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小説「好きが言えない 2」

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「好きが言えない」の続編。高校二年生になった祐輔は、交際を機に恋に溺れ、学校生活がおろそかになっている。見かねた詩乃は意を決し、思い切った行動に……。恋人とのすれ違い、駆け引き、… もっと読む
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素直になれないけれど、許すことで前に進める…「好きが言えない2」を書き終えて

素直になれないけれど、許すことで前に進める…「好きが言えない2」を書き終えて

「好きが言えない2」を一話でも読んでくださった方には感謝いたします。
おかげさまで、モチベーションを保ったまま完結させることが出来ました。ありがとうございました。イラスト、写真をお借りした方にも御礼申し上げます。

本作は、前編と後編でだいぶ趣が異なります。
はじめは祐輔と詩乃のその後を描いていました。しかし二人の仲が良すぎて(!)話が進まなくなり、悩んでいたところで「永江を主人公にする」案が浮か

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【完結小説】「好きが言えない 2」前編

【完結小説】「好きが言えない 2」前編

   1 まるで、春の大会で未練を残した球児たちの涙のような雨が、しとしとと降っている。まとわりつくような蒸し暑さに思わず下敷きをうちわ代わりにするが、すぐさま先生に注意される。仰ぐのを辞めたとたん、余計に暑さを感じ、いやになる。週間天気予報によれば、週明けには真夏の暑さになるという。
 このごろはたるんでいるなぁと自分でも思う。けど仕方ない。恋煩いってのはそんなものだ、きっと。
 詩乃と初めてキ

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【完結小説】「好きが言えない 2」後編

【完結小説】「好きが言えない 2」後編

前編のお話:

幼なじみから恋人同士になった祐輔と詩乃。しかし祐輔は、想いが膨らみすぎて野球にも勉強にも身が入らない状態に。見かねた詩乃は祐輔に別れを持ちかけ、なんとか野球に集中してもらうべく画策する。

一方、チームメイトの野上は祐輔の成績が芳しくないのを見て自分がピッチャーになると宣言。また、詩乃にも告白めいた発言をし、祐輔を揺さぶる。追い詰められた祐輔は信用を取り戻すため、ピッチング練習に打

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【連載小説】「好きが言えない 2」# 31(最終回) 許し

【連載小説】「好きが言えない 2」# 31(最終回) 許し

 僕は膝を折り、その場から動けなくなった。そこへ仲間が次々集まってくる。

「部長! おれたち、勝ったんですよ! ベスト8進出ですよ!」

「最後の球をキャプテン自らキャッチとは、さすがだな、永江!」

「部長、涙はもうちょっと後にとっておきましょう。私だって我慢してるんですから」

 僕の意思とは無関係に温かいものが目を濡らし、頬を伝った。春山クンに指摘され、そっと拭う。

 K高対S高の試合は

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【連載小説】「好きが言えない 2」# 30 父

【連載小説】「好きが言えない 2」# 30 父

 歓声が一段と大きくなったように感じる。そこに母の声も混じっているのだろうか……。

 僕は昨日の夜、母宛にメールを送った。たった一言、文章とも言えないそれを見たからこそ、母はここへやってきた、きっとそうなのだろう。

 拒絶し続けてきた僕からの返信。それだけでも母にとっては大きな変化だったに違いない。僕だってそうだ。きっかけをもらわないままだったら、ここまで勝ち上がることすら叶わなかったかもしれ

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【連載小説】「好きが言えない 2」# 29 声援を力に

【連載小説】「好きが言えない 2」# 29 声援を力に

 本郷クンが生還し、ツーアウト満塁の場面で僕の打席が回ってきた。
 水沢は三塁にいる。僕がヒットを一本打てば彼はホームに還れる。なんとかして還したい。

 バッターボックスに立つ。ライトスタンドから今日一番の声援が届く。
 K高の生徒、保護者、OB……。たくさんの人が、何百という目が、僕一人に向けられている。
 ここでもう一発放てば一気に突き放せる。期待がかかっているのが分かる。

 一度、深呼吸

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【連載小説】「好きが言えない 2」#28 セカンド交代

【連載小説】「好きが言えない 2」#28 セカンド交代

 永江のホームランが完全に起爆剤となった。続く一番、二番も着実にヒットを放って塁を埋め、結局この回は計3点を挙げることが出来た。

 永江の目つきがまるで違うことに、俺だけでなくチームの誰もが驚いている。が、誰ひとり、永江に何があったかなんて聞かない。厳しい態度で接し続けた永江だが、それにはちゃんと理由があったし、あいつなりに苦しんでいたことをみんなも察していたのかもしれない。

