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犬の思い出

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我が家の犬が出てくる詩をマガジンにまとめました。
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記事一覧

君といた世界

君といた世界

あのね
抱き上げた
君の後ろ頭を見ること
年老いてよく眠るようになった
君の寝顔を見ること
ゆっくり歩く君と
いつもの道を行くこと
それが幸せだったんだ

けれど
春の日に
君は
長い長い散歩に
出かけた
もう会えないんだね

あの日から
心を
真綿にくるんで
しばらく
ぼんやり
しているんだ

君から受け取った愛
愛おしい
耳に馴染んだ
君がたてる色々な音
忘れない鼻先から尻尾までの手触り

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元気でね

元気でね

9月ももうすぐ終わる
そろそろ渡っていくのかな
最後に残った家族が今日も空を飛ぶ

ここで生まれた君たちは
その翼で長く空を渡るのだね
その目で何を見るのだろう
華奢で小さな美しい鳥たちよ

春に逝った私の犬に
今私は心の中で話しかける
絶対の不在が
私の心も空っぽにした春
君たちが山々を越えて
私の勤める山あいの建物に
到着した
そして
秋が近づく今
その犬と共に在る感覚を
私は持つことができる

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ひととき

ひととき

老犬とゆっくり
行ったり来たりの散歩
ジャスミンの花柄をつんで
クリスマスローズの葉の手入れ

キッチンで
扇風機を回して
おでこに風
コーラの氷
指で沈めた

となりの家の庭
歩き始めたこどもの
小さな笑い声

涼しい泡が
はじけて
静かな

眠れぬ夜に

眠れぬ夜に

N駅の向こう側

暗闇の芯に走りこむ車両

車内で高校の制服を着た私が

20代の母と言葉を交わす夢

途切れて

足元が重いのは

君だったか

小さな頭をそっと撫ぜる

こちらとあちらの世界の間に

庭園があるとしてごらん

水を集める石盤に

集まる雫が広がって

浮ぶスイレンの花びらに

風が触れる

星の賑わいが

静まり返る

そんな夜

私の不安は

音楽のよう

大きく

小さく

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さんぽ

さんぽ

三角定規重ね 
こうもり泳ぐ
茜雲

まだちょっと寒いね
猫のぬくもり
トナカイの毛布

シマトネリコの枝
青い卵が4つ

水色の空気
自転車の音

君はゆっくり歩くようになったね

君へ

君へ

長い昼寝
薄目を開けた君の
頭をそっと撫ぜる

君はため息をつく
それは
私も好きって返事

壁のマリメッコ
赤い花が笑っている

少し喉が渇いたね
お水を入れ替えよう
魚のビスケットと
ミルクも少し
おやつにしよう

17歳の君よ
もう少し
一緒にいれるかな

君のこと

君のこと

長くなった昼寝
目が覚めると
足が
こわばって
つっぱるんだ

マッサージをするけど
よろめきながら
水を飲む

私が部屋から出ると
敷居のところで
目をパッチリ開いて
戻るのを待つね

階段にじっとたたずむ姿は
私が小さいころ見た
うちのおばあちゃんとそっくりだとも
後追いをする幼児のようだとも
思うよ

君の若いころ
家族の言い争いが起こると
かけつけた
みんなの間をうろうろして
「諍いはやめ

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