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56歳で急性心筋梗塞その2「退院後の近況」

 私が心筋梗塞を発症して人生初の手術、入院、退院までの顛末は、56歳で急性心筋梗塞その1「手術と入院の体験記」に書いているのでそちらをご覧いただきたい。ここからは退院後の近況について書いておく。



1:退院の日

巨大なT大学病院

 初めて見るロビーは大学病院らしい広大な吹き抜けの空間だった。私が以前、外来診療でT大学病院に来ていたのは20年も前のことで、この病棟は建てられていなかった。今回の手術や入院の精算は後日、支払いは銀行振込となっているので会計を待たずにこのまま帰宅する。患者でごった返すエントランスを出て車寄せまで歩き、妻が運転する車に乗り込んだ。

 10日ぶりの我が家である。入院している間、これからの生活や仕事のことを考えていた。サラリーマンではないので時間は比較的自由になるが、しばらくはリハビリが中心の生活となるだろう。自宅はいつもの風景だけれどいろいろと変えていかなければならない。

こんがり焼いたチーズトーストは美味しかった

 お昼前に帰宅したので、初めての食事は軽めのチーズトーストにしてもらった。退院後の食事制限はないが、バランスの良い食事を心がけること、脂質の多い食物は避けることと言われている。今後の食生活については妻も気にかけていて、特に塩分摂取は入院時の1日6gに近づけるよう努力することで納得していた。

大量の薬を処方された

 昼食後、これから毎日摂取する薬を再確認した。薬は全部で12種類で、治験薬と、皮膚科から処方された「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」のための抗生剤も含まれている。薬のほとんどは朝食後の摂取となっている。塩化カリウム末と抗生剤のみ、毎食後に摂取する。

 癌で肺の一部を切除し糖尿病を患っている父親や、脳梗塞で左手が麻痺している母親も、毎日大量の薬を摂取している。「そんなにたくさんの薬を飲むなんて、かえって具合が悪くなるのでは」とずっと思っていたが、いざ自分が術後の薬を摂取しなくてはならない状況になると、体にメスを入れた代償なのだと納得せざるを得ない。

実に爽快だ!

 午後になってシャワーを浴びた。入浴は心臓に負担がかかるので制限されている。入院中は時折、看護師に身体を拭いてもらうだけだったので、何も考えずに温かいシャワーを浴びているだけで幸せだった。

 人生で毎日が充実していることはとても大切だ。全てが揃った毎日を繰り返していると、一つ一つの行為に特別な感情を抱かなくなる。あって当たり前に慣れてしまうと生活が雑になってしまうのだ。入院して行動が制限された毎日を繰り返したことで、当たり前の生活の素晴らしさを実感することになった。たった数十分のシャワーの時間が、本当に心も洗ってくれるのだ。

とにかく美味い!

 夕食は、いつも妻がつくってくれる「あっさり味のラーメン」にしてもらった。あっさりと言っても病院食と比べれば旨み三昧で、大満足の食事だった。

自宅でもCPAP

 これからの生活サイクルは午後10時就寝、午前6時起床を目標に掲げた。そして、睡眠時無呼吸症候群への対応策としてレンタルされたCPAPを装着して寝床についた。


2:ミッション「アップルウォッチを購入せよ」

 昨晩は午後10時に寝床についたものの、入院中同様、夜中に何度か目覚めてしまいぐっすりと眠ることは出来なかった。「胸水」つまり肺の外側に水が溜まる症状を改善するため、利尿作用のある薬を服用しているので夜中でも尿意で目が覚める。CPAPを装着しての就寝については、意外にも苦ではなかったので少しほっとした。

超高機能な Apple Watch

 今後の生活については自己管理が大切になってくる。その強い味方になってくれそうなのが、アップルウォッチだ。調べてみると、最新モデルではヘルスチェックアプリの機能が充実しているらしい。脈拍や心電図、睡眠時の状態まで、腕に装着していればつぶさに記録してくれる。リマインダーを設定すれば薬の飲み忘れも防ぐことが出来る。最新のアップルウォッチは安くはないが、妻に告げると「買いなさい」と二つ返事だった。すぐさま購入することが退院後の第一ミッションとなった。

 とにかく実物を確認したかったので、Apple Storeへ行くことにした。電車に乗って外を長く歩くことにはまだ抵抗があったので、車で出かけることにした。数十キロの距離を自分で運転してみたが、問題はなかった。到着後、店頭で販売中のすべてのモデルを試してみた。アップルウォッチはベルトを交換できるので、自分の腕に合うデザインを物色して、面ファスナータイプのNikeスポーツループを同時購入した。これでミッションコンプリート。

