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【読書感想】すべての失恋男たちに捧ぐ、爆笑妄想青春巨篇

1.『太陽の塔』森見登美彦

出版社:新潮社
発行年:2003年
書名:たいようのとう
作家:もりみとみひこ
文庫本:231ページ
カテゴリー:青春、恋愛、コメディ

評価:★★★★☆

本作は、『夜は短し歩けよ乙女』で知られる森見登美彦のデビュー作である。

第15回日本ファンタジーノベル大賞(2003)を受賞し、井上ひさしが選評で「美点満載の文句なしの快作」と表現している。

「太陽の塔」とは、1970年に開催された大阪万博のテーマ館の一つとして建造された建造物であり、芸術家の岡本太郎が制作した芸術作品である。

70メートルを誇る高さを持ち、前面には金色の顔と腹部に刻まれた顔、背面には黒い顔が描かれており、それぞれ未来・現在・過去を表している。

その異様な出で立ちは、言ってしまうと恐怖や狂気を感じさせるというか、筆舌しがたい神秘性を秘めている。

題名にもなっているこの「太陽の塔」であるが、正直、本作ではあまり重要な位置を占めている訳ではない。
しかし、なぜか分からないけど底知れない魅力を持つという点で、建造物の「太陽の塔」と作品としての「太陽の塔」は共通性があると言える。


2.あらすじ

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。


3.登場人物


本作の語り手。大学5回生で自主休学中。3回生の頃、所属していた某体育会クラブに新入生として入会してきた水尾さんと交際するが袖にされる。

水尾さん
「私」と交際していた本作のヒロイン。本作タイトルである太陽の塔をこよなく愛する。

飾磨大輝(しかまだいき)
「私」の一番の悪友で法学部5回生。司法試験受験生。非常に弁が立ち、情報収集能力にも長けている。

高籔智尚(たかやぶともなお)
大学院に所属している。「私」、飾磨、井戸とは友人である。2mはあろうかという巨体、剛毛な髭を携えているが、中身は実は大人しいオタク。

井戸浩平(いどこうへい)
大学院に所属している。法界悋気の権化。

遠藤正(えんどうただし)
大学3回生で法学部所属。映画サークルに所属しており、些細なことから「私」と対立し、不毛な争いを続けていくことになる。


4.感想

①個性豊かな登場人物たち

本作には個性豊かで、少しひねくれた愉快な人物たちが登場する。というか、そういう人しかいない。

本作は主人公の手記という形で物語が進んでいくが、肝心の主人公である「私」は自身を過大に評価する節がある。
また過去に振られた水尾さんに対して「研究」と題したストーカー紛いの行動を平然と行っている。
まずこの時点で私は「こいつやばい」と思った。

そんな主人公がいつもつるんでいる仲間たち(飾磨、高籔、井戸)も中々の粒揃いで、4人でいつも集まっては酒を酌み交わし、嫉妬や妄想を言葉に変え、要らぬ会話を永遠と繰り返している。
そんな日常を飾磨はこのように表現している。

「我々の日常の九十パーセントは、頭の中で起こっている」
                  飾磨(p.82)

くだらない妄想に耽り、社会に反旗を翻そうと自分勝手に苦しむそんな彼らも実は幸せを願う普通の人間なのであり、不純なのか純粋なのか分からない彼らに誰もが愛情を抱いてしまうだろう。


②ラブコメディ

個性豊かな人物がたくさん登場する本作であるが、森見登美彦のユーモアな表現や構成によって、作品自体がさらにユーモラスなものになり、喜劇を見ているような感覚を味わえる。
またそこに恋愛という甘い要素が加わることで、より人間的で情動的な作品になっている。

森見登美彦も奈良県生まれで、京都大学出身ということで、関西育ちであることから、話のオチへの持っていき方やテンポ感が非常に洗練されていて、読んでいて苦にならず素直に笑いながら作品を読むことが出来た。


5.まとめ

本作がどのような展開でどこに向かって物語が帰着していくのかは読んでみてのお楽しみだが、最後のこの文はぜひ紹介したい。

何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。
そして、まあ、おそらく私も間違っている。
                  本文(p.231)

自らの考えを信じて疑わなかった彼らが、どのようなアクションを起こし、結果的になぜこのような考え方に至ったのかに注目してみなさんも読んでみてください。

熱くて胡散臭い妄想男子をぜひご笑覧ください☺️



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