塾長からいじめに遭い自殺未遂をした


落下。

身体が宙に浮く。


物理法則に従い自由落下していく身体とは裏腹に

意識は空へと飛んでいく。

まるで時間が延長したような不思議な感覚に包まれる。

着水。

11月の隅田川の水が一斉に体を突き刺した。

静寂。


僕は確かに生きていた。

望み通り死ぬことができなかった情けなさ、

生きていたことの喜び、いろんな感情がごちゃ混ぜになって脳をめぐる。


2015年11月5日。僕は自殺を図った。


大学3年生の頃、僕は塾講師のアルバイトをしていた。

当時付き合っていた彼女からの紹介だった。

彼女が中高生の頃、塾で彼女を担当していた先生が独立し、講師を探しているということだった。以下、その先生を塾長と呼ぶことにする。


塾長は温厚な人物だった。

都内の有名校に合格した僕の学力や模擬授業をした際の指導力を評価してくれていた。

塾の未来はお前にかかっていると居酒屋で美味しいお酒をご馳走になったこともある。

塾長からは塾は出来てから最初の1年が勝負だ。

何がなんでも生徒のことを第一に考えて欲しい。と言われた。

生徒ファースト。

その信念がのちに僕と塾長の関係に溝を作ってしまった。


働き始めて2ヶ月が経過し、ある事件が起こった。

僕が担当している生徒が宿題をやってこず、叱ったところ、その子が塾をやめてしまったのだ。

叱り方が悪かったことは反省したが、謝るだけでは塾長の怒りはおさまらなかった。

お前のせいで評判が落ちたら、どうしてくれるんだよ。

僕は謝るしかなかった。


その日から塾長による陰湿なイジメがはじまった。


〇〇くんってそんな人だったんだね。見損なったよ。

彼女から突然LINEが来た。


どうやら塾長が、彼女に塾長の奥さんの陰口を言っていると吹き込んだらしい。

彼女は塾長の奥さんに懐いており、この作戦はかなり効果があった。

僕は彼女からの信頼を失った。


これが20近く年が離れた人間のやることか。

怒りと悔しさで震えが止まらなかった。

嘘を吹き込み、親密な人間との関係を崩していく塾長の手口に恐怖を覚えた。


その後、塾長からは夜な夜なフェイスブックのメッセージが送られて来た。


キモいんだよ。


なんで〇〇が辞めたかわかるか?

お前がキモいからだよ。

今度俺にあったらなんで〇〇が辞めたか理由を聞くから、納得いく答えを考えてこい。

お前なんか誰からも必要とされないよ。


このような内容のメッセンジャーが毎晩毎晩送られてくる。

僕は怖くてスマホをひらけなかった。

ベットの上でガタガタと怯える日々が続いた。


そんな中で僕が辞職という選択肢を取らなかったのには理由がある。

夏期講習だけのお試し期間できていた生徒が僕を指名してくれて、秋からも〇〇先生と頑張りたいと言ってくれていたのだ。

僕を必要としてくれている生徒がいるなら頑張ろう、なんとしてもこの子を志望校にいかせてあげたい。その思いだけで動いていた。


塾長からの陰湿なメッセンジャーが続く中、僕は出勤をした。

塾に向かう電車に乗っている時間が本当に苦しかった。


塾で生徒の指導を一通り終えると、案の定、塾長から呼び出しがあった。


なんで〇〇が辞めたか、俺に説明しろ。

自分の指導がよくなかったからです。


ちげえだろ。ちゃんと考えろ。納得できる答えをしろ。


もう、塾長が何を言わせたいのかは明白だった。


僕が、、、

僕が、キモいからです。


その先の記憶は定かではない。

何度か暴言を吐かれていたが記憶から綺麗に抹消されている。


塾長の思い通りにされた悔しさや、彼女への裏工作の恐怖、いじめの辛さ、色々な負の感情がいっぺんに駆け巡り、目から涙が溢れ、震えが止まらなかった。


そのまま、帰宅もせずに橋から隅田川に飛び込んだ。



もしかしたら、あれは塾長なりの激励であり指導であったのかもしれない。

開塾1年目で塾の明暗がわからぬ中必死だったのかもしれない。

だが塾長が放った キモい という一言は

今だに僕の心の奥に巣喰いことあるごとに顔を出す。


言葉は刃物なんだ。

これは「劇場版名探偵コナン 沈黙の15分(クォーター)」で元太君と光彦が言い争いになったときのコナンが放った言葉だ。



5年近くが経った今でも塾長の夢をみる。


あの時の刃物はまだ心臓に深く突き刺さったままだ。





ここまで読んでいただき、ありがとうございます。今、心の傷を少しづつ癒しながら元の自分に戻れるよう頑張っています。よろしければサポートお願いします。少しでもご支援いただければそれが明日からの励みになります。