初個展直前に脳梗塞になった話:入院10～11日目(一般病棟5～6日目)

入院10日目 : 点滴

(一般病棟5日目)
ついでに看護士さんにシャワーを頼んだ。しかし昨日入った事を知ってる介護士が近くに居て十骨さん昨日も入ってませんでした？と言われる。病院では人員や安全面から一人週に何回と決められてるとの事。僕はそんなズルをするつもりはなかったのだが、勘違いした看護士さんは危なかったぁと言って笑った。『他の看護士にお願いするのも無理ですからねぇ』と釘を刺された。

廊下の奥で待つ気合いSTさん 

僕の名前を呼ぶ。部屋にやってくる。カップに残った食後のお茶。捨てるのももったいないので僕はこれでうがいをしてた。カテキンだとかなにやらの繊維だとかが良いかも？と思ったというのもある。しかしそれを見た気合いSTさんは『お茶でうがいしてるの？お水頼みなよぉ』と言った。

僕は思う。この心理は【見た目汚い→人間の原始時代からの遺伝子の記憶→原始時代の洞穴→子供に病気→種の保存の危機】と連想した。本能的に種の保存への影響から物事を判断するのだろうと。いや、そもそも普通に気持ち悪いだけなのかもしれない。

気を使う・期待のプレッシャー

早く答えないといけない。でもつじつまも合わせないといけない。僕はそんな強迫観念から言葉の魔法にかかる。浴室→浴場と言ったりした。気合いSTさんも笑ってはいたが、真面目な顔になり言う『浴場 = シャワーは解るよ、でもそんな言葉は普段からか今回の病気からなのか見極めないといけないのよ、だからそれなりの方法でいくからね、圧だと思ってそれを感じたら遠慮なく言ってね』と。言葉を返せずに居たら『天才ですからってのは出ないの？』と和ませてくれた。さすがコミュニケーションのプロだ。

数字を使うリハビリ。気合いSTさんの発する2～6桁の数字。それを複唱する。まずはその順列で。これは自信もあったし比較的正解していた。桁数も増えていく。『なかなかやるわねぇ～』と気合いSTさん。しかし逆順(言い終わった方から)は難易度が高かった。こうやって頭を活性化していくのだ。

ソーシャルワーカー(SW)さんあらわる

夏だったのもあり廊下の奥から汗を拭きながら『STさんの時間もあともう少しと聞いたので来ちゃいました』と言う。SWさんは病院を移る時や退院の時のアレコレを相談出来る人。なので今後転院するリハビリ病院の選択肢を頼んでおいたのだ。SWさんは4件の推奨を持ってきた。

家からの近さ、お見舞いや看護してもらう親族の家からの近さ、リハビリ内容、口コミといったものを考えた。SWさん曰く頼んだからといってそこに決めないといけない訳でもないし、定員が空いてたり、退院する人が丁度居たりしないと入れないとの事。そもそも病床数が多いかどうかも関係してくる。またこのコロナ騒動で受け入れ制限してるリハビリ病院もある。そして入院は長くて150日となる。なのでとりあえず打診しましょうとアドバイスされた。

ちなみに患者は希望すれば退院出来るのか質問をした。【どうしても退院したい】という場合は最終判断は医師だそうだ。勿論、刑事事件、暴力行為で患者や医療関係者を傷付けるのは強制退院であると。それは逮捕にも繋がる。それ以外での強制退院は医師の判断。患者の生活は不安定なのを知ってて非人道的退院判断をとるのか。入院時に身元保証人を記入したのもそのためだとも思う。さらには入院費や治療費をとりっぱぐれない。病院も経営がある。

不穏な空気・退院したい患者

次のリハビリは笑顔PTさん。待ってると当の笑顔PTさんが向こうの談話室で車椅子の患者さんとなにやら揉めてる様だ。患者さんが『だからぁオレは退院したいの仕事がとまってるわけなの！』と言うと、『●●さんは急に倒れて入院しましたし体の事を考えたら今すぐには退院出来ないですよそれに手続きもありますから』と笑顔PTさんが応答している。患者さんは今日にも退院したいらしい。支払いをクレジットカードで済ませたいらしい。エレベーター前に居た女性は奥さんらしい。(コロナ禍で対面見舞いは不可の為。エレベーター前までなら来れる) 従兄弟も呼んでいたようだ。患者さんはクレジットカードを持ってきてもらう為に奥さんと従兄弟を呼んだのだ。結構な大声だったし一悶着ありそうだったのでその場を離れた。

病室にて待つ。笑顔PTさんは現れ遅刻を詫びた。それ以上は何も言わず僕も聞かなかった。

終えて部屋に戻る。汗をかいたので冷える。横になる。眠る。

介護士の体を拭きますか？とのかけ声で目覚める。体を拭くのは週に何回でもOKとの事。下半身が気持ち悪く依頼しようと思った。初対面の介護士だった。印象も良かったので依頼したけども恥ずかしかった。終わってうなだれる。ため息も出る。

