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新しい自分のままで働く|第28話

【早期退職の理由は、神様が教えてくれた】
毎週日曜日の18:30に公開していた連載。40代独身女性が先を決めずに早期退職したら、不思議な体験をして、自分の使命に気づく話です。書くことになった経緯はこちら

父の言葉をきっかけに仕事探しを再開する一方で、大学のオリエンテーションに参加し、新しい生活の第一歩を踏み出した私(第27話

その翌日の4月初め。私は応募していた会社の職場見学に向かった。

都心のビジネス街にある、31階建てのオフィスビル。派遣会社の方と1階のエントランスで待ち合わせる。

高い吹き抜け。慌ただしく往来する、スーツを着た人々。久しぶりの空間に緊張が高まる。

早期退職の休暇に入ってから2年半。かつては同じような環境で働いていたはずなのに、ここにいるのが、ひどく場違いに感じるのだ。

2月の滝行で不思議な体験をしたからなのか。インド瞑想3週間の旅から帰ってきた時、違う星に降り立ったような感覚になったのと似ていた。

首からIDカードをぶら下げた人々に囲まれ、エレベーターに乗る。あっという間に目的階に着く。

12月まで就職活動をしていたはずなのに、なぜか新鮮に感じながら会議室に着いた。いよいよ職場見学が始まる。

***

スーツを着た男性がふたり入ってきた。50代くらいだろうか。

職歴について色々と聞かれる。そのこと自体は、これまでの就職活動の面接と変わらない。

だが、私は今回、これまでにはない要望を出した。週4日での勤務である。

大学との両立は頭にあったが、師範資格を持つ筆書画の教室を始めたい気持ちもあった。何より、仕事に割く時間を最小限にしたかったのだ。

授業に間に合うためには、普段は残業が全くできない。神社実習や試験前の期間は多く休む可能性もある。

派遣社員とはいえ、受け入れてもらえるだろうか。そう思いながらも、和やかに時は過ぎた。

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最後に、就業フロアの中に入れていただき、説明を受ける。

机が等間隔に並び、各々がパソコンの大きな画面を眺めながら、黙々と働く。20年以上、IT企業に勤めてきた身には、見慣れた風景である。

だが、久しぶりに足を踏み入れた私は、機械に囲まれていると強く感じた。昔は気にならなかった機械音が、幾重にも鳴り響くのを感じるのだ。

「昔の私とは違うんだ」と気づかされる。

だが、今の私なら、新しい自分のままで働ける。そう確信しながら、職場見学は終わった。

***

1階のエントランスに戻り、派遣会社の方に意向を聞かれる。

「採用いただければ、お世話になるつもりです」

私はそう言って、別れた。

ケーキでも食べて疲れを癒そうと、カフェに向かう。すると、10分も経たない内に電話が鳴った。

採用の連絡だった。

就業開始は1週間後に決まった。大学の授業開始と同じ日である。

謎の声に導かれたような早期退職。想像もできなかった不思議な体験の数々。神様事という人生のテーマへの気づきと葛藤。

苦しんだが、仕事から離れる中で、新しい自分に出会うことのできた時間でもあった。

その日々がついに終わるのだ。

次の日。私は大学の入学式へ向かった。学生生活が始まる中、懐かしい方と再開することになる。

つづく

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