日米同時に起こっている「既成メディアVSネットメディア」戦争の行方
最近のイーロン・マスクをめぐる一連の報道を見ていれば、
「新聞を中心とする既成メディア(legacy media)」
VS.
「ネットを舞台にしたSNSなどの新しいメディア」
の対立が、日米同時に激化しているのがわかるだろう。
既成メディアに「頭がおかしい億万長者が変なことを始めている」という調子の報道がまだある一方で、「マスクの戦争(Musk's war)」といった表現が欧米で使われはじめている。
対立の激化、「戦争」化。
私は英語がかろうじて読める程度なので、他の国のことは分からない。だが、ある程度、この「メディア戦争」は世界的現象なのかもしれない。
揺れるネットの「政治色」
日米の状況で見る限り、今のところ「既成メディア」は左派(リベラル)優勢だが、「ネットメディア」では右派も強い。
この対立は、最近出現したものではない。
インターネットが普及した1990年代の後半から、既成メディアから締め出された右派が、ネットを拠点にする現象は指摘されていた。
その現象が、高齢者が「左」に、若年層が「右」に傾斜する、(リベラルメディアによれば)「分断」を引き起こしているのだろう。
また、2016年のトランプ大統領の出現も、その現象の延長上にあったと考えられる。
インターネットの普及は、アラブの春や香港民主化運動などを通じて、リベラルの好む自由化に貢献するように思われた。
一方、ネットを通じて、イスラム原理主義や国粋主義が広まる現象もあり、若者の極右化が警戒されるようになる。
そのため、国家統制に加え、左右両派からの、ネットの言論規制が強まっていくことになった。リベラル(左派)メディアによる「フェイクニュース警戒キャンペーン」もその一環だ。
しかし、2020年の大統領選で、トランプ大統領のtwitterアカウントが凍結された件などを契機に、ネット規制の強化に対して、右派、リベラルの両方から、批判の声が上がっていた。
イーロン・マスクの登場で新局面に
こうした流れの中から、イーロン・マスクが「言論の自由」を旗印に、Twitter社を買収した。
そして、早速、既成メディアとの対立を明確にしている。
ネットメディアと言っても、Google(YouTube)などの広告中心ビジネスモデルでは、既成メディアと仲良くせざるをえない事情があるようだ。Apple、Microsoftなどにも(noteも含めて)それを感じる。
マスクのTwitterが、その点で、従来のGAFAと違う存在として確立されるかどうか。
いずれにせよマスクのTwitterの参戦で、1990年代後半から始まった新旧メディアの対立が、新たな局面に入ったと私は見ている。
その主な特徴はーー
1 戦争を仕掛けているイーロン・マスクのTwitterが、日米で巨大な影響力を持っていて、リアル政治に影響を及ぼそうとしている
2 時間の進行とともに、ネット派、若年層の勢力が強くなっている
3 これまで既成メディアを支持していたリベラルの一部が、ネットを拠点にして、旧メディア批判派に転じている
日本への波及は?
だが、Twitterは、ネット世界全体の覇権を握っているわけではない。
マスク氏の財力が潰えれば、また、現在行われている既成メディアの反マスク報道で、Twitterの影響力が落ちれば、マスク氏の退場で「戦争」のけりは早々につくかもしれない。
だが、「マスクの戦争」とは言っても、それはTwitterの勝敗だけに尽きる話とは思えない。プラットフォームが消えても世論は残る。既成メディアに対抗する世論が、現在のTwitterで大きな塊りとして形成されつつあることが重要だ。
日本でも、最近のcolabo問題や、YouTubeで拡大しつつある右派言論チャンネルの拡大により、新聞と地上波テレビに依拠する既成メディアは、いよいよネットに押されているように感じる。
しかし、日本の既成メディアは、記者クラブ制度などで情報の上流をガッチリ押さえている。右派の産経新聞は米国のフォックスと比べても弱い。ネットの世界は外資が主流だ。日本では、資本の移動をともなう大きな地殻変動が起こらなければ、メディアの未来が見えない。
リベラルの失敗ーーネットの「右」がさらに伸びていく
私自身は軸足をリベラルにおいており、既成メディアが左翼偏向を是正して、保守層も取り込んでいくことを期待していた。
結局のところ、普通の人々が望んでいるのは、左右両派に偏らない、公正なメディアである。両派の主張をできる限り公平に取り上げ、両者の対話を促すプラットフォームであってほしい。(それがリベラリズムというものだ)
しかし、新聞をはじめとした既成メディアは、この10年でさらに左傾化を強めた。日本では、かつてはより保守的であった毎日新聞が朝日新聞と見分けがつかなくなったこと、青木理氏を重用するTBS、望月衣塑子記者を前面に押し出した中日・東京新聞の左傾化などはその象徴だ。
ウクライナ戦争や中国の伸長は、ナショナリズムへの傾斜を強め、既成の左派メディアにさらに不利に働いている。
既成メディアは、社内の左翼活動家を早々に排除すべきであったのに、それを怠ったトガメが出たと私は思う。
リベラルメディアが再生するとすれば、いまが最後のチャンスだろう。
しかし、既得権にあぐらをかいた既成メディアにその危機感が見えない。
日本について言うなら、日本の左派メディア(朝日、毎日、共同通信など)は、アメリカのリベラルメディア(NYタイムスやCNNなど)を信じてついて行けばいい、と思っている。それ以上のことを考える能力はないようだ。
(憲法が属国状態なら、日本のジャーナリズムも属国状態のままだ。日本の新聞の論説委員は、もし欧米の新聞を読まないで書けと言われたら、国際面の論説を1行もかけないだろう。)
そうである以上、既成メディアは勢いを失い、ネット世論に引きずられる形で、しばらくは世界的に社会の「保守化」が強まっていくと予測できる。
それが必ずしも好ましいと思わないが、リベラルの歴史的な失策の結果であり、仕方ないと私は感じている。
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