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小説ハウツー本徹底レビュー

先日、Twitter上で、「#RTした人の小説を読みに行く」 に参加した。

私は小説やエッセイを書いている。
こうした企画に参加するのは初めてだったが、予想以上に多くの方から反応をいただいた。創作の楽しさを知る同志がこんなに大勢いることを嬉しく思い、そして同時に自分の作品を「読んでほしい」人の多さに驚かされた。

これまで読む人のことばかり考えていたから、一番身近なこの熱量に気付かなかった。そこで一度、ターゲットを180度変えて、書く人のための記事をまとめてみようと思いたつ。

そんなわけで今回は、文章を書く人の側に寄り添う6冊のライティングハウツー本について、レビューをしてみる。

「書く」ことに携わる多くの人がさらなる上達を望むときに、大きな助けとなってくれる1冊に出会えるようなレビューを目指したい。ぜひお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

なお今回は、合計5つの観点で本の雰囲気を紹介している。

心がまえ :日頃心掛けるべき姿勢や訓練方法、メンタル的なこと
テクニカル:文章を書くうえでの技術的なこと
作者   :作者の立場を主眼に置いて書いているか
読者   :読者の読みやすさの立場から書いているか
最後の項目:本の特徴的で優れた部分

例えば、もっと描写の技術を向上させたい場合はテクニカル、毎日文章を書き続ける習慣の場合は心がまえ、といった具合に、自分の伸ばしたい部分の参考にしてほしい。

今回のラインナップはこちら。

文章を書くことを仕事にしたい・している人へ

秘伝 増補改訂新装版 (〈プロ編集者による〉文章上達〈秘伝〉スクール)著者 村松 恒平 (著)

「文章のプロ」のための一冊、筆で飯を食いたくば、いますぐ買え
読んだほうがいい人:文章を書くことを仕事にしたい・している人
心がまえ :★★★★★
テクニカル:★★★★★
作者   :★★★★
読者   :★★
実用性  :★★★★★
■学べることの一例■
文章のテーマ・温度・テンポ・リアリティ、筆の速度、取材の仕方、出版社への持ち込みについて

編集者・村松先生が、文章に悩む者たちから寄せられた質問に答えるお悩み相談メールマガジンを書籍化したもの。結構過激な表題で始まったが、選書中でもっとも汎用性の高いオールラウンダー的な存在だ。記者・ライター、エッセイスト、広報担当者など、様々なシーンでプロの文章を求められる人々が参考にできる実用的な項目が多い。もちろん小説についても、かなり踏み込んだ作者の意識的な部分にまで言及されている。

「これってどうなのかな?」と思ったままになっている疑問へのアプローチの仕方が見えてくる
一冊。小説をきっかけに「書くことを仕事にしてみたい」と思っている人は、自分に関係の深い項目はチェックしておくといい。定期的に見返すと自分のコンディションや、価値観の指標になる。続編『文章王』もおススメ。

年代問わずこれから小説を書きはじめたい人へ

めんどくさがりなきみのための文章教室 (著:はやみねかおる)

キミの気持ちは、物語になりたがっている

読んだほうがいい人:年代問わずこれから小説を書きはじめたい人
心がまえ  :★★★
テクニカル :★★★
作者    :★★★★★
読者    :★
わかりやすさ:★★★★★
■学べることの一例■
文章の基礎、普段から作者が心掛けるといいポイント

『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズで知られる児童文学の帝王(だと私は勝手に解釈している)による文章指南。物語仕立てになっているが、侮ることなかれ。書き続けるうえで非常に大切なエッセンスがしっかりと詰まっている。例えば、書くことを習慣化すること、そして、文章を完結させること。この本に出会ってから文章を書き始められる人間は、幸運だとすら思う。すでに書いている人間も、本を開き、そこに立ち返る価値は十分にある。文章を書くうえで、作者が大切にするべきことは何なのか、確かな確信を得られると思う。

情熱ほとばしるまま小説を書いている人へ

小説を書くための基礎メソッド (著:奈良裕明)

読者の概念を、作品に持ち込め

読んだほうがいい人:情熱ほとばしるまま小説を書いている人
心がまえ :★★
テクニカル:★★★★★
作者   :★
読者   :★★★★
テンション:★★★★★
■学べることの一例■
プロットの作り方、推敲で必要な視点、より踏み込んだ表現方法

文章を書く私たちが大切にしなくてはいけない友、それは架空の読者だ。読者がちゃんとついてくるための文章はどう描けばいいのか、作家であり指導経験が豊富な奈良先生がやたらとハイテンションかつテクニカルに教えてくれる。実際に手を動かすワークも多く収録されているので、モチベーションを上げながら作業する楽しい時間になるだろう。

非凡であることを望むなら、凡人にも伝わるくらいの技術と視点を身につけなくてはいけないと、この本を読んで思った。WEB小説投稿サイトに作品を上げている人と非常に相性のいい一冊だと思う。

頑張って小説に向き合う局面に来ている人へ

マナーはいらない 小説の書きかた講座 (著:三浦しをん)

本当は人に教えたくないカンフル剤
読んだほうがいい人:頑張って小説に向き合う局面に来ている人
心がまえ :★★★★
テクニカル:★★★★
作者   :★
読者   :★★★★
おもしろさ:★★★★★
■学べることの一例■
短編と長編の違い、効果的な人称、推敲の方法、作家としての気構え

