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カレンダー(3)

男の人生は好転した。

腹が満ちた日に考えたネタは自分でも過去一番納得できるものだった。そのままにしておくのはもったいないと思ったが、知人にお笑いをやっている人がいない。幸いにも時を同じくして「くすぶっている芸人と一般人が考えたネタを掛け合わせると面白いのか」というテレビの企画があることを近所の商店街の小さな電気屋から流れていた映像を見て知った。男は衝動のままネットカフェに向かい、一番安い30分コースを選び個室に入った。自分が考えたネタを拙いタイピングで必死に打ち込んだ。時間に追われ、なかなか進まない指の運びを恨みながらも、充実感に満ちていた。30分をいっぱいに使ってネタを打ち込み番組のホームページに投稿した。採用されようとされまいと自分の集大成はここで出せた。いつ自分が消えてしまってもいいとさえ思っていた。
すると後日郵便ポストにテレビ局からハガキが届いた。

この度は、弊社のテレビ番組『〇〇〇』の企画にご投稿いただきありがとうございます。厳正なる選考の結果、あなたの考えられたネタを採用する運びになりました。
応募フォームに住所だけ記載がありましたのでハガキでご連絡させていただきました。打ち合わせのための日程調整をさせていただきたいのですが、郵便での連絡ですと時間がかかってしまうため、誠に申し訳ございませんが電話かメールで連絡させていただければと思います。

ハガキの下には番組プロデューサーの名前と電話番号、メールアドレスが記載されていた。男は携帯電話を持っていない。それで応募フォームにメールアドレスと電話番号が書けなかった。公衆電話でプロデューサーと連絡を取り打ち合わせの日程を決め、その足で携帯電話を買いに行った。家に帰りすぐに携帯が使えるように設定をしようと機械と説明書をテーブルの上に置く。その拍子にまた、カレンダーが倒れた。
最近よく倒れるなぁと思い、早く携帯の設定をしたい気持ちを抑えカレンダーを起こす。

先勝、友引、大安、大安、大安、大安……。

やっぱりカレンダーに記載される大安の文字が増えている。印刷のミスでは決してない。カレンダーを手に取り眺める。なんとも不思議なカレンダーだ。
倒れて起こす度に大安が増えていく。大安が増えていく度、夢が叶っていく。

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