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映画鑑賞

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映画感想など
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#映画レビュー

本気で生きれば、いつかわかってくれる~映画『無理しない ケガしない 明日も仕事!新根室プロレス物語』~

このドキュメンタリー映画はプロレスファンのみならず全ての人から愛される作品だ。それは、プロレスのみならず全ての人を愛し、愛された主人公の男の生き様につながる。

確かに、映画『無理しない ケガしない 明日も仕事!新根室プロレス物語』(湊 寛監督、2024年。以下、本作)は、北海道根室市の小さなプロレス団体を扱っているが、それはたまたま主人公のサムソン宮本がプロレス好きだったからであって、そうじゃな

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【確定版】2023年 映画鑑賞(劇場鑑賞)まとめ~酒。読書。観劇。それだけ~

2023年の「酒。読書。観劇。それだけ」。「観劇」部門 劇場で観た映画編。

とべない風船(宮川博至監督、2023年)

2023年1月18日。@新宿ピカデリー

子猫をお願い 4Kリマスター版(チョン・ジェウン監督、2001年オリジナル版公開、2004年同日本公開)

2023年1月19日。@ユーロスペース

銀平町シネマブルース(城定秀夫監督、2023年)

2023年1月21日。@川越スカラ

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映画『女優は泣かない』

映画『女優は泣かない』(2023年。以下、本作)を自ら小説化(小学館文庫、2023年)した有働佳史監督が、「あとがき」にそう記している。

冒頭で引用した有働監督の言葉は、「人間には多面性がある」ということではなく、梨枝と咲は「同一人物」だということを意味する。
違いがあるとすれば、それは「右/左」「表/裏」ではなく、「(二人が出会った時点での)before/after」ということになるのではない

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映画『4つの出鱈目と幽霊について』

映画『4つの出鱈目と幽霊について』

怖い話が苦手だ。
なのに何故、『4つの出鱈目と幽霊について』(山科圭太監督、2023年。以下、本作)というタイトルの映画を観たのかというと、たぶん『出鱈目』の安心感だったと思う。それと、本作サイトに掲載されたこんな文章も。

ここにもあるとおり、本作は4篇のショートストーリーから構成されており、それぞれは独立しているが、別の話の人物が他の話にも出ていたりと長編としての一貫性を持っている。

4作を

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映画『少女は卒業しない』

「山城さんが、答辞を読むから」

映画『少女は卒業しない』(中川駿監督、2023年。以下、本作)の中盤、「そのまま卒業できるのに、何故、前日になって自分を変えたいと思ったのか」と教師に問われて、そう答えた作田のセリフにハッとした。
後藤も、神田も、きっとそう思って、自分の気持ちにちゃんと決着をつけようと勇気を振り絞ったのだ。

本作は、『廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校、“

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誠実で丁寧で"あつい"青春映画~映画『あつい胸さわぎ』~

映画『あつい胸さわぎ』(まつむらしんご監督、2023年。以下、本作)は、安易に感想が書けない。
難解な映画ではない。その逆で、むしろ誠実で丁寧に作られた「"あつい"青春映画」だ。
それに倣って丁寧に言えば、「書けない」というのは、「文字にすることができない」、或いは「文字にしてしまうことを躊躇う」ということになる。
それは、私が「オヤジ」だから、と言われるかもしれない。
しかし、本作を観た女性や若

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生きることと働くこと。失敗してもやり直せる~映画『チョコレートな人々』~

「失敗しても、温めればまた作り直せる」

映画『チョコレートな人々』(鈴木祐司監督、2022年。以下、本作)で繰り返されるナレーションだ。
タイトルからもわかるとおり、冒頭の言葉はチョコレートに対するものだ。失敗しても温めて溶かせば、また作り直せるし、だから無駄が出ない。
しかし、それは、チョコレートに限らず、人生にも言えることではないか、本作を観ながらそう思った。

本作は、愛知県豊橋市に本店を

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「銀平スカラ座」の物語を川越スカラ座で観る~映画『銀平町シネマブルース』~