 六回裏が終わり

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【連載小説】「好きが言えない 2」#27 仲間

【連載小説】「好きが言えない 2」#27 仲間

 バッテリーが代わり、再び試合が動き出す。するとすぐに、
「祐輔ー、一人ずつ確実に抑えろ! お前なら出来るぞー!」
 ベンチから、降板した野上クンの元気な声が聞こえてきた。その声に応えるように本郷クンが「オーケー!」と発声する。

 迎えるバッターは奇しくも四番。バッテリーとしては最も嫌な状況ではある。だが力でねじ伏せてきた野上クンと違い、本郷クンにはテクニックがある。

 僕は迎えたバッターに対

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【連載小説】「好きが言えない 2」#26 野上・大津バッテリー

【連載小説】「好きが言えない 2」#26 野上・大津バッテリー

 母は今日の試合のために休みを取ったという。俺たちより早く起き、俺たちよりそわそわしている。

 県営大宮球場で行われる第1試合。俺たちにとっては四回戦目となる試合だ。ここで勝てばベスト8入りできる。緊張するのは毎度のことだけど、対戦校にどんな奴らがいるのか考えただけで俺はわくわくしてしまう。

「S高のレギュラーには今年入ったばかりの一年生エースがいるって話だ。打つ方の素質もあるらしいな」
「相

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【連載小説】「好きが言えない 2」#25 一歩、前へ…

【連載小説】「好きが言えない 2」#25 一歩、前へ…

「監督。最近の永江の様子を見てどう思いますか?」

 永江がチームに合流したのを見て、今度はおれが監督の元を訪れた。きっと例の「愛の宿題」について話していたのだろうと想像する。だからこそ、聞いてみたいと思ったのだ。

 監督は終始笑顔で、
「永江がいい顔をしているからチームがまとまっている。いい傾向じゃないか」
 と答えた。

「それほどまでにキャプテンの影響力は大きいってことですか」
「いや、キ

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【連載小説】「好きが言えない 2」#24 母の想い

 すべて消してくれることを願っていたのに、既読になったメールがまるごと返ってきた。想定外だ。しかし頼み事を引き受けてくれた水沢の前で、「やっぱり見ない」という選択肢は残されていなかった。

 彼の力強い言葉に後押しされ、僕はようやくメールの文章と向き合う決心をする。
 水沢が表示してくれた、未読だった一番古いメールの中身が目に飛び込んでくる。映し出された文章を読んだとき、僕は目を疑った。

 それ

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【連載小説】「好きが言えない 2」#23 未読メール

【連載小説】「好きが言えない 2」#23 未読メール

 永江と別行動の間、彼女とつかの間のおしゃべりを楽しもうと思ったのに、なぜか姉から長電話がかかってきて連絡係を引き受ける羽目になってしまった。こんなことなら、永江の電話番号を姉に教えておくべきだった。なぜ俺が間に入ってやらなきゃならないのか。

 家についてほっとしたのもつかの間、姉から二度目の電話が入る。またか、と思ってイライラしながらでたが、内容を聞いておれは思わず飛び上がりそうになった。

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【連載小説】「好きが言えない 2」#22 愛する人

【連載小説】「好きが言えない 2」#22 愛する人

「おいおい、本当にそれが君の導き出した答えなのか? ちゃんと探す努力をしたのか?」
「はい。真面目に答えを探す努力をし、僕なりに結論を出しました」
「それならどうして、野球以外に夢中になれるものの答えが『野球』になるんだ?」
 監督命令で出された宿題の提出日。僕は部活動の前に部室に呼び出され、導き出した答えを伝えた。が、この反応である。

 呆れる監督に、僕は持論を語る。
「後輩に言われて思い出し

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【連載小説】「好きが言えない 2」#21 気づき

【連載小説】「好きが言えない 2」#21 気づき

「部長から誘ってくれるなんて嬉しいです。でも、今日はいるのかなぁ?」
「いなかったらまた別の日に来ればいいだけの話さ」
「そうですね」

 翌日の放課後。僕はさっそく春山クンを誘って川越駅にやってきた。個人的に春山クンを誘える材料が「サザンクロス」しかなかった。
 彼女に会って何か得られる保証はないし、ましてや麗華さんの歌を聴いて悟れるとも思えない。だが、監督命令と言われたからには何もしないわけに

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