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【Netflix】「アンノウン 洞窟に眠る新たな人類」 原始ホモ属が残した「#」マークの謎


<概要>

アンノウン: 洞窟に眠る新たな人類
2023 | 年齢制限:7+ | 1時間 34分 | ドキュメンタリー
洞窟から発見された、25万年以上前のものと思われる骨のかけら。その"新たな人類"について、そして人類とは何かについて探る科学者たちに迫るドキュメンタリー。(Netflix公式HPより)


<評価>

現在、人類学ほど興味深く、教科書が書き換えられつづけている分野はない。

この番組は、人類学最前線の話題であるホモ・ナレディについて、2022年調査までバッチリ紹介してくれる、ありがたいドキュメンタリーだ。


ホモ・ナレディの「心」を読む


20世紀が終わるころにはネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)が話題だった。

その後のゲノム解析によって、ネアンデルタール人と我々ホモ・サピエンスが性的に交渉していたことがわかった。それを明らかにしたスバンテ・ペーボ博士(沖縄科学技術大学院大学客員教授)がノーベル医学賞を取ったのは昨年のことだ。

2010年前後には、インドネシアの洞窟で発見されたフローレス人(ホモ・フローレシエンシス)が話題だった。フローレス人の実物大人形を見に、私も上野の国立科学博物館に行ったのを覚えている。

フローレス人。国立科学博物館公式ツイッターより


その後(2013年)南アフリカの洞窟で発見された新種が、このドキュメンタリーの主役であるホモ・ナレディである。

ホモ・ナレディの発見を特集したナショナル・ジオグラフィック誌


我々はまだ宇宙人と出会ってないので、宇宙の中で「知的生命体」の孤独を味わっているが、孤独になったのは比較的最近のことだ。

数万年前までは、この地球上に、人間以外の「知的生命体」がいろいろいた。ネアンデルタール人もフローレス人もそうだ。発見されていないホモ属は他にもいたはずだ。

ホモ・ナレディは25万年以上前の絶滅種とされるので、20万年前に発生した我々とは一緒に生きなかっただろう。しかし、本当のところは、よくわかっていない。

ともかく、人間以外のホモ属が、どういう「心」を持っていたか、興味が尽きないテーマだ。


25万年前の精神文化


ネアンデルタール人がスーツを着てオフィスに入ってきても誰も気づかない、とよく言われた。

ホモ・ナレディはそうはいかない。二足歩行はしているが、全体はチンパンジーっぽい(身長は150センチくらい)。

脳は小さく、現代人の3分の1しかない。

しかし、脳の大きさで進化を定義する考え方は、もう古いと言われる。ホモ・ナレディも、見かけにかかわらず、「精神世界」を持っており、共同体の文化を持っていた、というのが、発見者のリー・バーガー博士らの考えであり、このドキュメンタリーの趣旨だ。



ホモ・ナレディは、仲間が死ぬと、その遺体を洞窟の奥深くまで運び、「埋葬」していた、という。

発見された子供の手の骨には、石器らしきものが残っていた。あの世で使うために、石器を持たせたのではないか、という。

つまり、ホモ・ナレディは、すでに共同体の儀式と、あの世やこの世といった観念を持っていた、というのだ。

ネアンデルタール人についても同じようなことが言われたが(異論もあった)、せいぜい10万年前の話だ。

25万年以上前の、3分の1の脳しか持たないホモ属が、すでに「文化」を持っていたとすれば、それは真に驚くべきことである。

人間とは何かを根本的に考え直さなければならないだろうし、オカルト定番の、「失われた超古代文明」みたいな話が急に真実味を帯びてくる。


ホモ属共通の「#」マーク


私がいちばん興奮したのは、人間(ホモ・サピエンス)、ネアンデルタール人、そしてホモ・ナレディ、それぞれが、その進化の初期の段階に、同じような線刻(ピクトグラム)を残していることだ。

それは、いわゆるハッシュタグ(#)みたいな線刻である。

「アンノウン」


これは、ホモ属共通の最初の欲望が「バズりたい」であることを示している(?)。


番組としては、ホモ・ナレディを「世紀の発見」だと言いたがるリー・バーガー博士を押し出しすぎている。発見者の自己宣伝臭がするのだ。

彼の考えに対して、ホモ・エレクトゥスの亜種にすぎない、とか、「文化的痕跡」は偶然だとか、別の時代のが混じった、とか、いろいろな異論があることがwikiを見ればわかる。

ただ、科学の最先端とはそういうものだし、この分野では永遠に解決がつかないことも多々あるだろう。

客観的な科学番組というより、我々の「ロマン」を刺激してくれる点で優れたドキュメンタリーだと思う。




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