私は映画などのモデル・ロケ地を巡る、所謂「聖地巡礼」に興味がない、と以前の拙稿に書いた。
映画『銀平町シネマブルース』(城定秀夫監督、2023年。以下、本作)を川越スカラ座で観るのは、「聖地巡礼」ではない。
スクリーンに映る「銀平スカラ座」は架空の映画館だが、川越スカラ座にほとんど手を加えることなくそのまま使っている。川越スカラ座は本物の映画館であり、そこで映画を観るのは当然の行為だ。だから、「聖

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かつて女子高校生だった全ての大人のために ~韓国映画『子猫をお願い 4Kリマスター版』~ ただの雑記

女子高校生時代の親友関係は、大人になっても続くのか?

こう書き出してみて、韓国映画『子猫をお願い 4Kリマスター版』(チョン・ジェウン監督、2001年オリジナル版公開、2004年同日本公開。以下、本作)の内容とも、私の云いたかったこととも随分乖離があると思ったのだが、整理のつかない感情を考えるきっかけとして、とりあえずここから始めてみる。

日本映画『リンダリンダリンダ』(山下敦弘監督、2005

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映画『とべない風船』

日の出や夕暮れといった特別な時間ではなく、日中、ふとした瞬間に青空を見上げたまま暫し動けなくなるときがある。
あの刹那、何を思っているのか。

映画『とべない風船』(宮川博至監督、2023年。以下、本作)で、紐で結ばれた2つの黄色い風船が青空を漂うラストシーンを観ながら、あの刹那、私は感謝と祈りを捧げているのだと気づいた。
同時に、その感謝と祈りはきっと、誰とか何といった具体的なモノではなく、ただ

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猫と人間の平和的幸福的共存への希望~映画『猫たちのアパートメント』~

普段街を歩いていて猫に出くわすことがある。
無責任な通りすがりの者としては、飼い猫なのか地域猫なのか、はたまた野良猫なのか気にすることもなく、単純に猫の愛らしさに頬を緩めるだけなのだが、そうして猫と別れた後、ふと「猫はこの世界をどう認識しているのだろう」と考えてしまう。

同じことは、映画『猫たちのアパートメント』(チョン・ジェウン監督、2022年。以下、本作)に出てくる猫たちにも言える。

要す

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映画『はだかのゆめ』

映画『はだかのゆめ』(甫木元空監督、2022年。以下、本作)は、タイトルが示すように、「眠っているときに見る夢」のような物語だった。

約60分の「夢」には、一応、ストーリーというか設定みたいなものがある。

徘徊しているノロは度々、酔漢(前野健太)に出会い、不思議なやりとりを交わす。
この辺りが「夢」を想起させるのだが、映像というか編集にも特徴がある。
それは、パンフレットに掲載されている小説家

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2019年11月、香港の大学が燃えていた~映画『理大囲城』~

映画『理大囲城』(香港ドキュメンタリー映画工作者制作。以下、本作)を、ずっと腕組みしたまま観た。
香港の民主化デモに対してシニカル気取りで上から目線で観ていたというわけではない。
腕をほどいて自身への拘束を解くと、自分が何かをしてしまいそうで怖かった、と同時に、自身の防御を解くと、何かに攻撃されそうで怖かった。

本作は、「香港理工大学包囲事件」と呼ばれる、『2019年11月13日から29日の間に

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映画『にわのすなば GARDEN SANDBOX』

旅行に行ったり、遠方へ引越したりして見知らぬ街を歩くとき、自分の住んでいる(住んでいた)街とそう変わらない住宅街や商店街なのに、ものすごく不安で心許ない気持ちになったりする。全国どこにでもあるコンビニチェーンのお店ですら、何かただならぬ雰囲気が漂っている気がしてしまう。
いや、別に遠くでなくても、隣町の友人を訪ねて街を歩くときも同じだ。
行き交う人々もお店の店員も、善良そうに振舞ってはいるが、内心

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