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【短編】たまごやき ③
翌日。
蘭子は起きた瞬間から、憂鬱だった。
卵焼きをうまく作れる自信が全くない。
普段料理をしない蘭子からしたら、綺麗で美味しい卵焼きを作ることは、一朝一夕でどうにかなるような易しいものではなかった。
晴代はおろおろとしながら卵焼きを作る蘭子に、優しく教えてくれた。
「少し火が強すぎるかもしれないねぇ」
「優しく、でも大胆に卵をひっくり返したら、案外うまくいくのよ?」
「蘭子、とても上手にできたね
【短編】キーボード ~小学生のぼく~
「イタッ!」
「あっ、ごめん」
「だから! 強くたたきすぎっ! いつも言ってるじゃん!」
ぼくのパソコンのキーボードは、
いつからしゃべるようになったんだろ。
このパソコンがぼくの家にやってきたのは、小学1年生のとき。
両親は共働きで家に帰っても誰も出てこないし、「ただいま」と声をかけても自分の声が反響するだけ。さみしいとは違う気持ちがあった。
帰宅して手洗いうがいをして宿題をする。終わるこ
【短編】たまごやき ②
カッカッカッ、カッカッカッ。
晴代が卵をかき混ぜる小気味の良い音は蘭子の心をくすぐる。
ジーッ。
フライパンの温度を確かめるために、菜箸に付けた卵を一滴、落とす。舞台の幕が上がるときに鳴るブザーのようだ。今から黄色くてふわふわな、舌も心も包み込む温かなショーを、今か今かと待ちわびる。
ジュワ―。
卵液が銅製のたまご焼き器に滑り込む。蘭子はその様子をうっとりと見つめていた。
トントントン。
晴代は卵