私には、月に一度、人知れず真夜中に天井の一点を見つめて号泣する日がある。 無能感が全身をぴっちりと覆い、私のなけなしの自尊心を窒息させる。箸の上げ下げ一挙手一投足、すべてが人より劣っていると痛烈に感じる。過去の自分の大きな失敗や最近の些細な会話の行き違いまで、大小さまざまな嫌な記憶が私の脳内に大挙し、フラッシュバックがメモリを占拠する。たまらず「あばばばば」と奇声をあげたり、体が自然にびくっと震えてしまうこともある。そしてその気分の波が真夜中になって最高潮に達すると、先述の
とにもかくにも、本を読んでいる。 最近、「Chapters」という選書サービスを利用しはじめた。 Chaptersは毎月4冊の本だけを取り扱う月額制のオンライン書店です。どんな本かはあなたの元へ届くまでのお楽しみ。添えられた紹介文をもとに、気軽に一冊をお選びください。 名前が伏せられたままの本4冊の中から、紹介文を頼りに1冊を選ぶと、それが郵送で送られてくるシステムだ。 ブックカバーやしおりがオシャレで小粋 今回はその利用レポを書いてみようと思う。 本は友達であり恩
この記事は『透明なかべ、とける【書評:ただ、そこにいる人たち】①』の続きとなっています。①はこちらから Mさんの「心配なことがありますボタン」Mさんは大柄な男性で、私が勤務していたグループホームの黎明期から入居している、ベテラン中のベテランだ。 普段のMさんはもの静かで、こちらが言ったことをオウムがえしするかたちでコミュニケーションをとることが多かった。相撲と電車をこよなく愛するナイスガイであり、私は彼と仲良くなりたくて相撲のニュースを見るようになった。最終的にMさんとは
田んぼに囲まれた農道で、灼熱のアスファルトに寝そべり、股間を露わにした男性。そしてその男性の側にいる、私。 さっきまで一緒に歩いていたはずの彼が、不機嫌そうにその場へ寝転がってしまった。どんなふうに声をかけても、彼は岩のように動かない。私は万策尽き、困り果てた。そして、ただただその光景を、じっと見つめていることしかできなかった。 うずたかく見事な入道雲が空へと昇っているのに、地面に寝転んだ彼を見つめるばかりに、私はそれに気づかない。みみずが干からびて死んでいる。丸出しの股
突然だが、私の右前歯は人工物だ。 あれは、忘れもしない小学校三年生の放課後。 学校のロータリーで、ランドセルを背負ったまま、同級生のたっちゃんと追いかけっこをしていた。 ぐるぐるとロータリーを回りながら、小学生特有の他愛もない売り言葉に買い言葉のやり取りをしていたのだと思う。興奮した彼が、突如私の背中を強く押した。 結果、私はその日から「唐突に右前歯二本を失った人の人生」を、予期せず歩むことになった。今回はその出来事を振り返りってみよう。テーマは「人を害すること」につい
私の祖父が死んで、もう4年が経とうとしている。死因はなんだったか、正直憶えていない。享年はたぶん、74歳。長らく患った認知症との闘いのすえ、呼吸器が弱って誤嚥性肺炎になり、医師から延命措置をするか問われた祖母が「もうこれ以上は」と告げて、その長いながい一生を終えたと、聞いている。 父が単身赴任に出ていて男手の望めないなかで、祖母も母も懸命に介護をしながら、ひとつ、またひとつと出来ることを手放していく祖父を毎日、様々な気持ちとともに見つめていたんじゃないかと思う。そんな家族を
先日、ある一本の映画を観るにあたって、自分の半生を振り返り、こういった記事をあげた。 障害者の兄姉弟妹のことを指す「きょうだい」について、当事者の目線でこれまでの人生を振り返ったものだ。私には、3つ下の知的障害をもつ弟がいる。 同じ境遇や、きょうだい児の家族、子育て中の方など、様々な人にこの記事を読んでいただけたようで、非常に嬉しく思っています。本当にありがとうございます。 今回は、私も制作クラウドファンディングに参加した、きょうだいというテーマを日本で初めて扱った短編
「お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい」 下に弟や妹がいる人なら、多かれ少なかれこの言葉に苦しめられた経験があるはずだ。 私にとってもこの言葉は、非常に特別な意味をもつ。 空気を読み、遠慮を覚え、手のかからない「いい子」だと大人に褒められることが、幼い私のすべてだった。家族は私に甘え、私は甘えることが苦手な人間に育った。 私の3つ下の弟は、知的障害者だ。 短編映画『ふたり〜あなたという光〜』公開記念 障害者の兄弟姉妹「きょうだい児」の視点『ふたり~あなたという光~』とい
