病気になる前に、治したい|第10話
42歳の初秋。いつもの書店で、アーユルヴェーダの毒出し本(※1)に出会った私(第9話)
はじめは、舌の掃除など、自分で手軽にできることから試していたが、結局、アーユルヴェーダのクリニックで診療を受けると決めた。
それには、ある理由があった。
病気になってから、来てください
数年前。私は、ある症状に悩まされるようになった。
月に1〜2回、突然左半身がしびれ、朝起きられなくなるのだ。その他にも、体調不良で会社を休む日が増えていた。
明らかにおかしいが、原因がわからない。
このままではいけないと思った私は、近くの総合病院で診てもらうことにした。
もともと、私はあまり病院に行く方ではない。寝ていれば治ると思う方である。
だが、このときばかりは、何かの病気ではないかと不安だったのだ。
有休を取り、朝早くに病院の受付に行く。何科に並んだら良いかもわからず、相談すると、とりあえず内科ということになった。
すぐそばにある、広い待合室へ向かう。大勢の方が押し黙って座っている。タイル張りの床が青白く光る、どこか冷んやりとした空間だ。
それから3時間。本を読みながら待っていると、最後の方になって、ようやく呼び出された。
私が思いの丈をぶつけると、医師はこう言った。
「ホルモン異常とかだったら、爪が変形したりするんですけどね」
「病気になってから、また来てください」
私は必死だったが、医師から見れば、場違いな患者でしかなかったのだ。身体の状態を診察されることのないまま、病院を後にした。
病気になる前に、治したい
以来、腰痛や肩こりを治すのに整体に通うぐらいで、病院には行っていなかった。
だが、症状は年々重くなる。いつも心のどこかで不安があった。
「私の身体の状態を診察してもらいたい」
「なぜ体調が悪いのか、理由を知りたい」
という気持ちが膨らんでいたのである。大きな病気になる前に治したいという思いが募っていた。
そんな状態のとき。私はアーユルヴェーダの毒出し本(※1)に出会った。
著者は、西洋医学の医師になった後、30代前半でアーユルヴェーダの医師になった方だ。当時は青山でクリニックを経営されていた。
新しい自分になる本(※2)には、ガンの方を治療した話も載っている。一方で、西洋医学を完全に否定する訳ではない点も好感が持てた。
問題は、保険が効かず、高額なことである。
だが、思いつめた私は、
「ここなら、私がどんな状態なのか、診てくれるかもしれない」
という一心で、クリニックに予約を入れた。
アーユルヴェーダのクリニックへ行く
ある日のこと。私はクリニックへ向かった。
地下鉄の駅から六本木へ向かう道沿いに数分歩くと、少し奥まった場所に小さな白い建物が見える。都心とは思えない、閑静な場所だ。
入口に着き、ドアを開けると、靴を脱ぐスペースがある。螺旋階段を登って2階に着くと、受付があった。
完全予約制で、私以外に患者さんはいない。吹き抜けに明るい光が注いでいる。穏やかで、あたたかい空間だ。
名前を告げると、ソファに腰かけるように言われる。ほどなく、ティーカップに入った白湯が運ばれてきた。
「アーユルヴェーダについて解説した動画を見てお待ちください」と言われる。日を浴びながら、ゆったりとした気分で眺める。
見終わったころ、白衣を着た女性の先生が、
「村瀬さん、こちらへどうぞ」
と呼びかけてくれた。明るく、しっとりとした雰囲気の方である。
私の心と身体が大きく変わるきっかけとなった出会い。彼女には、この先、3年あまり診てもらうことになる。
この日は1時間の診療を受けた。その中で、私は、思いも寄らない処方を受けるのである。
つづく
写真:本田織恵
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