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Fictional Diary

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in企画、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!
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#外国

fictional diary#6 どこに向かうの

fictional diary#6 どこに向かうの



移動中にふしぎな標識をみつけた。方向と行き先を指し示すプレートには、それぞれ実在する公園や建物の名前が書かれているのだけど、実際にそのとおりの方向に進んでみると、目指す目的の場所がいつまでたっても現れない。おかしいなと思って、もう一度標識のあるところまで戻ってみた。プレートをよくよくみてみると、どうやら標識の矢印が右に90度ずれているみたいだった。検証してみようと、今度はべつの方角に進んでみた

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fictional diary#7 旅芸人の終着地点

fictional diary#7 旅芸人の終着地点



あたらしい町にたどり着いた。あたらしい町ではいつも、まず最初に町の中心に行ってみる。どこでもたいていお城や教会、お寺が町の中心になっている。たまには四角い公園のこともある。この町はすこし珍しく、まん丸の形をした公園が真ん中にあって、そこから広がるように道路が外に伸びていた。その町の宿で出会った人が話をしてくれたのだが、その丸い公園は、円形劇場の跡地なのだそうだ。昔、国中を巡る旅芸人の一座が、旅

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fictional diary#8 空に似た窓

fictional diary#8 空に似た窓



田舎のほうに住んでいる友達の家に泊めてもらうことになった。山の麓にあるその家は、古くて立派なお屋敷で、わたしは友達がまさかこんな家に住んでいるとは思わなかったので驚いた。部屋の家具も、映画のセットみたいな、それか骨董品屋に並んでいるようなものばかりだった。友達はそこにひとりで住んでいて、動物をたくさん飼っていた。犬、猫はもちろん、カゴに入ったたくさんの鳥、猫よけの金網がついた水槽には熱帯魚、庭

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fictional diary#9 光の色の足し算

fictional diary#9 光の色の足し算



その国の、海沿いの小さな町でガラス職人をしている友人の
ところを訪ねた。彼の住んでいる家は、海を見晴らす丘の上
にあって、家の外壁は、曇りの日の海のような霞んだ水色に
塗られていた。玄関を入るとすぐに、部屋からあふれ出そう
なほどたくさんの、どれも青っぽい色のガラスでできた品物
が並んでいた。ガラスでできた花瓶、コップ、お皿、時計板、
ランプシェード、手のひらサイズの動物のガラス細工。どの

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fictional diary#10 赤い車のふしぎ

fictional diary#10 赤い車のふしぎ



その町で、車道のそばをずっと長いこと歩いていたときに、おかしなことに気がついた。赤い車がとても多いのだ。道を眺めていると、3台に1台くらいの割合で赤い車が通る。よその町にも赤い車がないわけじゃないけど、こんなにたくさん見たことは今までなかった。小さな駐車場の前を通ると、そこも不思議なほど赤い車ばかりが並んでいた。緑の草原と、煉瓦造りの家がほとんどを占めるこの町に、赤い車がそれほどよく似合うとい

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fictional diary#11 誕生日みたいな

fictional diary#11 誕生日みたいな



一見、どこの駅にもあるようなありふれた売店に見える。コーヒーや紅茶、ジュースやちょっとしたお菓子を駅のホームで売っている、そういう店。わたしがそこで初めて買い物をしたのは、偶然がきっかけだった。その日わたしは次の街に向かうために、長距離電車に乗ろうとしていた。でも昨夜からの大雨と風の影響で電車が止まってしまい、いつまた動き出すのかわからない電車を、駅でしばらく待たなくてはいけなくなってしまった

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fictional diary#12 水から生まれる

fictional diary#12 水から生まれる



牧草地や畑に囲まれた小さな町の、教会につづく道の途中でふしぎなものを見つけた。パン屋や雑貨屋、薬局など地元の店が軒を連ねるなかに、薄暗い古物屋があって、使い古しの家具や食器を売っていた。その店先に、灰色の石でできた大きめの水差し、のようなものが出ていて、なかには水がいっぱいに満たされているのだ。膝より少し高いくらいの大きさで、小ぶりだけれどずっしり重たそうだ。魚でも飼っているのだろうか、と覗き

