アップルのThink different.キャンペーンに見る、理想の企業ブランディング
クレイジーな人たちがいる。
というフレーズから始まる、apple が1997年に公開したTVCM。Think different. キャンペーンと呼ばれる伝説の企業広告キャンペーンだ。当時Appleが低迷した業績の起死回生をかけて行ったのは、新製品の打ち出しでも無ければ、お得な販促広告でもなく、自分たちが何のためにパソコンを作っているのか?という、原点に回帰し、その志を世に伝える施策だった。
・見たことない方、ぜひ、当時のCMがyoutubeで見れます。ジョブスの声のバージョン↓
このキャンペーンのローンチから約1年後、apple が社員や株主に配布したと言われる一冊のブローシャーがある。
その冒頭にスティーブジョブスのサイン入りで書かれている一文。ブランドコンサルタントである私が思う、企業ブランディングの目指すべき理想がこの一文に凝縮されている。その凄さをさっそく、解明していきたいと思う。
全部で大きく3パートに分かれている、と考えていただきたい。
【第1パート】企業にとっての理念の大切さについて
【第2パート】アップルの理念、このCPでの表現方法について
【第3パート】理念をどう活用していくのか、継続がもたらす作用について
それぞれ翻訳をしながら解説していこうと思う。
その前に前提として、企業にとっての理念というものが、昨今では言葉が氾濫しているので、この記事では文字数の都合上一旦、理念という言葉で括っている。理念(信念、スピリット、パーパスなどを包括したもの)というような粒度で捉えて読んでいただきたい。
【第1パート】企業にとっての理念の大切さについて
ここでは、プロダクトやサービスそのものは、時代や環境の変化に応じて変えていく必要があるが、企業が持つ理念だけは普遍的であるべきだ、と説いている。書籍ビジョナリーカンパニーで謳われていることと同様の話だが、一時アップルを離れ、ピクサーを成功させてアップルを救うべく戻ってきたジョブスの言葉となると、特別な説得力がある。
そもそもこのキャンペーンタイトル、Think different.という言葉は、IBMのトーマス・ワトソン・ジュニアが以前から使っていたモットー、Thinkというフレーズにひっかけたもの。IBMとの差別化をたった2ワードで伝え切るコピーワークの偉業にも鳥肌が立つ。単なる仕事をこなす便利なマシンを提供するだけではない、というプロダクト以上の「何か」について冒頭で切り込んでいる。
【第2パート】アップルの理念 このCPでの表現方法について
それでは、アップルにとっての理念とは何か?ということになるわけだが、このパートではそれをキャンペーンの表現手法の説明とともに伝えている。
・より良い世界に向かって人類を前進させるクリエイティビティの大切さ
↑
・それを実行する人々の偉大さ
↑
・その人々が持つクリエイティビティに寄与するものづくりをしたい、という思い
この3つがピラミッドのように上に向かっている構造だと思う。
昨今、企業理念についての流行り言葉として、パーパス、という言葉があるが、私たちアンティー・デザインのコンサルティングではパーパスという言葉は使っていない。似たような意味としてミッションという言葉を使っているが、企業理念のセットの最上位にあるのはパーパスでもミッションでもなく、ビジョンであるべきだと考える。このジョブスの一文を見ると、その考えが間違っていなかったと納得できる。
・より良い世界に向かって人類を前進させるクリエイティビティの大切さ
(より良い世界とは外的な理想世界の景色 自社がどうなりたいか?という事ではなく、自社成長の先に、どういう世界づくりを目指しているのか?ということ=ビジョン)
↑
・それを実行する人々の偉大さ
↑
・その人々に寄与するものづくりをしたい、という思い
(理想世界のビジョン実現に向けた、自分たちの使命、存在の意義=ミッション、パーパス)
あくまでもビジョンはミッションやパーパスの先にある目指す状態であり、そのための継続的な行為が、ミッションやパーパスなのである。(図3)
つまり、アップルはより良い世界の実現を目指し、そのためにその世界をつくり得るクリエイティビティを持ったクレイジーな人々を支えるパソコンを作る、という文脈。
アップルの企業広告やメッセージには、このキャンペーン以外でも、より良い世界に向けてクリエイティビティが人類を前進させる力だ、というフレーズを見かける。そのフレーズを読むたびに、いまでもこのキャンペーンを思い出して感銘してしまう。さらに、彼らのあらゆるCMやコミュニケーションから、目指す次代の景色が感じられ、だからこそMACユーザーをやめられないのだ。
ここでジョブスに依頼されたわけでもないが、理解を深めるために、このブローシャーの一文から読み取り、勝手にアップルの企業理念を整理してみた。w
弊社の定義にあてはめてみると、こんな感じである。
【第3パート】理念をどう活用していくのか、継続がもたらす作用について
最後のパートでは、このキャンペーンが今後どういう効果をアップルにもたらすか?もたらすべきなのか、という継続的なブランディング活動について示唆している。
そしてここでひとつ、改めて気づいたことがある。
ここに挙げられたクレイジーなヒーローたち、彼らはアップルにとってリスペクトすべきヒーローであるとともに、理想のユーザーペルソナなのだ。
ヒーローたちに提供して恥ずかしくない製品づくりを永続的に目指す、それこそが、アップルのミッション、パーパス、存在意義であり、常にこのキャンペーンを立ち返るべき拠り所にしていく、という宣言である。
理想のユーザーペルソナというのは、本来こういう役割を果たすべきものなのか、、!と、目から鱗が落ちた気持ちである。
さらに、このキャンペーン、この理念は、市場に伝わって共感するファンを増やし、どんどん共鳴していくことで、さらに強固なものになってアップルに還元されていく。この循環が巡れば巡るほど、企業価値は増大し、唯一無二の存在になっていくわけだ。
残念なことに、若い世代にはこのキャンペーン広告を知らない人たちが増えてきている。アップルユーザーでさえ、見たことがないという。
しかし、今見てもこの60秒の動画は涙腺を刺激するし、一枚一枚のヒーローのポートレートはドラマチックで美しい。コピーワークも素晴らしく、ジョブスのセンスはもちろんだと思うが、当時この広告を制作した米西海岸の広告代理店TBWA\CHIAT\DAYによる、超一流のおしごと、まさに神の所業によるものだ。そして、ヒッピー世代のジョブス自身が持つスピリットは遺された様々な言葉からも伝わってくるように、この人が単なる経営者ではなく、1人の偉大なる思想家だったことを窺わせる。さらに言うと、IBMという巨人に立ち向かうカウンターとしてのスタンスが、人々を魅了してやまないのだろう。もしかすると、この混沌の時代に求められる経営者の資質も、そういうものなのかもしれないなぁ・・と、自分のクライアントである様々な優れた経営者の方々を見渡して、感じてしまうのだ。
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