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韓国・尹(ユン)大統領「アメリカン・パイ」 VS 日本・林外相「イマジン」

4月26日、ホワイトハウスの夕食会で、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、ドン・マクリーンのヒット曲「アメリカン・パイ」を歌った。

その動画をバイデン米大統領が28日にツイッターで拡散したことから、「韓国の大統領かっこいい」という声が世界中で広がっている。


韓国大統領の「アメリカン・パイ」を拡散したバイデン大統領のツイート


で、日本人として思い出すのは、2021年のG7などで「イマジン」を披露した林芳正外相か、あるいは、かつてブッシュ大統領の前で「ラブ・ミー・テンダー」を歌った小泉純一郎首相だろう。


小泉氏の古い話はともかく、林芳正氏と尹錫悦氏は好対照である。

林芳正氏と尹錫悦氏はどちらも1961年生まれ。そして「イマジン」も「アメリカン・パイ」も1971年のヒット曲である。

でも、日本人としては残念ながら、尹大統領の選曲の方が優れていると思わざるを得ない。

私が「イマジン」を好きでないこともあるが、これを外交の場で演奏するのは、場違いで無粋で押し付けがましく、趣味が悪いと感じる。

それに対して「アメリカン・パイ」は、アメリカ人の心の機微に触れる絶妙の選曲だ。嫌味がなく、「通」にも「よくわかってる」感じがする。

林氏が何かというと「イマジン」をやりたがるのに対し、尹大統領が促されて仕方なく、という感じで披露しているのも得点が高い。



「アメリカン・パイ」は、明るい曲調のフォークソングだが、歌詞の「難解さ」でも知られる曲である。

私も、林氏、尹大統領と同世代なので、子供のころ、この曲が大ヒットしたのを覚えている。

ドン・マクリーン「アメリカン・パイ」(1972 BBCライブ)


しかし、習いたての英語で歌詞を理解しようとしても、まったく歯が立たなかった。

それも道理で、アメリカ人にとってもこの歌詞は謎だらけで、細部ではいまだに論争があるほどのようだ。

(英語でたくさんの「解読」サイトがあり、以下はその一例。日本人による解読の試みもあるが、leveeがニューヨークのバーの名前であることや、バディ・ホリーに「That'll Be The Day」という曲があることを知らない日本人には、意味がわからなくて当然だ。)


だが、それが1959年にバディ・ホリーが飛行機事故で亡くなり「音楽が死んだ」日(マクリーンは10代半ばだった)の思い出から始まり、1960年代のさまざまな事象を暗喩的に振り返る内容であることはわかっていた。

バディ・ホリー(1936–1959)


「バイバイ、ミス・アメリカンパイ」とは、恋人に別れを告げるラブソングのような体裁で、アメリカの無垢な1950年代と、激動の60年代に対する、愛惜をこめた「さよなら」を意味している(american pieには、アメリカらしさ、古き良きアメリカ、といった意味がある)。それがアメリカ国民の心に沁みる理由のようだ。

上の解読サイトなどの解釈を参考に、冒頭部分のおおよその意味を訳すと、以下のようになるだろう。


遠い昔、音楽が僕の心を満たしてくれた。
僕も音楽をやろうと思った。つかの間、人びとを踊らせ、楽しませる仕事がしたい、と。

だけど、あの1959年2月、新聞が悲報を届けた。
バディ・ホリーが飛行機墜落事故で死んじゃった。
僕の心の奥底で、何かが変わったんだ。
あの音楽が死んだ日に。

だから僕はこう歌う。
さようなら、無垢な日々よ。
あの頃は何も考えずに楽しめた。
車を転がしてバーに飲みに行っても、
ガキには酒を売らないと言われるから、
昔の男の子たちは、普通に家でライ麦酒を作って飲んでいた。
そして酔っ払って歌っていた。
バディ・ホリーの名曲「今日がその日」を。
バディは「その日」、自分が死んじゃうなんて思わなかっただろうけど・・
「今日が自分が死ぬ日」だなんて、ゆめにも思わなかっただろうけど・・
(今の僕は、人の世のはかなさを知った)


その後の歌詞にも散りばめられた、「音楽」と「死」の暗喩から、その時代を生きたアメリカ人なら、60年代の亡くなったロックスターや、ケネディ暗殺、ベトナム戦争などを連想していく。

この曲がヒットした1971年に10歳だった尹大統領は、歌詞の意味がわかったとしても、感動できる世代ではない。1960年代には物心ついておらず、その時代を知らないからだ。

しかし、ドン・マクリーン(1945〜)とほぼ同年のバイデン大統領(1942〜)の世代には、グッとくる。

それがわかって歌っていると思うから、「こいつ、できるな」と思うのである。




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