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fictional diary#13  鈴の木

fictional diary#13  鈴の木



背の高い、わたしの国ではあまり見たことのない木がたくさん生えている、広い公園を散歩していた。町のいちばん真ん中にある公園なのに、驚くほど静かで、風が枯れ木や芝生を揺らすさわさわとした音がよく耳に入ってくる。誰かが手入れしているらしいきれいな芝生をじっと眺めながら歩いていたら、地面に木の実が落ちているのを見つけた。胡桃くらいのおおきさだけど、それよりもっと小ぶりで、色は黒に近いような濃い茶色。手

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fictional diary#14  想像上の象

fictional diary#14  想像上の象



バスを待っていた。季節にしては暑すぎるくらいのよく晴れた日で、わたしは着てきた上着を脱いだ。バス停には何人かほかの観光客も並んでいて、ガイドブックやカメラを手に楽しそうにおしゃべりをしていた。バスの行き先は有名な遺跡だった。草原の真ん中にそびえたつ、高さ25メートル、重さ5トン以上の、中途半端に巨大な象の像。象なんてまったくいないこの国に、なぜそんな遺跡があるのかは、世界七不思議に入るほどでは

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fictional diary#15 かわいい魔女

fictional diary#15 かわいい魔女



その家にはアロマセラピーの偉い先生が住んでいて、近所の子供たちからは「お菓子の家」と呼ばれていた。お菓子でできているからじゃなく、ハーブの調合に日々精を出しているおばあちゃんが魔女のように見えるからなのだそうだ。童話に出てくる、鷲鼻で鉤爪の人食い魔女とはまったく似ても似つかない小柄な白髪のおばあちゃん。指には小さな緑の石のついた指輪をはめていて、服は真っ黒の長いワンピースを着ていた。彼女は、ア

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fictional diary#16 消えていく色

fictional diary#16 消えていく色



その海岸から海をみると、なぜだか波打際がピンクに染まって見えるんだ、ガイドブックには載ってない隠れた名所だ、と泊まっているユースホステルの従業員の男の子が教えてくれたので、朝ごはんを食べたあとさっそく海へ向かった。空は灰色でもくもくした雲が浮かんでいる。10分くらい歩いて辿り着いた海は、たしかにほんのり赤っぽく染まってみえた。近くで見てみたくて、海岸まで走っておりていった。すると海の赤みは幻の

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fictional diary#17 空の窓まじない

fictional diary#17 空の窓まじない



その町に昔から伝わる、晴れ乞いのためのおまじないを教えてもらった。そのあと、二日続けて雨の降った日、ほんとうに、町の通りのどの家でもそのおまじないをやっているのを見かけて驚いた。よくあるてるてる坊主なんかじゃなくて、それよりもっとロマンチックな感じのするおまじない。まず最初にすることは、家のなかで、いちばんきれいで、欠けたり傷がついたりしていない窓をひとつ選ぶことだ。古い家で、どの窓もぜんぶ傷

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fictional diary#18 魔除けの鏡

fictional diary#18 魔除けの鏡



宿からお気に入りの喫茶店に行く道の途中に、庭に黄色の花が咲いている小さな家があって、毎日その花を眺めながら歩いていくのが楽しみだった。その家の玄関の、扉のすぐ上には小さな丸い鏡が取りつけられていて、晴れた日には道行く人の目を眩ませるくらいに太陽の光を反射していた。鳥よけなのかと思ったけど、この辺りには庭の害になりそうな大きな鳥はほとんどいない。せいぜい小さなスズメや、ウグイスに似た薄緑色の小鳥

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fictional diary #19 シスターの手袋

fictional diary #19 シスターの手袋



その町のはずれにある、小さな古い教会には、昔々のある戦いで亡くなった人たちの名前が掲げられている。教会の通路の奥まったところにある小部屋、その壁に、名前が金彫りで記された石板が掛かっている。近くで眺めてみようと思ったけれど、その小部屋の入り口は鉄柵でできた扉で覆われていて、向こうの様子は見えるけれど、中に入ることはできないようになっている。通路をちょうどこちらに歩いてきたシスターに話しかけて、

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