 アップルウォッチは、iPhoneとの連携で真価を発揮する。帰宅後、早速ペアリングを行なって準備完了。これで毎日のリハビリ、身体の状態を記録確認できるようになった。


3:iPhoneを使ってヘルスケアを徹底する

私のスマホは iPhone12mini

 iPhoneのアプリ「ヘルスケア」には様々な情報が記録できる。心臓の項目だけでも、心拍数、安静時心拍数、心拍変動、心肺機能、歩行時平均心拍数、心電図などを毎日記録できる。また、血圧、高心拍数の通知、心拍数回復、心房細動履歴、低心拍数の通知、微小循環指標、不規則な心拍の通知など、必要な情報を入力しておけば、異常を検知して知らせてくれる。

iPhoneとの連携で真価を発揮する

 服薬の内容も詳細に記録できるので入力しておいた。薬の色や形状から効能、朝昼晩の服薬予定時刻まで詳細に登録することができる。まるでお薬手帳のデジタル版だ。これらの情報の多くが、アップルウォッチと共有されるのだ。

心臓のケアと、心のケア

 ヘルスケアアプリでは身体の測定値だけでなく、その時の気分を入力することで心の健康状態も合わせて記録できる。心と身体は一心同体ということだ。iPhoneがこれほど高機能だったとは驚きだ。データ解析だけでなく、ヘルスケアについての解説も充実しているので読めば勉強にもなる。これまではSNSをはじめとしたエンタテイメントや、仕事の連絡手段が iPhone の主な使用目的だったのだが、これからは自己管理ツールとしても活用していきたい。


4:自宅周辺をウォーキング

自分のペースで無理せずに

 アップルウォッチを装着して、いよいよ自宅でのリハビリ開始だ。1日の消費カロリーを300kcal、エクササイズを30分間、毎時必ず立ち上がることを目標にした。これはフィットネスアプリの初期設定値である。初日こそ15分程度のウォーキングで疲れてしまったが、2日目からは30分間のウォーキング、約2kmを歩くことが出来るようになった。冬の日中でもうっすらと汗ばむくらいの運動だ。入院中のリハビリでは、心拍数が毎分95拍を越えないように指導されていたが、自宅周辺のウオーキング結果を確認すると最大で毎分105拍程度を記録していた。心臓に過度な負荷をかけてはいけないが、心拍数を一定に維持しながらのウォーキングはなかなか難しい。

 アップルウォッチのおかげで目標が視覚化されて、1日のゴールを達成するのが楽しみになってきた。もうしばらくは毎日続けることが第一の目標で、慣れてきた頃に目標値を上げていきたいと思う。

がんばれ!私の心臓

 ただ、不安は常につきまとう。いつ突然、心臓に不具合が起こるかもしれない。心筋梗塞の術後、稀に心室細動などの症状が起こる場合もあるようだ。私の心臓の右冠動脈には、心臓カテーテル手術によるステント(金属で出来た網状の筒)が挿入されている。これは身体にとっての異物なのだ。一度弱ってしまった心臓が、このステントとうまく共存して日常を取り戻してくれることを願う。

 まずは三週間後の診察日までリハビリを続けていきたい。無理は禁物だ。


5:体重と睡眠の変化

左下りのグラフがちょっと嬉しい

 体重の変化をみてみると退院直後から一週間で、72.25kgから70.2kgへと約2kgの減量となった。手術前からだと約5kg減った計算だ。規則正しい生活や、30分程度ではあるが毎日のウォーキングの成果だと思われる。中年のお腹はなかなか凹まないが、この生活を続けていればいつかはスタイリッシュな体型を獲得できるかもしれない、などと妄想する。毎回ウォーキングの後は心地良い筋肉痛だ。

CPAPではぐっすり眠れない

 睡眠について、ヘルスケアアプリの解析によれば約8時間の就寝時間のうち、当初3時間37分だった睡眠時間が5時間39分に伸びていた。睡眠時間の大部分を占めるコアと呼ばれる時間帯も長くなってきている。術後の眠れない日々からは脱却したが、ぐっすりと眠れる感覚はまだ無い。慣れないCPAPからの冷気で鼻の頭が冷たくなって心地悪いことも影響していると思う。

 退院後の日々は始まったばかりだ。これからは、筋力をつけて熟睡できるようになることが当面の目標である。

(了)

56歳で急性心筋梗塞その3「心臓リハビリテーションの開始」へ続く


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