「ご当地トンデモ古代史」の喜び
邪馬台国がいっぱい
今年、邪馬台国は阿波(徳島)にあった、という説が流行った。
「邪馬台国は徳島にあった」とする「邪馬台国阿波説」に着目した地域活性化への取り組みが進んでいる。徳島県内の郷土史家らが神話や出土品の分析を通じて主張している新説だが、昨年頃から興味を持った多くの歴史系ユーチューバーが取り上げ始めた。現地ツアーなどで観光客を呼び込もうとする動きも出てきており、県も後押ししている。(読売新聞12月22日)
たしかに最近、邪馬台国=阿波説の動画をYouTubeでよく見る。
説そのものは以前からあったが、県が後押しし、観光資源としているところがポイントだ。
邪馬台国といえば、今年6月には、九州説の本家、佐賀県・吉野ヶ里で、卑弥呼の墓か、という「石棺」の発掘騒ぎもあった。
そのときも、佐賀県知事の熱の入れ方がすごかった。それが印象的だったので、私はnoteにこう書いた。
詳しいことは知らないが、邪馬台国畿内説が強くなっていたところで、一発逆転の期待がかかっているのだろう。
だが、期待しすぎだ。県知事なんかも鼻息が荒くなっていて大丈夫かと思う。
がっかりの反動が怖いから、もう邪馬台国は佐賀ということでいいと思う。
しかし結局、石棺からは何も出なかった。
九州には、ほかに「筑豊=邪馬台国説」があり、田川市が力を入れている。
第26回古代史講座第2部 田川広域観光協会主催(2023年3月21日)
自治体がこうした「ご当地」古代史に入れ込む風潮は、広がるかもしれない。
トンデモであっても、それは悪いことではないと思う。
それで地元の人が楽しみ、実際に観光客を呼び込めれば、文句を言うことはない。
トンデモな広がり
ただ、トンデモは、限度を知らない。
邪馬台国=阿波説では、日本神話のアマテラスを、卑弥呼と同定しているようだ。
徳島にはアマテラスゆかりの史跡がある。古事記で、日本が淡路島から始まったらしいことを考えれば、そこから徳島を邪馬台国とするのは、まあ想像の範囲といえる。
しかし、邪馬台国=阿波説は、さらに広がりを見せており、どうも日ユ同祖説のようなのと融合している。
徳島には、モーゼの十戒を収めたアークが剣山に眠っている、という都市伝説がある。それと結びついたのだ。
古代ユダヤの失われた支族が、黒潮に乗って徳島にたどり着き、そこから天皇家が始まる、といった筋書の動画を、YouTubeで何本が見た。けっこうな視聴回数をかせいでいる。
徳島が、日本のルーツというだけでなく、世界史の中心のようになっている。
ちょっと怪しげな宗教みたいだ。こういうのも、まあ、不正なカネもうけや政治がからまなければ、べつに自由だとは思うが。
ただ、真面目なアマチュア考古学者の中には、怒る人も出てきているようだ。
ご当地古代史が流行る理由
日ユ同祖論といえば、現代における代表格、田中英道大先生がいる。
最近もお元気で絶好調のようだ。
田中は、「京都、奈良」より、古代ユダヤ人が定着した「東北、千葉、埼玉」に着目せよ、という。千葉から、田中の言う「ユダヤ人を形どった埴輪」が出ている。
あと、いわゆる古史古伝を根拠とする「飛騨古代王朝説」「富士古代王朝説」というのもありました。
トンデモ度はさまざまながら、以上のようなのを「ご当地トンデモ古代史」と総称するなら、3つの特徴があると思う。
1 現在、さびれたところで流行る→東京など大都市圏集中への反発
2 (九州説を除いて)朝鮮半島からの影響を排除する→右翼・国粋的傾向
3 古代崇拝→近代主義への失望
私は、「2」の部分は警戒すべきだと思うが、「1」と「3」については、気持ちがよくわかる。
(最近よく見る、縄文時代を過大評価するのも、「2」の例だろう。縄文後期の文化を、1万年以上前からあったように言い、「世界最古の文明」のように言う)
私自身、こうしたさまざまなトンデモ説を楽しんでいる。ご当地トンデモ古代史の健全な発展を祈りたい。
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