みすみぞの いずみ

ライター・宮崎に住んでいます

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意味はない

5月の模範解答みたいな空と緑の色、風の匂い。桜の季節には車でいっぱいになるスペースはがらんとしていて、わたしは堂々と真ん中に駐車する。エンジンを切った後、ダッシュボードから取り出したマスクをつけるか否か一瞬だけ悩み、かばんの奥に押し込んだ。 バタンと車のドアを閉めて外に出ると、濃密な5月の空気が鼻の奥まで流れ込む。あまりにてらいのない、ストレートな5月に足元がぐらつく。世の中ってもっと揺らいで、曖昧で、確実なものなんてなかったはずでは。ただただまっすぐな5月がここに存在する

    • 【3/14〜17】短歌まとめ

      季節はパタパタと変わり、こちら南国ではすっかり桜も散ってしまいましたが、わたしは変わらず短歌をやっています。原動力は分かりません。取り憑かれているのかもしれません。 ◆ 七色に染まった雲を実際に見つけて詠みました。ちょっと調べてみたところ、「彩雲」というらしいです。とてもきれいで思わず歌にしたくなったのですが、普通に「きれいだった」っていう内容だとつまらないなと思ってこんなふうに詠んでみました。 ◆ なんでしょうね、春って。長い冬に痺れを切らし、みんな待ち焦がれている

      • 【2/25〜3/12の短歌まとめ】

        また性懲りもなく短歌にのめり込んでいます。誰に頼まれたわけでもないのに、ひとりせっせと詠んでいるもの(と解説らしきもの)をまとめておきたいと思います。 ◆ 日々生活に手いっぱいであるからか、若いころのように空白を埋め尽くすかのような、突如込み上げる孤独感はなくなり、夜はただただ眠るためだけの時間になったのだけど、それでもときおり胸のエアポケットにすとんと落ちてしまう夜がありますね。 ◆ これは『遠雷』を入れたいと思って詠んだもの。好きなバンドの曲名です。遠くに響く雷の

        • 車窓から見えたのは裏側

          ひょんなことから、子どもたちだけで電車に乗って祖母の住む街へ行ってみようということになった。1時間に1〜2本ほどのダイヤで、鈍行に揺られる40分ほどのショートトリップ。わたしが出発駅に送り届け、夫が到着駅で迎える算段だ。 こちらは完全なる車社会なので、電車に乗る機会は極端に少ない。乗車経験としては、幼稚園の遠足で乗ったくらいだろう。ただ、長男は昨年旅行で東京を訪れたので、そのときの経験をしきりにアピールしてくる。しかし、「Suicaは使えないの?」と言う始末で(県内のJRで

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          雨のアジサイ

          雨の朝。雨音で目が醒めるなんて、わたしに限ってそんなセンチメンタルなことは起きない。寝起きのとことん悪いわたしは、ただただいつも通り朦朧とする意識の中、重い身体と頭を引きずり起こす。 見ると、キッチンの窓辺に飾っていた白いアジサイが元気だ。もう1ヶ月ほどそこにいて、ずいぶん元気なものだなと思っていたものの、やはりこの頃は少しシュンとしてきてしまって、さすがにそろそろ寿命かしらと思っていたところだった。一緒に飾っていたヒペリカムは、ひと足先に先日命を終えた。 しかし、今日は

          書くことの意味

          ここのところ、短歌だエッセイだと書いているけれど、まあ難しい。本当に難しい。 わたしは書くことを仕事にしていて、どちらも最終的なアウトプットは同じ「文章」であるけれど、そこまでのプロセスが全然違う。 仕事であれば、わたしは主に取材記事を書いているので、インタビュアーの言葉や、確実なファクトやエピソードがそこにある。もちろん、それをそのまま書くわけではなくて、読者に伝わるように構成を考えたり、言い回しを変えたりするわけで、そこでわたしたちは力量を発揮するわけだ。 しかし、

          りんごのバター焼き

          おままごとの延長のようなキッチンで、彼はするするとりんごの皮を剥き、丁寧に8等分にカットしてバターで焼いた。おそるおそる一人暮らしを始めたばかりで、まだ自炊もままならなかった私はそれを見て心底驚いた。 料理に手馴れた人が作るやつだ。あと、「りんごをバターで焼く」という文化が実家の台所にはなかったので、その意味でもすごくすごくびっくりした。 でも口には出さなかった。なんとなく。「ああ、りんごってときどきバターで焼くよね?」くらいの姿勢でりんごと彼に向き合った。 飴色になっ

          りんごのバター焼き

          たまごをスッと差し出せる母親でありたい

          お裾分けに、ともらった大根が気付けば3本。食い意地が張っているものだから、断るということを知らない。 では、おでんでも仕込むか。大根とたまごだけのシンプルなやつ。仕事の合間に仕込めばちょうどよかろうと思った。家で仕事をする醍醐味でもある。 大根は皮を厚めにむき、悩んだ末に面取りをする。別にしなくてもいいのだ、面取りなんて。煮崩れて困った経験なんてないし。ただ、なんとなく、今は面取りをする自分を感じたいような気がしたのだ。大根約1本分の面を取り、そして満足した。ボウルにこん

