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弟をつくった / 掌編小説


 お母さんもお父さんも、おしごとでおそい。

 だからあたしは、さびしくないように、弟をつくった。

 
 あたしの弟はとってもいい子だった。

 どこにも行かず、ずっとずぅーっと、あたしといてくれた。
 
 どんなあそびもいっしょにやってくれた。

 かくれんぼも、なわとびも、おままごとも。
 
 だけど、たまに、

「お人形あそびは、はずかしいよ」

 りんごみたいに顔を赤くして、かわいかった。

 
 夜までずっとあそんでいたら、おうちのドアがガチャンとあいた。

「ごめんね。さびしくなかった?」

 お母さんがおしごとから帰ってきた。

「弟があそんでくれたから、だいじょうぶ」

 あたしが言うと、お母さんはこまった顔になった。

「なに言っているの? あなたに弟はいないでしょう」

 あ、そうだった。

 弟はあたしが、つくった子だった。

 まあいっか。もう、ごはんの時間だし。
 
 今日はのごはんは、カレーライス。

 お皿にもって、テーブルにならべるお手つだいをするの。

「お父さん、まだ帰ってこないのかな?」

 あたしが言うと、お母さんはまたこまった顔になった。

「なに言っているの? うちにお父さんはいないでしょう」

 あ、そうだった。

 お父さんも、あたしがつくった人だった。

 あれ? ――お母さんは、どっちだっけ?

 本当だっけ? 作ったんだっけ?

 
 まあ、別にいいか。

 今日もずっと、寂しくなかったから……。
 
 おもちゃの食器を片づけて、あたしは静かに眠った。


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