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短編作品集

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短編作品集
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#短編小説

カメラ

 「なんでカメラが欲しいの?」

 「別に綺麗な写真が撮りたいわけじゃないんだ。」

 「じゃあ、なんで?」

 「頭が溢れそうなんだよ。」

 「イメージが?」

 「そう。いや違うな。イメージじゃない。」

 「じゃあなんだって言うんだい。」

 「写真で、なんて言うか、写真って、見えなかったものが見えるようになるじゃない。」

 「それって心霊写真のこと言ってるの?それじゃあ、曰く付きの呪い

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無題

 美しき取捨選択。ゴミと宝の境界線。胸に抱く赤子の息づかいは消え入る蝋燭の火のように切なく儚かった。
 私の知る限り最も慈しみ深い目を浮かべたマリーは、私の聞いた中で一番静かな彼女の声を以て私に囁いた。
 「塔の上に布があるわ。それを持って降りて、丘の上で焼いてちょうだい。」
 彼女の声にはもうすっかり恐怖の青さは消え、真っ白なシルクに刺さる鏡面の縫い針の如く澄みきった強靭な意志をありありと私に見

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モグラの空

 「な、なんでこうなったんだっ!」
 モグラは1人、洞穴の中で手を合わせた。神に祈る為ではなかった。この合わされた手の内には一寸の信仰心もない。これは彼の、今までの経験、教育による刷り込みであって、彼の内から芽生えた信条なんてものはこれっぽっちもない。ただ、今のモグラにはもう伝える意味すら無くなってしまったのかもしれない。しかし実際に”そういったもの”によって彼は咄嗟に手を合わせてしまった。もし今

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夢の夢

 俺は何も書けない。
 何も書けなくなった。
 もう無理だ。何も思いつかない。
 クソの掃溜めみたいな頭だ。
 豚の餌ほどのアイデアも浮かばない。
 汚い言葉を並べていれば、自分の内のこの激しい感情の渦が言い表せるのか。
 そこまでわからなくなってしまっている。
 冷静な脳みそだ。言葉が浮かんでくる。
 クソみたいな言葉だ。全部。グシャグシャに破って捨てられる程度の言葉だ。
 これは思いついていな

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旅にくちづけを

――――――――――目が覚めまして?

 ハッとする。
 私は、寝ていた。いつも目覚めは突然。ここは、病院。病院?
 「お目覚めになりまして?」
 誰だ。首をグイと右に捻じり、捲って潰れていく右耳を枕に押し付けてでも、カッと目を見開いて、その声の先、持ち主の口元を辿った。
 「お元気?かしら。」

 (やたら色白肌の、派手にフリルの付いた黒蟻の群れのようなドレスを身に纏ながら、長い睫毛の眠そうな目

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ChatGPTに提案して貰った少女キャラで短編小説

《ChatGPTの提案した設定》
【少女の人物像】
・年齢:16歳
・外見的特徴:身長160cm。細身でスタイルがよく、黒髪で瞳の色は明るい茶色。普段はシンプルな服装が多いが、オシャレにも興味がある。
・性格:社交的で明るく、好奇心旺盛。自分に自信があるが、周囲の意見に敏感に反応することがある。友達思いで面倒見がよく、時には自分のことよりも他人のために尽力することもある。
・背景:高校に通う普通の

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放課後 音楽室 夢見心地な2人

 せんせ。せんせ。
 なに。
 あたしね、好きな人がいるの。
 だれ?
 あたしね、好きな人がいるの。
 だれ?
 あたしね、好きな人がいるの。
 だから、だれ?
 あたしね、
 きかせて。
 あたしね、
 お願いだから。
 あたしね、
 頼むよ。
 あたしね、
 ならもう黙ってくれ。眠りの邪魔を、しないでくれ。
 せんせ。
 なに。
 好きなのはね、
 おしえて。
 おしえて。
 おしえて。
 

