魔女狩り、アカ狩り、壺(旧統一教会)狩り
東スポが昨日(12日)、訂正記事を出した。
8月29日配信記事「旧統一教会イベントで安倍元首相側近・萩生田光一氏『四つん這い』証言 元女性信者が赤裸々に!」は事実ではありませんでした。本件記事を直ちに削除しました。併せて、元女性信者の証言を裏付け取材することなく記事を掲載しましたことについて、萩生田光一氏及び関係者のみなさまに深くお詫び申し上げます。
これだけの「お詫び」ではよく分からないが、記事は、以下のような内容だった。
(2013年5月頃、萩生田氏が)教団の敬礼儀式、通称「統一礼拝」でヒザをつき“四つん這い”になった
萩生田さんが参加して、私たちと同じように礼拝を1000回やったという話が信者間で広まった
みんなと一緒に50回ぐらいやって、幹部の人と出ていった
萩生田さんは11年ごろ、八王子の高級ホテルなどでセミナーをやっていて、そこにも教団の信者がスタッフで行かされてました
萩生田さんは文鮮明教祖(故人)の親族から直接応援されていて、教団内でも強い力を持つ感じ。信者の間ではそういう認識があった
(agoraの記事から引用)
ディテールが生々しく、「安部元首相側近」が強調され、いかにも安部氏が同じような密接ぶりだったかのように思わせるものだった。ネットでバズっていたのを覚えている人は多いだろう。国葬反対や政権支持率低下に影響したのは間違いない。
記事は8月29日に出され、1週間後の9月6日には誤報であることを東スポは認めていた。それからさらに1週間たって、この小さな訂正記事が出た。その間の風評被害は、もう取り戻せない。
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昨日、統一教会報道がマッカーシズムに似てきたと書いたが、いよいよその思いを強めた。
アカ(commie 共産主義者)狩りの場合だって、共産主義の脅威を真面目に説く人がいて、いまの視点で見ても決して間違っていない。
今回の統一教会報道でも、霊感商法の悪などを真面目に追及している人はいるだろう。
しかし、そうした一握りの「良心」は、メディアの暴走と、便乗する政治的思惑によって塗り潰され、スキャンダリズム一色になる。
それがマッカーシズムであり、多くの被害者が出た。少しでも関係があれば「汚染されている」と見なされ、社会的に排除・制裁された。統一教会報道もそうなっているから、これを「壺狩り」と呼びたい。
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アカ狩りと「壺狩り」の歴史的類似点を挙げておこう。両運動では、以下のようなイメージが社会に吹き込まれている。
・破壊的な考えを持つ人間たち(共産主義者、統一教会信者)が、何食わぬ顔で我々の社会に入り込んでいる
・彼らは、日々陰謀をたくらみ、我々を洗脳して社会や政治を乗っ取ろうとしている
・すでに多くの人が、彼らの邪悪な思想に洗脳され、汚染されているが、外からは見えにくい。
・名前だけではわからないが、さまざまな団体や組織が、もう実質的に彼らのものである。
・今まさに、権力の中枢が、彼らによって乗っ取られようとしている。危ない!
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マッカーシーの活動は1950年代から活発化したが、アカ狩り自体は第二次世界大戦前からあり、「共産主義の恐怖」はすでに大衆の中に吹き込まれていた。
有名なハリウッドでのアカ狩りは1940年代後半で(だから、しばしば誤解されるが、それにマッカーシーは関係していない)、冷戦の始まりとともに「反共映画」も多く作られている。
つまり、マッカーシーズムの前に、「アカは怖い」という大衆イメージが作られていた。それに乗って、メディアも赤狩りに協力していった。
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今回の「壺狩り」についても、すでに「カルト宗教」「邪教」についてのイメージの刷り込みがあり、それに沿ってメディアが過熱していくことになる。
大衆は「カルト宗教」の話題が大好きだ。今回もよく「オウム真理教」が引き合いに出されるが、「カルト好き」の起源はもっと古いし、洋の東西を問わない。
私が最近見始めたNetflixの新作米国ドラマ「オハイオの悪魔」もカルト宗教がテーマだし、アイスランド製の傑作ドラマ「トラップ」の続編もカルト宗教が題材だ。
昨日はブルース・リーの映画で唯一観ていなかった「死亡の塔」をAmazon Primeで観たら、日本を舞台にしたカルト宗教ものだった。そういえば子供の頃見た「赤影」も金目教という邪教と戦うドラマだった、と思い出したり。
結局、こうした大衆イメージの起源を辿れば、「魔女狩り」に行き着くのだろう(日本でも幽霊や妖怪に女が多いのは宗教的に忌避されたからと言われる)。
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魔女狩り、アカ狩り、壺狩り。人類の愚行は繰り返される。ああ・・
<参考>
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