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制服で高校を選んだら息子のパパに逢えた話

中学の制服が好きではなかった。

ジャンパースカートと丸襟のブラウス、そして細い紐をリボン結びにするボレロ。

好みは人それぞれなので、好き嫌いを感じてしまうのは仕方のないことだ。それに、着るものなど全く気にならない人もいるだろう。

でもとにかく私の場合は、日々着用すべき制服のデザインが酷く苦痛だったのだ。


高校に期待しよう。金ボタンのブレザーと、ジャンスカではないプリーツスカート、キリッとしたワイシャツ。そこにネクタイがいい。ベストもあれば更に嬉しい。


そんなふうに、理想の制服を妄想していた。


そしてその願望を実現させるべく、私は勉強に励んでいた。受験可能な高校の選択肢を増やすために偏差値を上げなくてはと。

好みの制服(高校)を見つけても、学力が足りなければ話にならないのだから。


私はもともとの地頭はあまりよろしくない。
小学校の頃、国語以外は全て2(5段階中)だった。

にも関わらず努力の甲斐あり、2年生の頃には成績がぐんと上がった。偏差値も高くなって60後半。70の時もあった。校内の順位は常に1桁台だった。



それほどまでに、まだ見ぬいつか着るであろうブレザーとネクタイへの憧れは学力向上の強い原動力となっていたのだ。



これは30年以上も前のこと。
(昔過ぎて、なんだか申し訳ない)

平成初期で、キレカジ(キレイめカジュアル)の流行っていた時代。紺ブレにラルフローレンのシャツとか。その頃の話だ。


当時はインターネットやスマホなどがないため、私は高校受験案内の本を購入し、制服紹介のページをまるでファッション雑誌を見るかのようにワクワクしながら暇さえあればチェックしていた。



当時、ブレザーとネクタイの高校は今ほどはなかったけれど、それでも私立には魅力的な制服が多かった。

きっと、それらの何処かには受かるだろう。その為に私は頑張っているのだ。と、努力の賜物である自分の学力を誇らしく思っていた。



とても残念な現実を突き付けられた。

「私立は無理。都立にして」
と親から言われたのだ。

そうだった。我が家は裕福ではない。
私に学力があっても、家にはお金がないのだ。

私的お眼鏡にかなうタイプの制服は私立ばかりだったので、だから当然悔しく思った。

けれども先立つものがないのなら仕方がない。


都立で探そう。ブレザーにネクタイを。
そう軽く考え直した。



が、しかし。
またしても障壁が立ちはだかる。


都立は選択肢が少な過ぎるのだ。


そう。それは、しつこいが30年以上前のこと。


今は、都内在住であるならどの都立高校を受験しても構わない。

でも以前は違ったのだ。

受験可能な都立高校は学区内のみ。
あなたの住む地域の範囲にある高校しか受けられません。という決まりがあったのだ。


これです


ほんとに数少ない選択肢だった。

ちゃんとあるのだろうか。ブレザーネクタイ高校。

不安になりつつ、在住学区内の制服(高校)を調べた。


そしてひとまず偏差値60以上のそれらを確認して私は愕然とした。


結果は、トップの学校から順に

ボレロジャンスカ
ブレザージャンスカノーネクタイ
ボレロジャンスカ


以上。


そう。無いのだ。ブレザーネクタイが。
偏差値60以上はボレロジャンスカか、ブレザージャンスカノーネクタイなのだ。

いったい、私はどうしたら良いのだろう…

ブレザーネクタイのために必死に勉強してきたのだ。

それなのに、学区内トップは全てボレロかジャンスカ高校なのだ。(あくまでも私の好みと合わないというだけの話です)

偏差値60以下なら、理想の制服(高校)があるかもしれない。が、その時の私はまだ、下を探す気にはなれなかった。

例えば偏差値50以下でブレザーネクタイが見つかったとて、きっと、担任や親からも反対されるだろう。


私はしばらく途方に暮れていた。



私は仲良しの友人K子と、同じ高校を受けようねと約束をしていた。なんとなくお互いに、レベルに差がないと感じていたのかもしれない。


そのK子に、トップではない方のボレロジャンスカ高校を受験しようと思うんだけど、楓(わたし)はどうする?と訊かれた。


その高校は偏差値63くらいのところだ。
実際、その時の私には合格圏内の学校。ずっと勉強してきたのだ。地頭が悪いなりに努力して。


でも、その高校はブレザーネクタイではなくボレロジャンスカなのだ。


私はK子に、まだ未定。もう少し考えるねと答えた。



それから数日後、ほんとに数日、2,3日後のことだ。


今度はまた別の友人で同じクラスのN子ちゃんから、
「A高校を一緒に受けない?」とお誘いを受けたのだ。


A高校…
私はその存在をその時に初めて知った。


それで、あまり期待せずに調べたのだ。制服を。


そしたら、驚くことに
ブレザー プリーツスカート ベスト ネクタイだったのだ。だったのだ!

