りんごのバター焼き
おままごとの延長のようなキッチンで、彼はするするとりんごの皮を剥き、丁寧に8等分にカットしてバターで焼いた。おそるおそる一人暮らしを始めたばかりで、まだ自炊もままならなかった私はそれを見て心底驚いた。
料理に手馴れた人が作るやつだ。あと、「りんごをバターで焼く」という文化が実家の台所にはなかったので、その意味でもすごくすごくびっくりした。
でも口には出さなかった。なんとなく。「ああ、りんごってときどきバターで焼くよね?」くらいの姿勢でりんごと彼に向き合った。
飴色になったりんごは100均の青い大皿に乗せられ、西から射し込むひかりに照らされていた。
味のことは全然覚えていない。
ほどなくして彼からはあっさりと振られた。
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