たまごをスッと差し出せる母親でありたい

お裾分けに、ともらった大根が気付けば3本。食い意地が張っているものだから、断るということを知らない。

では、おでんでも仕込むか。大根とたまごだけのシンプルなやつ。仕事の合間に仕込めばちょうどよかろうと思った。家で仕事をする醍醐味でもある。

大根は皮を厚めにむき、悩んだ末に面取りをする。別にしなくてもいいのだ、面取りなんて。煮崩れて困った経験なんてないし。ただ、なんとなく、今は面取りをする自分を感じたいような気がしたのだ。大根約1本分の面を取り、そして満足した。ボウルにこんもりと大根が山になった。

さて、ゆでたまごについては毎度何個作るべきかで頭を悩ませる。我が家は4人家族だが、次男がゆでたまごを食べないので1人1個の原則に従えば3個で十分。しかし、たまごといえば一般的におでんのスタメン、主役、キングオブおでんなわけで、それは我が家とて同じこと。「もう1個食べたかったな……」と言われたときに、スッと差し出せる母親でありたい……。などと逡巡した結果、今回は5個で落ち着く。

小鍋へ、水と共に5個のたまごを投入し、火にかける。鍋底からフツフツと気泡が浮上し、たまごがグラグラと揺れ出す頃に、やはりこんにゃくと厚揚げくらいは入れた方がいいのではと思い始めてきた。

たまごが茹るのを待ち、近所のスーパーへ少し遠回りして向かう。寒さを覚悟していたが、思いのほか心地よい陽気だ。この時期らしい冬の空には筋状の雲。うっかり、あばら骨のようだな…と思ってしまう、詩的なおもむきのカケラもない自分の感受性に乾いた笑いが出る。

予定通りこんにゃくと厚揚げを手に取り、ついでに結びこんにゃくもカゴへ入れ、目についたチューブのからしも、あらかじめ買うことを決めていたのごとくスムーズに入手。まるで無駄のない動きで、レジへとコマを進めた。ふとカゴの中を覗くと、こんにゃくに厚揚げ、結びこんにゃくにからし、と「おでんをこれから作らんとす」という気骨あるラインナップで笑う。無人レジだったので誰にも気づかれることはなかったが、有人レジであれば担当者から「おでん作る気だな……」と確実に思われていただろう。

帰宅。大根を下茹でし、こんにゃくを三角にカットしてアク抜きをする。毎度アク抜きの加減が分からない。とりあえず、「湯にさらす以上グラグラ茹でる未満」程度にアクを抜く。厚揚げも三角にカットし、結びこんにゃくは水にさらして軽く洗う。冷蔵庫にあったシャウエッセンも入れてやろう。味付けは白だし一発。最近はおでんを作るときくらいにしか出番のなくなってしまったストウブの鍋を出し、全部の具材をドサドサと入れた。

あとは火が通り、味が染み込むのを待つだけだとひと息つく。これでは仕事の合間におでんを仕込むのではなく、おでんを仕込む合間に仕事をしているのではないかと思わず笑った。

目論見通り、たまごは5個で正解だった。スッと差し出せる母親であれた。シャウエッセンが足りなくなってしまったのは予定外だったけれど。

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