香水からインスピレーションを受け、それにまつわる文章を書く連載の第2回。今回もエッセイストの梶本時代さんとともに、同じ香水で文章を綴ります。ぜひ読み比べてみてください。 今回選ばれた香水は、 TOCCA【Cleopatra】うつくしいひと 「あのね、甘くないの」 「あれ。姉さん、お砂糖足りませんでしたか」 ママがマグカップに口をつけた瞬間、即座に苦虫をかみつぶすような表情をしたから、その原因は私の淹れたコーヒーのせいだと思った。 「ちがうわ。あなたが思ってるほど、この
先日、Twitter上で、「#RTした人の小説を読みに行く」 に参加した。 私は小説やエッセイを書いている。 こうした企画に参加するのは初めてだったが、予想以上に多くの方から反応をいただいた。創作の楽しさを知る同志がこんなに大勢いることを嬉しく思い、そして同時に自分の作品を「読んでほしい」人の多さに驚かされた。 これまで読む人のことばかり考えていたから、一番身近なこの熱量に気付かなかった。そこで一度、ターゲットを180度変えて、書く人のための記事をまとめてみようと思いたつ
香水の魅力に、触れる機会が増えそうだ。 香水からインスピレーションを受け、それにまつわる文章を書いていく試みを、梶本時代さん( @uni_iga_iga )とともに、はじめることになった。 私自身、香水は初心者だが、奥ゆかしく素敵なものに触れ、さらなる魅力を知りながら、皆さんにもその素晴らしさを文章のかたちでお届けできればと思います。 記念すべき第1回は、ニコライのFIGTEA。 「写真付きポスターに付随するコピー」をイメージしました。 それでは、いざ。 NICOL
小学生時代、飼っていたジュウシマツを、見殺しにした。 理由は、病院に連れていくだけのお金が家になかったから。何日も泣いて暮らした。とにかく必死で世話をし、傍らで彼女を見守った。 この寒波で、路肩のすずめがぼわっと羽を膨らませて、暖をとっている。「ふくら雀」と呼ばれる冬の風物詩が体を寄せ合っている微笑ましい姿は、昔飼っていたつがいのジュウシマツのそれに重なって、思い出してしまう。 今の私なら絶対にそんなことはさせないのに、病院に連れていくだけのお金さえあればと、いまでも思う
皆さんこんにちは、遠藤ジョバンニです(デスボイス) 先日、念願のパーソナルカラー診断に行ってきた。 文フリで知り合ったエッセイスト・梶本時代さん(twitter:@uni_iga_iga )が、パーソナルカラー診断や骨格・顔スタイル診断などのイメコン=イメージコンサルを受け、一気に垢抜けたという体験談エッセイにまんまと影響を受けたためである。 ――私も、できることなら垢抜けたい。そのために、自分が何色人間なのか知りたい。 短絡的で努力を知らない私は、専門家に「あんたはこ
皆様、ここ最近は秋と冬の気候が入り乱れ、日頃、曇りなき眼で服装を見定めていらっしゃるかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか。私は毎日服装に失敗しています。草々。 その日も、皆がトレンチコートや素敵な大判ストールに身を包み、街中が寒さにかろやかに適応してみせた、曇りでした。 私はといえば、通気性の良いレースのワンピース一丁で出かけ、見事に「街から浮かれポンチ」になって肩身を自主的に狭くして、寒い思いをしておったのでした。そんな私が行ってきましたのは、 六本木・森美術館『
皆さんは好きですか? なにがって、バターチキンカレーのことですよ。知ってるんですからね、私以外にも、彼のことを好きな人がいるってこと。 優しく甘い口当たりなのに、徐々に辛さが効いてくる。口が完全に辛くなっている状態から、スプーンで運ぶもう一口がさらに甘くまろやかに感じられて、手が止まらなくなる、アレです。 それはさながら、危険な香りを周囲にふりまきながら、わかったような顔をして懐に入り込んでくる、誰とでも友達になれてしまうような甘い顔つきの優しい男。名前からわかる
最近、夫婦喧嘩をした。 争点となったテーマは「家事・食事・我が家の経済」について。 皆様がご存知の通り、この手垢にまみれた議題は、数えきれないほどの関係性に軋轢を生んできた。その認識で間違っていないはずだ。……え、そうですよね? 不安になってきた。 かくいう私も、そうした争いは自分の育った家庭を筆頭に度々目にしてきた。だから概要や概念というか、「側(がわ)」の部分は知っていて、大体の感想はすべて「しょーもな」という点に帰結していた。 しかし、うちの人と出会ってはや7年