界達かたる / KAITATSU Kataru

小説家らしき人。 noteでは趣味で書いた小説や商業で刊行した本にまつわる話、創作風エ…

界達かたる / KAITATSU Kataru

小説家らしき人。 noteでは趣味で書いた小説や商業で刊行した本にまつわる話、創作風エッセイを投稿していきます。 近著⇛▼講談社『十五の春と、十六夜の花 -結びたくて結ばれない、ふたつの恋-』▽星の砂文庫『いつか目覚める君、もう目覚めない僕』 ets.

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  • ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説

    ラブコメ? 青春小説? ミステリー? それとも……な長編小説です。

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ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -1-

 校舎裏は常に日陰である上、時折強い汐風が吹き抜ける。  藤堂亜麻は校舎裏があまり好きではなかった――より正確に言えば、この時季の校舎裏はだろうか。  季節は春先。四月中旬。  冬を乗り越え、空気がようやく温み始めた時季と言えど、長く留まるにはまだ肌寒い。  それでも今日の昼休み、亜麻は校舎裏まで赴く必要があった。 (なるべく手短に済ませたいわね。真子も待たせているわけだし)  亜麻は速足を心がけて校舎裏へと向かった。  ――約束の相手はすでに待ち構えていた。  同級生の男子

    • ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -9(完)-

      ▼前話(第8話)  雨粒が鬱々と、傘の表面を間断なく小突いている。  もうすぐ六月が終わる。梅雨はまだ明けそうにない。 (本当に、なにもかも終わってしまったのね……)  亜麻は見慣れた家屋の前に佇んでいた。  洋風モダンの小綺麗な住宅。  つい二週間ほど前まで、そこは亜麻の居候先――瀬戸家の家だった。  しかし今では、生活感が失われ、外壁には空家を意味する看板が掲げられている。 「亜麻」  聞き慣れた呼び声が雨音の間隙を縫った。  声の主は真子だった。数日前まで中間服だった

      • ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -8-

        ▼前話(第7話)  真子に啖呵を切ってから、およそ二週間が過ぎた頃――。 (そろそろ、獲れ頃といったところかしら)  誰よりも早く瀬戸家に帰ってきた亜麻は、一人密かにほくそ笑んでいた。  素早く二階へと上がり、自分の部屋にスクールバッグを置く。  それから彼女は、――瀬戸和真の部屋に侵入し、十日ほど前に取りつけていた隠しカメラを回収した。 (まさかあたしの方が、こんな手段を取ることになるなんてね……他人の部屋にカメラを仕掛けるなんて、気が引けるなんてものじゃないわ。だけどこ

        • ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -7-

          ▼前話(第6話)  翌日。朝のホームルーム前の時間。 「それで、昨日の成果とやらはどうだったの? なんか見つけられたん?」  登校してきた真子が早速と言わんばかりに訊ねてくる。少々からかうような調子で。  対して亜麻は、得意げに「ええ」と答え、 「真子にあれだけ協力してもらったもの。なにも見つけられなかったわけないでしょう?」 「え、まさか本当に盗撮したデータがあったとか?」 「残念ながらそれは発見できなかったけど、これを見つけたのよ」  亜麻はスクールバッグの中を漁り、件

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        ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -1-

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        • ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説
          9本

        記事

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -6-

          ▼前話(第5話)  結奈の尾行を行った日から、およそ一週間後。ゴールデンウイーク明け。  誰よりも早く瀬戸家に帰宅した亜麻は、ポケットの中で震えたスマートフォンを手に取った。  画面を見ると、真子からのメッセージが表示されていた。 【真子:妹ちゃん、海浜公園に到着。また漫画を読むみたい】 【亜麻:ありがとう。もし動きがあったら連絡して】  端的に返答し、スマホをポケットにしまう亜麻。  それから二階へと上がり、――結奈の部屋の前までやってくる。 (誰もいないとは分かって

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -6-

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -5-

          ▼前話(第4話)  翌日の放課後。 「……それで結局、亜麻はその結奈とかいう妹ちゃんが瀬戸と共犯者だったって証明したかったわけ?」 「まあ、大筋ではそんなところよ。直接的か間接的かって違いはあるけれどね」  真子と下校していた亜麻は、途中で寄り道をして街中にあるショッピングモールを訪れていた。 「で、適当な理由をでっち上げてパソコンを見せてもらおうとしたけど、ダメだったと」 「ええ。あたしの作戦は完璧だったんだけど、またしてもしてやられたわ。あの男にね」 「瀬戸に?」 「そ

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -5-

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -4-

          ▼前話(第3話)  翌日、学校の昼休みにて。  また例の資料室に真子を呼び出した亜麻は、昨日の一件について打ち明けた。 「……つまり亜麻は、瀬戸が家のあちこちに隠しカメラを設置して、自分のあられもない姿を盗撮しているのではって考えたと」 「ええ……」 「だからお風呂を覗きにも来なかったし、荷物を運び込むふりをして部屋に入ったことにも筋が通ると思ったと」 「そうね……」 「で、誰も家にいない時にカメラ探知機を使って調べてみたけど、カメラは一つも見つからなかったと」 「うん……