          たまごをスッと差し出せる母親でありたい

          髪を切った話

          髪を切った。ここ2年ほどずっと伸ばしていて、40年ほど生きてきた中で最長記録をマークしたので一旦リセットしても良いのではと思ったのだ。 そうとはいえ、伸ばしに伸ばした髪を切るとなると若干のためらいがあるのも正直なところで、伸ばした証にと美容室の椅子に座り、クロスを掛けてもらったところで、後ろから写真を撮ってもらった。 ………思ったよりなげぇな。 背中の真ん中くらいまである。毎日くるくるとお団子にしていたのでそれなりに長さはあると思っていたが、予想より遥かに長く、かつボリ

          ペットボトル選びすら手堅い君

          ホウセンカの花が咲いた。次男が学校で育てていた鉢を持ち帰ってきていたのだ。茎に寄り添うように、葉の根元に真っ白な花びらが幾重にも重なっている。知らなかった。そんなふうに咲くのか。「秋になると種子が弾け飛ぶ」だけだったホウセンカの情報が刷新された。 持ち帰った鉢に、次男は空のペットボトルをジョウロ代わりにしてせっせと毎日水を与えている。ペットボトルは使い込まれ、いつの間にかべっこりと凹んでいた。「別のペットボトルに替えたい」と言うので、それはそうだろうと、資源ごみで集めている

          ペットボトル選びすら手堅い君

          いないことにされたくない

          「十分がんばってるよ」と夫から言われて、そうか、と思った。 国保だ住民税だなんだって去年に比べてざくざくとお金が出ていくことになり、なんだか申し訳なくなって「もうちょい仕事がんばるからね!」とわたしが言ったところ返ってきた言葉だ(もうちょい仕事がんばるとさらに国保も住民税も上がるのは置いといて)。 でも、夫にそう言われた後、一瞬なんだかよく分からない感情に包まれた。そしてひと息ついて、そうか私がんばっているんだな、と思った。もちろん自分でもそれなりにがんばっているつもりだ

          いないことにされたくない

          20年越しに悪態をつく

          車ごと滝に打たれているような雨の中、ハンドルを握りしめて信号待ちをしていると、通りの向かいのガストに配達帰りの店員さんがいるのを見つけた。雨ガッパに雨靴の完全装備で、配達終わりでスクーターから降りたところのよう。「こんな大雨の日に……」と思うと同時にふと蘇ってきたのは、20年前インターネットの片隅に落ちていた文章だった。 かなりうろ覚えだけど、「大雨の日にピザを注文したら、届けにきた店員がまるで子宮から出てきたばかりみたいな顔してた」みたいな内容だったことは間違いない。はて

          20年越しに悪態をつく

          かごフェス 記

          所用でひとり鹿児島へ行くことになり、偶然にも同日に山形屋で 「かごフェス」が開催されていることを知る。鹿児島のクリエイターさんやこだわりの店が集結するイベントらしい。 「へええ時間あったら行ってみよ」と山形屋のホームページを見ながら考えていたところ、スクロールしていた手が止まった。 まち歩きの達人で田の神さぁに詳しい東川隆太郎さんのトークイベントがあるじゃないか!?!? いそいそとスケジュールを確認し、予定より1本早めの電車で向かうことを決める。 ✴︎ ✴︎ ✴︎ 久し

          金太郎飴的日々を見つめて

          生活というのは、おしなべて淡々と過ぎていくものだ。ドラマのように、3人の元夫から好意を寄せられたり、能楽師の人間国宝である親の跡を突然継ぐことになったりはしない。ふと気づけば、昨日と今日の区別がつかない金太郎飴のような日々が続いている。 だけど、例えば連休明けに苦手な歯医者の予約をうっかり入れてしまっていたり、エンドレスに届くTwitterのスパムを無の表情で報告&ブロックしていたり、よくよく見れば、金太郎飴の断面の表情も少しずつ違うはずだ。 昨日と今日は似て非なるもの。

          金太郎飴的日々を見つめて

          心に海がない

          「オーシャンビュー」と呼ぶにはいささかラグジュアリー感に欠けていたものの、穏やかな入り江のほとりに佇む静かな部屋をわたしはいっぺんで気に入ってしまった。 最新の設備が整っているわけではないし、部屋がそう広いわけでもない。スタッフから熱気あるホスピタリティ精神を感じるわけでもない(褒めてる)海辺のホテル。部屋にベランダはなく(角を切り取ったような外に出られる1/4畳ほどのスペースはあった)、はめ殺しの窓には日がな一日入り江の様子が一枚絵のように映し出され、波の音が途切れること

          野良のライターだからw

          「そろそろ腹括りなよ」と聞こえた気がした。 ◆ こんなことを言うと同業者の方々に叱られてしまうかもしれないけれど、ことさらにライターになりたいと思ってこの仕事を始めたわけじゃない。当時まだ小さかった子どもたちを見ながら家でできる仕事はないかと探していたときに見つけたのが、この仕事だった。 ありがたいことに、そんなわたしでも仕事が少しずつ増えてきた。想定していたよりも仕事の量は増え、幅が広がった。そして、進めば進むほどこの先は沼地が広がっている。 ◆ 原稿が真っ赤にな

          野良のライターだからw