入院11日目:コルセットナカガミさん

(一般病棟6日目)
同室のコルセットを巻いてる"ナカガミ"さん。なかなか癖のあるキャラクターである。当然本名ではないが小学校の同級生ナカガミ君に似ていたからそう呼ぶ。明日退院するそうだ。ナカガミさんの所に麻酔の先生が来て『今日午後14:00から退院の前にやった事のない治療方法をやりましょうね』と伝えていた。ナカガミさんはそれを電話で奥さんに知らせる。何故か病室で電話している。丸聞こえである。『これから治療で二時間位だとさ、荷物はまとまってるからな』と。なんとも一方的な昭和の亭主関白を絵に描いた様なその命令口調。なるほど、これが【知らせるからそれを推して図れよ】なわけだ。熟年離婚の理由1位を検索する。【気持ちが判らない】【何も言わない】【急に怒る】【つきまとう】etc...等々。妙に納得した。

さらにナカガミさんは看護士に言う。
『さっき麻酔の先生が来てなにやら今までやったこと無い治療を午後に手術室でやるから午前中にリハビリ担当へ頼んでそれから午前9:30にオレの奥さんが来るからオレへの荷物受け取ってそれから手術室へは車椅子で向かうから誰か頼んで下さい』と健常者でも辛いであろう情報の依頼をしていた。

以前看護士のTwitterで書かれてた『患者のここが嫌』みたいな内容。その時はピンと来なかったけども、今なら判る。オレは患者だぞ？病人だぞ？看護士は召し使いだろぉ？(勿論そこまであからさまでもないけども笑)お金払ってるンだぞ？的な。でも患者は患者だし客は客なだけであって神様じゃない。ただ利用者なだけで対等な立場だと思う。というよりなにせこちらは助けられてる訳だし。感謝しかない。

笑顔PTさん新たな装具

新アイテム。プラスチック製のもので足首を固定する。麻痺してる右足はブランとなってしまうし、足首から先を持ち上げられない。だから固定して爪先が引っ掛からないようにする。リハビリはキツかった。笑顔PTさん曰く歩くためのフォームを思い出すとの事。正しいフォームで歩き、その先には距離を伸ばす目標もあると。装具や補助で守られてたが回数を重ねる毎に距離を伸ばした。笑顔PTさんは満面の笑顔で喜んでた。僕もそれを見て気分が上がるのだ。それと、笑顔PTさんの指摘でスマホは右手で操作して下さいねと。少しでも左脳の刺激に繋げましょうと。

飛躍するかもだけど、国策で健康な人を増やす。でもそれは遅いのか早いのか、それとも丁度良いのか判らない。ただこの国はそういう判断の段階まで来てると言えなくもないだろう。誰も判らない。経営なわけで。病院も農業も漁業も車産業も電気産業もその他諸々も経営なのだ。利益を上げなければ企業は途切れるのだ。

気合いSTさん久々の有給

『これでもね案外忙しいのよ！』僕は何も言ってないが顔を合わせるなり言う。ただどうやら明日は平日で3年ぶりに有給をとるらしい。本人曰く社畜だとの事。

リハビリ内容は図形のイラストが並んでる。気合いSTさんが指した順番を覚えるというもの。まったく追い付かない。目も頭も。後半はもう不明でグズグズで急いで指してしまったが、案の定間違いだった。

気合いSTさんは東京出身との事。以前山手線を自転車で一週した事もあると。『渋谷なんて変わったわよね宮下公園の下なんかブティックだもの』と。僕の上野の知り合いも西東京には行かないと言ってましたと言うと『西東京ってのは吉祥寺？三鷹？』と聞いてきたのでいやいや渋谷ですよと答えた。気合いSTさんは上野から西って事？と笑ってた。東京は至るところで更に進化している。2035年を境に東京も変わる。。。じゃあ明後日ね、よろしく！と別れた。

午後からエコー2件 

2Fへ。血栓が無いか。エコー検査。首と足。まるで組体操。無理な姿勢。右肩が痛い。

生命への冒涜。健常者の驕り。人間の尊厳。哲学。何をもって産まれ何に生きるのか、そして、寿命を全うするのか。人は他人を馬鹿にしないのが当然で尊重し敬わないといけない。でもそれは自分を犠牲にしなきゃいけないわけでもない。正解は限りなくグレー。でも。北極星の様に一点で揺るがない。

お話好きなTさん

長く話した。息子さん2人。旦那さんは6人兄妹の3人男子末っ子。Tさんは姑として次男と住んでる。次男の嫁は大学院出で少しツンとしてると。仲は悪くないけどね。その子供ら、孫も大学1年と高校3年。長男の孫も大学2年だと。ランドセルは1年毎に購入したと。

昔は小姑が怖かった。旦那の6人兄妹が怖かった。今も忘れない当時卵が貴重品で、その卵がなんの具合か不足していた。こちらの方で盗んでないかと家宅捜索されたと。

夜の看護士にバトンタッチ。ちょっと睨んでるような目付きで声も低い人。マスクもしてるから何とも表情は読み取れない。僕は自分のマスクを探しながら『看護士さんに移さない様にしないと』と恐る恐る精一杯のジョークを言った。

そうしたら目が、人辺り好くクシャッとなった。

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