(ひとやすみ書店)

第9回 新井見枝香さん(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

第10回 磯上竜也さん(toi books)

第11回 砂川昌広さん(とほん)

第12回 三井洋子さん(文教堂書店赤羽店)

第13回 関口竜平さん(本屋 lighthouse)

第14回 樽井将太さん(古本屋 百年)

第15回 波多野つくしさん(オリオン書房ノルテ店)

第16回 花田菜々子さん(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

第17回 佐藤直子さん(東京大学生協本郷書籍部)

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