なぜパーパスよりビジョンが上位であるべきなのか?
前回の記事で、アップルコンピュータの96年の広告キャンペーン、Think Different を題材に、企業理念におけるパーパスとビジョンの違いや、その重要性について私たちアンティー・デザインとしての考え方を綴った。
ではなぜ、ビジョンがそれほどまでに大切なのか?という理由について、この記事で解説していきたい。
【ビジョンが大切な理由 1. つくりたい社会を描く】
前回の記事でも述べたように、私たちアンティー・デザインは、企業理念のセットを上からビジョン/ミッション/バリュー/プリンシプルというレイヤー構造を持つピラミッド型で定義している。
昨今話題のパーパスというのは、この図だとミッションにあたるものであり、最上段にあるビジョンは、自分たちの理想の姿というよりは、自分たちが作りたい社会の未来像で、その企業の事業や経営者の志向などによって様々なものが考えられる。
例えば架空の企業をイメージして挙げてみると、
テクノロジーをポジティブに使いこなし、人が心身ともに豊かな状態の社会(IT系企業の場合)
誰もが自由に暮らすように、日本中を行き交う事で地方がイキイキと文化を生み出し発信する社会(旅行関連企業の場合)
年齢や性別に関係なく、誰もが創造的に自らの美しさを発揮し、豊かな人生を送る社会(美容系企業)
などなど、描きうる次代のイメージは千差万別だ。
どんな企業でも、自分たちの会社が発展してどうなりたいのか?だけでなく、どんな世の中を作りたいのか?を考えることが重要なのだ。それは、20世紀に比べて企業がさらに、社会性をシビアに求められる時代だからである。サステナブルやSDGsというキーワードが使い古されるほど、消費者個人のレベルで社会や環境問題を捉えている時代。社会を健全に前進させるためにこそ、企業が存在しなければならない時代だから、どんな社会づくりに寄与するつもりなのか?を、最重要事項として考え抜かなければ、企業理念づくりは始まらないのだ。
【ビジョンが大切な理由 2. ビジュアルイメージの重要性】
ビジョンとは文字通り、Vision。つまり視覚的な意味合いを持つ言葉である。
私たちアンティー・デザインが提供するブランディングサービスでは、調査や資料収集などのインプットを経て、クライアントと共に理想のブランドイメージ、つまりブランドアイデンティティを開発していく。そのプロセスは大まかに言えば、言語化→擬人化→視覚化という順にキーワードを組み立てていきながら、ブランドを人物に例えてイメージを共有し、最終的には各企業、各ブランド固有のビジュアル表現を具象化していく。そのビジュアルイメージをブランドのエッセンスとして長期で活用し、あらゆるコンタクトポイントにおけるブランド体験を一貫させていくわけだ。
この概念は、デザイン経営という言い方もできるし、アイデンティティデザインという言い方もできるが、重要なのはビジュアルイメージである。ブランド全体のビジュアルイメージの中に、もちろんロゴやカラーリングも含まれるわけで、視覚効果がブランド価値にもたらす影響は計り知れない。そして、そのビジュアルイメージは、次代のトレンドやムード、スタイルを体現するものでなければならない。いやむしろ、企業が作り出すブランドイメージが、次代のライフスタイルを生み出すことに大きく影響を与えている。
私たちの師匠である、PAOS 中西元男氏の数々の実績を見るたびに思うのは、「優れたコーポレートアイデンティティは次代を連れてくる」ということ。いつの時代でも、憧れの企業が打ち出すイメージというのは、常に新しいライフスタイルを提案し、人々を次の世界に誘っている。
そうなると、やはり自分たちの目標を追い求めるだけでなく、次代の社会をビジュアルも合わせてできるだけ鮮やかにイメージすることが重要だ。そのイメージを踏まえた上で、自社のビジュアルイメージを想像していくからこそ、現代の人々に新鮮さとメッセージを訴えるブランドが作り出せるのである。自分たちが成長した時点の世の中の様相を想像できなければ、自分たちの成長した姿を創造はできないのである。
以上2つの理由から、ビジョンが企業理念構造において最上段であるべきと考えている。
そして、パーパスはその外界の世界を作り出すための自社のミッション、存在意義、という位置付けであり、私たちの企業理念ピラミッドでは、上から二段目のミッションと同義語である。
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