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藍 宇江魚
2022年3月8日 23:35
サミーが帰国する日。 羽田空港、出国ロビー。「サミー。頼んだことが判ったら知らせてね」「うん。任せろ」「台北に着いたら連絡くれよ」「あぁ。分かってる。でも、いつもそうしてるだろう?」「それでもさ、念のため」 サミーは、子犬を撫でるような仕草で純太の頭を撫でた。「子供っぽいから止めろよ」 照れる純太を、サミーは抱締めた。「サミー。周りの人が見てるって」「構わないさ」 ふっと
2022年2月8日 21:47
それぞれの不機嫌 夜中、雷鳴混じりのにわか雨が降った。 朝、純太とサミーが公園へ行こうと外に出た時、路面は乾いていたが公園のグランドは所々ぬかるんでいた。 そのせいで太極拳体操は、普段と逆の配置で行われていた。 二人はグランドを見渡せるベンチにグランドに背を向けて隣り合わせに座って話していたが、体操をする面々の視線が背中に突き刺さるようで妙に居心地が悪かった。 二人の前の
2021年12月25日 16:34
ふぐ鍋 「先輩。家でふぐ鍋なんて初めてよ」「ふぐ料理屋やってる従弟に電話したら、パンデミックの煽りで休業中だったんだよ。頼んだら出張でやってくれるって言うから来てもらったけど。あんた達、運が良いよ。こんなご時世だから食べられないと思ってたんだけどね」「でも、ふぐ鍋って冬もんだと思ってましたけど、中々美味しいわね」「夏ふぐって言うのもあるらしいよ。いつでも美味しいって従弟が言って
2021年12月13日 00:46
「うぉッ。くそッ。あぁぁぁぁぁッ。あーぁ、負けた…」 純太は悔し気にVRゲーム機のゴーグルを外した。 ソファーに座ってノートPCの画面を見ると、やはり同じようにゴーグルを外しニヤケながらもドヤ顔のサミーがソファーに座って純太を見ていた。 事の起こりは、三十分前。 いつものようにビデオ通話をしていた純太とサミーだったが、話題がオリンピックの開催とパンデミックの衰えることのない蔓
2021年11月26日 16:34
柏木愛梨がパートで勤めているネット通販の受付センター内の託児所。 休憩時間を使って彼女は託児所に預けている息子の想(ソウ)の様子を見に来た。「あら柏木さん」 顔馴染みの保育士が彼女に気づいて声を掛けた。゛「想くん。今、お昼寝なの」「あら。そうですか」 保育室を覗くと友達に挟まれて眠る想の寝顔が見える。 愛梨はホッとした。「想。先生の言う事をちゃんと聞いてますか?」 保育士
2021年11月14日 16:04
雷が鳴った。 バケツをひっくり返したような土砂降り。 道路を隔てた茶畑が雨煙に霞んで見える。 僕は坂本園でお茶を飲みながら外を眺めた。 稲光。 そして雷鳴が再び轟いた。 隣にキジトラキャットの奴が居る。 奴ときたら僕の閉じたノートPCの上を占拠して眠っている。 …僕のパソコンを寝床と勘違いしていやがる… 好い気なもんだ。 一際大きな雷鳴。 僕は突然のことにブルッと身体を震わ
2021年11月2日 16:30
SNS:純太と老板によるビデオ通話。 南台公園。 快晴の朝。 広場で太極拳体操。「イー、アー、サン、スー…」 お年寄りたちは日射しを避けて分散して体操をしているため、なんだか少しばかり窮屈そうな感じに見える。 …世の中的にはこれを『密』と言うんだろうなぁ… 僕は、ぼんやりとそんなことを思った。 僕と真由美さんは、広場を見通せる東屋風の休憩所に居る。「純さん。これって何?」
2021年10月8日 14:58
SNS:純太と老板によるビデオ通話『老板。久し振り』 老板(ラオバン)。 台北郊外の猫空(マオコン)にある茶園の主人。 向うでは、店主のことを老板と呼ぶことが多い。 茶園で親しく話しかけてきた時、名前が分からないからそう呼んでいる。 彼にも本名はあり、僕も当然それを知ってはいるが、彼のことをそう呼んでいるうちに馴染んでしまった。『純さん。元気だったかね?』 老板は僕をいつ
2021年10月25日 00:43
SNS:純太と老板によるビデオ通話。『淳さん。お茶、ありがとうね』 父の死を知った老板は、僕に香典を送ってきてくれた。そのお返しに日本のお茶を送ったのだが、どうやらそれが届いたらしい。『いやー。日本のお茶。美味しいね』 僕は東京に隣接した埼玉県下の町に住んでいる。この辺りは都心への通勤圏にあるが日本茶の産地としても知られている。パンデミック以前、この町に住んでいると言うと大抵の人