とてもベーシックな濃紺の上下に、白のワイシャツ、えんじ色のネクタイ。
ブレザーのボタンは金ではないけれど、もうそんな箇所はこの際どうでも良かった。


しかもA高校、制服を着用せずに私服登校も可能だというのだ。私服!!

ブレザーとネクタイがありつつも、私服を楽しみたい日はそれでも構わないだなんて懐が深すぎる。
ファッション好きの私のための高校ではないか。

それから偏差値を確認して更に驚いた。
それは59だったのだ。59!!

60以上の高校しか見ていなかったから、1だけの違いにも関わらず全く気づいていなかった。盲目すぎる。そんな自分にもびっくりしていた。


きっと59なら、親や担任からもそれほど否定はされないだろう。約10下げるだけだ。
されど10かもしれないが、めちゃくちゃ心配性の人なら有り得ることだ。


とにかく、私は運命の高校を見つけた喜びで舞い上がっていた。まだ受かったわけでもないのに。
N子ちゃんありがとう!A高校ありがとう!!



けれども時は中3の9月だった。みんなこれから受験への必死さが増していくのだ。ひとり浮かれている場合ではない。


なので喜びは内に秘めて学校生活を続けた。
なるべく顔を引き締めたまま。


ボレロジャンスカ高校を志望するK子に、
私はA高校にすると伝えた。理由は言わなかった。


ていうか言えるわけがない。

制服が嫌だ、ボレロジャンスカを着たくない。とは絶対に言えない。
K子が着るかもしれない制服なのだから。



A高校はボレロジャンスカ高校よりランクが下だ。

K子はきっと、
偏差値が足りないのね。そっか…それなら仕方ないよね。
と、思ったはずだ。それが普通だ。まさか制服どうこうだなんて予想だにしないだろう。


でも、それで良かったのだ。
レベルが足りないと思ってもらえれば。
わざわざ本当のこと(制服)を話す必要もないのだし。


私は、自分の実際の学力というプライドよりも、制服という見た目を選ぶ人間なのだ。

自分自身のことを少し理解した。
自分探し。本当の自分。私は中3で内面を知った。



そして、A高校を教えてくれた感謝すべきクラスメイトのN子ちゃんには、同じく私もそこを受験したい旨を伝えた。


しかしながら彼女からは、
「志望校を他に変えたの。ごめんね」
と報告された。

そうかそうか。。
でも理由は訊かなかった。人それぞれの事情があるのだ。



無事にA高校に合格した。
合計点数は学区内トップのボレロ高校に合格する点数だったが、それでも別に構わないのだ。

ついにブレザープリーツスカートにネクタイを身に着けられる。そこに感動していた。



けれども、私は少し不安だった。


受験最高得点の生徒は、入学式で新入生挨拶に抜擢されるかもしれないからだ。

それはほんとに勘弁したい。
私は人前で目立つことが大の苦手なのだ。


電話が鳴るたび、A高校からかとヒヤヒヤしながら過ごしていた。


しかしそれは杞憂に終わり、一般の生徒としての入学式を迎えた。


念願の制服を着て椅子に座り、例の代表者はどんな人物なのかが気になっていた。担任より気にしていた。


そしてその役目を任されていたのは、とっても真面目そうで且つ賢そうな男子生徒だった。堂々と話す彼は地頭さえ良く見える。私のような付け焼き刃の学力ではなくて。


きっと彼は偏差値10以上も下げて来たのだろう。
もしかしたら実は心配性なのかもしれない。
勝手ながらそう思った。


その優秀な代表者のクラスに、とんでもなく背の高い男子がいた。190cmくらいあるように見える。

今までの同級生に、これほどまでの高身長はいなかった。しかもなんだかとても爽やかなのだ。スプライトやポカリスエットのような。上手く言えないがとにかくイメージがそれなのだ。私の中学にこんな男の子がいただろうか。


それと、更に驚くのは女子たちだった。

これまたとんでもない美女が大勢いた。

中学にここまで可愛い女の子はいなかった(ごめん)。


ハイレベルに美しい人がわんさかいる。
各中学からの美少女コンテスト優勝者がここに集結しているのか。とにかく見惚れてしまう。
しかも、皆おしゃれな雰囲気なのだ。

実際、入学式から私服の生徒も多く、紺ブレのキレカジをたくさん目にした。


きっと彼女たちもファッションが好きで、着るものに拘りたいのかもしれない。紺ブレが流行っている今(平成初期)、制服だってボレロよりブレザーが良いし、私服のおしゃれも楽しみたいからA高校を選んで受験したのだろう。


誠に勝手ながらそう思っていた。



私の息子はいま、都立高校に通っている。

とても素敵なブレザーにネクタイの制服で。

その彼いわく

「中学は学ランだから高校はブレザーが着たい。
ワイシャツは水色とかじゃなくて白の方が良い」


着るものにこだわるんだなぁ。
ママに似てるんだね。


と言いながら、とんでもなく高身長の夫が爽やかに笑った。

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