見出し画像

ネパールの「王政復古」運動

日本であまり報じられていませんが、ネパールで「王政復古」運動が盛り上がっているようです。


ネパールの首都、カトマンズで11月23日、ネパール警察は、籐製の警棒、催涙ガス、放水銃を使って、15年前に廃止された王政の復活を要求する数千人のデモ隊を蹴散らした。(ロイター)


デモの様子を伝えるYouTube動画(Firstpost)↓


ロイターの記事ではデモ隊は「数千」規模ですが、Firstpost(インドのニュースサイト)によれば「数万」です。



20世紀までに、多くの国が、君主制(monarchy)を捨てて、共和制( republic)に変わりました。

現在、君主制の国は、全体の4分の1と少数派になっており、日本はそのうちの1つです(天皇が元首の立憲君主制)。

21世紀に入っても、君主制から共和制に変わった例はあり、それがネパールでした。

ネパールでは、ご承知のとおり、2001年に国王が皇太子に銃殺されるという大事件がありました。

その流れのなかで、2008年に約240年つづいた君主制(王政)が廃止されました。

その後、毛沢東派をふくむ不安定な左派連立政権がつづいています。



不安定な政治に嫌気がさした国民による「王政復古」運動は、しばらく前からつづいています。

2020年に同様のデモがあり、産経新聞が記事にしていますが、基本的な情勢は変わっていません。


共産党政権下のネパールで王制の復活を求めるデモが起きている。王制は2008年に崩壊したが、常態化する政界の混乱などを受け、王制による安定を求める動きだ。退位したギャネンドラ前国王(73)への不信感もあり、王政復古を願う声がどこまで拡大するか未知数だが、地域の大国であるインドと中国が事態を注視している。(産経新聞2020年12月27日 前王の年齢は当時)


この記事が指摘するとおり、中国とインドのあいだにあるネパールの地政学的位置から、両大国の思惑が気になるところです。


インドにとっては、王政復古は基本的に望ましいでしょう。王政復古派の主張は、ヒンズー教の「国教」化を含んでおり、インドとネパールの親密な関係の復活を期待できるものだからです。

いっぽうの中国ですが、日本とインドの接近などを警戒し、近年、ネパールを取り込もうと積極的です。

その中国は、必ずしも共産党政権を歓迎しておらず、上の産経記事で、

「もしかしたら中国は数年ごとに首相が変わるネパールの政情を嫌気して、王制を望むかもしれない」

という識者の声を紹介しています。

もし、王政復古が実現したら、ネパールは、21世紀に入って君主制から共和制に移行した珍しい例であるのにくわえ、そのあとまた君主制に戻るという、さらに珍しい例になります。



ネパールは、かわいそうな国ですね。

ネパール人はとてもいい人たちで、日本にもたくさん来ているから、よくご存じでしょう。

私も一度だけ、ネパールに行ったことがありますが、とても居心地のいいところです。登山目的でなくても、日本人旅行客に人気で、「沈没」する人が続出するのがよくわかります。

生真面目で勤勉なネパール人の性格は、日本人に似ているとよく言われます。

そのネパールが、長らくアジア最貧国の位置から抜け出せないのは、ほんとうに気の毒。


現在、世界中で「極右」が躍進している現象がありますが、ネパールの王政復古運動は、それとは位相を異にするでしょう。

上のインドのニュースサイトには、王政復古を願う、多くのネパール人のコメントがついています。


「ネパール出身者として言いたい。われわれは民主主義に反対しているのではない。事実、われわれは民主制だ。同時に、ヒンズー的価値観による君主制が復活するのを願っている。共産主義政権はわれわれの希望を奪ってきた。もううんざりだ」

As a nepali, i must tell you, we arent anti democracy. In fact We are the democracy. And we need monarchy back with hindu values. Successive communist governments have failed our aspirations. Not any more.

「われわれネパール人は民主制に反対していない。イギリス同様の立憲民主主義を望んでいる」

As a Nepalese we are not against Democracy, we want Constitutional Monarchy similar to Great Britain.


ネパールの政治的安定を願う気持ちはよくわかります。

ただ、ネパールに一度行っただけの、無責任で無知な日本人の感想にすぎませんが、「ヒンズー的価値」が、カースト制の存続を意味するなら、それはそれで「どうかな」と思う。

(ネパールに行って驚いたのは、ネパールにもカースト制が生きていることでした)


産経記事が指摘するように、ネパールで王政に敬意があるのは中高年であり、いまの時代にネパールの若者が「王政復古」を熱望するとも思えません。

でも、ネパールの経済が低迷したままなので、国を出て出稼ぎに行かねばならないのも若者ですね。

資源がなく、けわしい地形の内陸国で、「世界一経済開発がむずかしい国」といわれるネパールですが、誰か、なんとかしてあげてほしい、と思うのでした。






この記事が参加している募集

世界史がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?