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20年越しに悪態をつく

車ごと滝に打たれているような雨の中、ハンドルを握りしめて信号待ちをしていると、通りの向かいのガストに配達帰りの店員さんがいるのを見つけた。雨ガッパに雨靴の完全装備で、配達終わりでスクーターから降りたところのよう。「こんな大雨の日に……」と思うと同時にふと蘇ってきたのは、20年前インターネットの片隅に落ちていた文章だった。

玄関を開けると、子宮から出てきたばかりみたいな顔したピザ屋の店員がそこにいた

かなりうろ覚えだけど、「大雨の日にピザを注文したら、届けにきた店員がまるで子宮から出てきたばかりみたいな顔してた」みたいな内容だったことは間違いない。はてダだったか、魔法のiらんどだったか忘れてしまったけれど、知り合いの知り合いの知り合いくらいの男性が書いているブログで、当時EZweb(!)のお気に入りに入れてなんとなく時折読んでいた。そして、この文章に強烈な違和感を抱いたのを件のガストの店員さん越しに思い出したのだ。

ただ、当時はその違和感をうまく言葉にできず、もやもやと消化不良なままだった。けれど今ならわかる。20年の時を経て、そこそこ酸いも甘いも嚙み分けて、少々の図太さを手に入れた今のわたしなら。


「“子宮”というインパクトあるワードを何のためらいもなくチョイスできちゃうオレ」感!!!!!!!

(※個人の感想です)


前後の文脈はおぼろげだけど、そこに「子宮」が出てくる必然性は全然なかったのは確かだったし、よほどお気に召されたのか、文中で二度「子宮」を使った表現を繰り替えしていた。

つうかさ、「子宮から出てくる」ってなんなのか。生まれたての赤子のことを言いたいのか。だとしたら、子宮から直で出てくるんじゃなくて産道を通って膣から出てくるのだが。よしんば子宮からだとするなら帝王切開なのか。そもそも見たことあんのか? あ?????


……すみません。毎月いまだ言及の臓器に振り回されている身として、そして上の子の出産に丸2日かかった身として、つい口が過ぎました。もはやインターネットの深海に沈んでいる20年も前のチラシの裏に悪態をついたって何にもなりはしないのに。(当時のインターネットは民主化されてそう間もなく、今の感覚やルールで断罪しても意味はないし、当時のサブカル的文脈にありがちな露悪的なふるまいを売りとするブログではあったことは付け加えておきます)

だけど、物書きとしてこういうパターン身に覚えがあってヒィっとなったのも事実で。

「うわこれやばいおれ天才!」とかいって思いついたテキストとかフレーズに限って置き場がない。むりやりはめ込もうもんなら文章まるごと崩壊する。そうやって泣く泣く手放したフレーズ山の如し。結局そういうのってエゴが入りすぎていたり、主観が過ぎたりしていて使えないものなのだよな。


20年も前の文章を持ち出して勝手にワーワー言った挙句、自分にもまあまあ思い当たる節があり、振り上げた拳をそっと下げたという話でした。



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