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -4-

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -3-

          ▼前話(第2話)  数日後、学校にて。  その日は体育の授業があり、亜麻はいつも通り真子と組んでストレッチを行っていた。その間に、約束していた瀬戸和真に関する経過報告を済ませることにした。 「ふぅん。つまり亜麻は、瀬戸の優しさに絆されて部屋に入れた挙げ句、家具の配置まで手伝わせて部屋の隅々まで把握させちゃったわけね」  ストレッチをこなしながら、亜麻の話を整理する真子。  亜麻は少しだけ不機嫌になり、 「なによ真子、その含みのある言い方」 「含みなんて、別にないけど?」 「

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -3-

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -2-

          ▼前話(第1話)  瀬戸家で居候を始めて、三日。  この間に、亜麻はこれまでなんの興味もなかった、瀬戸和真という男子について軽く調査した。  瀬戸和真、亜麻と同じ高校二年生。クラスは隣。  二年生にしてバスケ部のエース的存在らしく、スタイルもよくてルックスも精悍。口数は少ないが性格は優しいらしく、女子受けもいいとのこと。人間性について悪く言う生徒は一人もいなかった。  家族構成は父、母、妹がいる四人家族。ただし父親は単身赴任中らしく家にはいない。この不在中の父親が亜麻の父親

          ブラックボックス・ラヴァーズ / 長編小説 -2-

          白猫になった魔女 / 連作短編小説 -1-

           ――吾輩は猫である。  ――名前など、とうに捨てた……。 「もぉ。白猫さんったら、またいけずなこと言わはって」  ひょい、と白猫は少女に持ち上げられる。少女の手首にミサンガで結ばれた小さな鈴が、チリンと可愛らしい音を転がす。  ――小娘、いい加減にしてくれぬか。  ――このような道の往来で、吾輩を赤子のように抱きかかえるなど。 「だって白猫さん、ずっと早足やし。こーんな短い足やのにねぇ」  ――無駄に肉球を触るな。ぷにぷにとしてくれるな。  ――そもそも小娘は、な

          白猫になった魔女 / 連作短編小説 -1-

          題の無い少女 / 短編小説

           他人の裸体を見たのは久しぶりだった。  それ自体に特別な感慨はなく、ただ驚きだったのは、目にした裸体があまりに幼かったこと。  齢が十にも満たないような、少女の肉体だったこと。  その頃、私は売れない絵描きだった。  名はイヲリタ。しかしもう、私の名を呼ぶ者はいなかった。名前の意義は形骸化していた。  抽象的な絵ばかり描いていたから家に籠りがちだった。外に出る時分は数日分のパンを買いに出る程度で、知り合いに会いに行ったことも、ここ数年は記憶にない。

          題の無い少女 / 短編小説

          プログラミング教育ってなんのため? / 創作風エッセイ

          ▼登場人物一覧 1.チユリ……全寮制の某女子校に通う少女。質問好き。 2.せんせい……小説家のような人。チユリの質問に答えている。 一つ、思考実験を紹介します――人間とAIの思考の違いを簡単に表した実験です。 ホールのケーキを、三人分に均等に分けたいということになりました。 ある人にこれをお願いすると、その人はなるべく差が出ないよう、ケーキを三つに切り分ける方法について考えました。 しかしAIに訊ねて出た結論は、『ホールのケーキをミキサーにかけて液状にし、計量カップで

          プログラミング教育ってなんのため? / 創作風エッセイ

          弟をつくった / 掌編小説

           お母さんもお父さんも、おしごとでおそい。  だからあたしは、さびしくないように、弟をつくった。    あたしの弟はとってもいい子だった。  どこにも行かず、ずっとずぅーっと、あたしといてくれた。    どんなあそびもいっしょにやってくれた。  かくれんぼも、なわとびも、おままごとも。    だけど、たまに、 「お人形あそびは、はずかしいよ」  りんごみたいに顔を赤くして、かわいかった。    夜までずっとあそんでいたら、おうちのドアがガチャンとあいた。 「ご

          弟をつくった / 掌編小説

          ご機嫌よう、せんせい――ところで、『前』ってどっち? / 創作風エッセイ

          ▼登場人物一覧 1.チユリ……全寮制の某女子校に通う少女。質問好き。 2.せんせい……小説家のような人。チユリの質問に答えている。 世界中には、たくさんの言語があります。 その中でも日本語がとりわけ難しいことは、なにかとよく耳にしますね。 小説家は一冊の小説でたくさんの言葉を取り扱うため、一般的な方から見れば日本語に精通しているような感じがします。 実際のところ、『歳の割に言葉はよく知っている方かな……』くらいの自覚はあります。 それでも――いえ、だからこそかもしれ

          ご機嫌よう、せんせい――ところで、『前』ってどっち? / 創作風エッセイ

          稲妻をまとう少女 / 短編小説

             手狭なこの町で、マトリカリアという少女を知らない者は、果たしていないかもしれません。  それがまったく、私の思い過ごしではないかと疑っても別に構わないのですが、しかし彼女がふらりと、町に姿を見せる度々、群衆がぎゅっと、心の緊張を張り詰めさせる音が聞こえてきそうなので、私の思い過ごしなどとは到底思えないのです。  かく言う私も、マトリカリアと目が合えば群衆の中の一粒です。声をかけようなど毛ほども考えません。無難にやり過ごすことばかり思案し、またその通りの人生でした。

          稲妻をまとう少女 / 短編小説