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放課後 音楽室 2人

 また音楽室にいた。
 先生、なんですか?
 いや、どうしてるのかなぁって。
 キモ。
 そう言わないでよ。
 キモいよそれ。
 えー。
 ・・・。
 困ったなぁ。
 ・・・。
 なにそれ。
 はは。
 面倒?
 ははは。
 笑ってんじゃねぇよ・・・。
 いやぁ、敵わないなぁってさぁ。
 もうどっかいってよ
 どんな曲を弾くの。
 え、
 どんな曲を弾くの。
 ・・・、流行りの曲、みんなが休み時間

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土曜の昼寝と悪夢と膝枕

 変わるー!変わるー!全部グチャグチャだぁ!あぁ!足がぁ!あぁ!手がァ!全部変わっていくよー!うわー!
 ひえっ!三角形の足場だ。角がとんがっているよ。この角を踏まないといけないの?土踏まずに突き刺さるよォ!痛い!痛い!痛い!痛い!歩かなきゃ!テクテクテクテク!テクテクテクテクテクテクテクテク!!痛いよぉ!!うわーん!!谷の底が見えないんだ。落ちたら戻ってこれないよ。嫌だ。歩き続けなきゃ。

 ビ

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下階の住人

ピ ピ ピ ポーン。 ピ ピ ピ ポーン。 ピ ピ ピ ポーン。
                       ぴ   ぴ ぽーん。

ピ ピ ピ ポーン。 ピ ピ ピ ポーン。 ピ ピ ピ ポーン。
 ぴ   ぴ ぽーんぴぴ。 ぽーん。 ぴ ぴ ぴ ぽーん。

 またあの音がする。床下から。
 俺の部屋の下には宇宙人が住んでいる。
 毎日夜になるとUFOを作っていやがる。
 奴らは上手くやってる

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晴天・高架下・煙草

 雨が明けてすぐに家を飛び出した。ギンギンに突き刺す日差しを避けて水溜まりを弾く。卸したての長靴がチラチラ、真っ青な空を泳ぐ綿雲を反射させている。ピンク色のビニルなきらめきは跳ね返る水滴すら、紐の切れた真珠のネックレスようにキラキラ光らせて、
 「こんなにいい天気なのに!」
 足元ばかり見ている。
 何もかもが煌めいている。ザラザラのアスファルトの切り立ったエッヂが、向こうに立つカーブミラーが、屋

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 この文が視界にかすめた全ての方へ、今から私の吐露することは全て私の純然たる告白である。と同時に言える、その示す真の意味合いを汲み取れば、それは私が私自身の本来なら話したくはないこと、少なくとも今までは殆ど多くの人に話しては来なかったことを公然に晒す、紛れもない告発である。
 私は顔が怖い。これに尽き、これが全ての元凶である。言わんとしていることは状況の目撃がもっとも相応な説明になると思う。私の三

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無題〈夢〉

 「アダムがいて、いたとして、彼はリンゴを食べて、彼は裸で。羞恥を感じる感覚器は彼の脳に元から備わっていたけれど、それが初めて服を着ていない事に作用したのはそのリンゴのおかげで、でも裸体を恥ずかしむ時に使われた脳の領域は、その役目は別に彼の裸体の羞恥を知らしめる為だけに使われていた筈は無い筈で…リンゴは何かの比喩?赤は血の色、太陽の色。それに・・・」
 「なにセンチメンタルになってるの?君のそうい

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コンテクスト

 どうぞお座りください。コーヒーはいかがですか。苦いのはお嫌いで?砂糖はこちらにあります。お好きなだけどうぞ。マドラー?これは失礼、こちらのスプーンをどうぞ。
 本日のお話は・・・、失礼、今日はとてもいい天気ですね。良すぎるくらいだ。部屋は寒くないですか。私はあまり外に出ていないので、外からの方にはこの部屋は涼しすぎるかもしれませんね。私にとっての天気は、そこ、そのラジオから聞こえる3-の数字の並

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