『舟を編む』、『まほろ駅前多田便利軒』シリーズなどで知られる作家・三浦しをん先生がコバルト文庫のWEBサイトで連載していた小説講座をまとめた一冊。この本のいいところは、私が心底尊敬してやまない三浦先生の作家としての思考や技術をトレースできてモチベーションが上がる――だけではない。この本の神髄は、自分が手掛ける小説の執筆が佳境を迎えているときに、発揮されると私は思っている。

目の肥えた編集者や出版経験のある文章教室の講師でなく、あくまで現役の作家の立場で、自分が感じた・心がけていることを体系立てて書いてくださっている。失礼なことを百も承知で言うが、だからこそ「小説を書く者として、これからも頑張っていきましょうね」というエールが、文章から色濃く伝わってくるのだ。これには私も非常に励まされた。

感覚としては、レベルの高い戦友から、アドバイスや励ましを貰うようなそれに近い。ひとり孤独に小説の完成にむけひた走る人の、心の友になること請け負いだろう。

なにより読み物として面白い。作家かくあるべしという先生のスタンスが、この本から匂いたってくる。やはりどうせなら、買ったことを後悔させないような、どんなものでも面白く最後まで読ませてしまう文章を書きたいものだ。

作家性を模索しはじめた人へ

書きあぐねている人のための小説入門 (著:保坂和志)

学んだ技術を身につけるために必要な工程

読んだほうがいい人:作家性を模索しはじめた人
心がまえ :★★★★★
テクニカル:★★
作者   :★★★★★
読者   :★
目から鱗 :★★★★★
■学べることの一例■
小説と作者の精神的なつながり、猫を比喩として使わない

「小説とは、『小説とは何か?』を問い続けながら書くことだ」

散々レビューしてきた技術本だが、仕上げに作家の保坂先生のこちらの本を紹介したい。この本を最後にもってきたのは、大きな理由がある。会得した技術を忘れることもときには必要だということを説明したいからだ。

「小説を書くためのマニュアルはない」

技術に囚われすぎると「自分が本当に書きたいもの」を見失う。なぜなら習った技術を披露するための作品を書きたくなってしまうから。自分が描きたいものを適切に描くために、技術があることを忘れてはならない

表層的に技術書の内容を忘れたとしても、読書経験は、その人のなかにしっかりと根付き、創作するうえでの筋肉やスタミナになる。あなたにしか書けない題材を見つけたとき、筋肉たちは無意識化に動員され、道具として従順に働き、あなたがこれまで見れなかった世界を、見せてくれる。

保坂先生の観点は純文学的な傾向が強いが、それでも小説全般に言えることも多い。自分しか書けないものは何か、自分は何が書きたいのか、作家になる自分を想像したときに、どういう世界が広がっているのか――。

書いていないと実感できない項目が多いので、ぜひ作品を書き続け模索しながらも、保坂先生の独特な視点を借りながらそれを探す旅に出てみてほしい。

おまけ キャラクター理解を深めたい人へ

性格類語辞典  (著:アンジェラ・アッカーマン ,ベッカ・パグリッシ、訳:滝本 杏奈,新田 享子)

思考のひと工程ショートカット
Twitterでおバズりあそばし、一時話題になり記憶に新しい人も多いだろう。

この辞典、なかなか便利だ。それどころか、キャラクターへの理解を深めることが必要なシーンでは、俗っぽい言い方をするとチートアイテム級の価値を発揮する。

たとえば、小説を推敲中、どうしてもキャラクターの行動にブレが生まれてしまったとする。問題に対するブレスト(関連項目の洗い出し)をしようとした場合、この辞典を開き、そこに書かれている項目(性格の要因や態度、台詞例など)に目を通しておくことで「~といえば何かな?」という、項目を挙げていく工程をひとつまるまる省略することができちゃうのだ。例えるなら、ドラム式洗濯機や食洗器のような家電に近い。なくても困らないが、洗濯物を干して乾いたらたたんでタンスにしまう時間や皿を洗う時間が、好きなことをする時間へと変身する。つまり、導入が圧倒的に作者へ思考の余裕をもたらしてくれる

洗い出しを済ませられるということは、思考の余裕をさらに一段階別のことに割くことができる。仕事で企画を考えるときも、想定されるターゲット決め等にも応用できるため、広報やマーケティングの分野でも活躍する一冊だろう。当辞典はポジティブ編とネガティブ編に分かれているので、自分がしたいことに合わせて使い分けても、もちろん両方揃えてもいいと思う。


まとめ

ここまで駆け足で合計6冊の本をご紹介させていただいた。
どれも素晴らしい本ばかりなので、できればすべて読んで欲しいと思っているが、そのなかでも興味を引くものがあれば幸いだ。

ぜひ私と一緒に忘れないでいてほしいのが、「技術書を読みさえすれば、勝手に文章がうまくなるわけじゃない」ということ。そこから何を学ぶかは、自分自身の感性と人格に依る。

「小説家志望から金を搾り取ろうとする本の内容なんてたかが知れてるし時間の無駄。自分は自分のやり方でうまくなる」と思って頭の中の長編をいつまでたっても完成させられない人と、「なんでもいいから上手くなりたい」と素直かつ貪欲に本と対話しながら自分の強みを考えられる人。どちらが強いのか、上記のどれかを読みながら、ともに考えてみよう。

この記事を読んだ皆様が、さらなる良書に出会い、もっと楽しく最高の文章を書けるよう祈りつつ、なにより私がそうなることを願って、このレビューを終わる。


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