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『失敗の本質』野中郁次郎他

はじめに:組織論入門者のためのケースまとめ

女史は、経営学、特に組織論を学んでみたいという人がいたら、真っ先に本書を推薦する。

本書は、非常にとっつきやすい組織論の入門書である。第二次世界大戦という、日本人なら日本史の授業で習った作戦が、ケーススタディとして数々登場する。歴史を振り返りつつ、組織論のエッセンスを楽しく学べる書物である。

本書では、日本軍の第二次世界大戦における作戦の失敗を振り返り、組織論の観点から、失敗要因を分析する。女史は、本書で紹介された数々の要因を、戦略上の失敗・戦闘技術上の失敗・組織風土上の失敗の3点に分けて説明する。その後に、本失敗を分析した結果、理想的な組織体系を述べる。

異郷から来た女史が何者か知りたい人はこれを読んでくれ。

そして、女史のnoteをどう読むか、こちらを参考にしてくれ。

戦略上の失敗:不明瞭・短期的目的/帰納的・非柔軟な戦略策定

本章では、日本軍が犯した、戦略上の失敗を説明する。まず、彼らの戦略の目的が不明瞭で、短期的志向性が非常に強かった。現場の兵士たちは大本営から出された指令が、何を目的としているのか理解できず、真の目的にそぐわない作戦の実行が重なった。また、大本営側は、戦略がすぐに成功して終結することを見込んでいたため、敵軍の抵抗によって長期戦に持ち込まれた際のことを考えていなかった。これにより、資源の供給バランスが大きく崩れたりなど、作戦の失敗に直結する事態が多く起きてしまった。

また、日本軍の戦略策定は、非常に帰納的思考を基に策定されており、柔軟性も欠いていた。帰納的であるがゆえに、とある経験を基に、一般化をしてしまう。しかし、一方の米軍のように、演繹的に証拠を集めて理論化をするという考え方ができない故に、科学的にリスクの多いとされる戦略を策定してしまった。また、これらの日本軍の戦略は、非常事態における対応や、作戦失敗時の行動規範を定めておらず、臨機応変な対応ができない柔軟性の低い戦略であった。

戦闘技術上の失敗:アンバランスな戦力

次に、戦闘技術そのものの失敗要因を述べる。日本軍の戦力は非常にアンバランスであった。零戦のように、非常に高性能な戦闘機がある一方で、情報通信システムのインフラの発達が非常に遅れているなど、技術発展の足並みが、分野によって大きく異なっていた。

これにより、戦力を、それぞれの作戦にバランス良く配分することができなかった。

また、特に、情報通信システムの未整備は作戦の失敗要因ともなった。味方の通信の傍受さえ危うい場合もあったのだ。一方敵の米軍は、索敵、通信傍受などの技術も非常に高く、日本軍の殲滅にこれら米軍の情報技術は大きく寄与したとされている。

作戦の目的により、必要となる戦力の種類は異なるはずである。日本軍は、高性能な戦車や航空機ばかりに着目するのではなく、バランスの良い戦力の発達を図るべきであった。

組織風土上の失敗:人的ネットワーク偏重/属人的統合/学習軽視/プロセス・動機重視

次に、日本軍の組織風土上の失敗要因を述べる。人的ネットワーク重視の組織構造がその1つ目の要因だ。日本軍は幕僚統帥的な組織統治を行っていた。明確な命令を下すのではなく、その場の空気を読んで、人間関係を壊さないように相手に無駄な考慮をする。また、陸大出身のエリートたちが幅を利かせ、彼らのコミュニティ内で勝手な意思決定をする。これらにより、日本軍内にて、適材適所の考え方が浸透せず、現状に見合わない人事配置が行われていた。

2つ目は属人的組織統合である。軍は、武器、歩兵、情報システムetc..様々な戦力を持っている。これらを統合し、全量を把握及び管理し、それぞれの作戦に的確に配分するための組織とシステムが必要となる。日本軍は、これが未発達であった。戦力の統合は、個人的なやり取りを基に擦り合わされ、軍内での一貫性が皆無であった。これにより、自軍の余力戦力の把握ができず、無茶な作戦の実行に繋がった。

3つ目は、学習の軽視である。作戦において失敗が起きた際、その失敗は軍内に伝播・蓄積され、今後同じ失敗が起こらないようにすべきである。しかし、日本軍では、この学習サイクルが存在しなかった。彼らは、作戦の実行者に気を遣い、失敗を隠蔽さえした。これらは、日本軍の成長を阻む要因となった。

4つ目は、プロセス・動機重視の人事管理である。その人が成した成果を見るのではなく、その人のモチベーションや心意気ばかりを評価した。「彼は仕事はできないが、元気とやる気はあるから昇進させる!」といった、理不尽極まりない評価方式で、人事評価が行われていたのである。また、日本の軍内では、個人の責任範囲が明確化されていなかった。そのため、どこまでがその人個人の失敗or成功なのか、明確に判断ができなかった。そのため、やる気やプロセスばかりを評価する方式になってしまったことが考えられる。この評価方式は、優秀な人材を時に排除し、無能な人間を重要なポストに就かせることに繋がった。

理想の組織体系:環境適応/自己革新組織

上記までで、日本軍がなぜ失敗したのか、述べてきた。ここでは、どのような行動をとることが理想であったのか述べる。著者たちは、理想の組織体系を創り上げることが重要であるとする。環境適応及び自己革新ができる組織体系の確立である。

環境適応ができる組織とは、自らの戦略や組織体制を、その時の環境に応じて臨機応変に変化させる組織である。当初掲げていた目標は、時に、その場の環境にそぐわなくなる場合がある。その際に、当初の目標に固執するのではなく、柔軟に目標を変化させることが重要である。そして、それと同時に、組織体制さえも柔軟に変化させていく必要がある。この環境適応サイクルが確立している組織は、いかなる時代の波にもついていくことができる。

自己革新組織とは、イノベーションを生み出すことのできる組織である。自己革新組織は、常に環境に対して敏感で開放的である。環境に応じて自分を変化させるだけでなく、時には革新的な発明を生みだす。

これら組織を実現するには、組織単位の自立性の確保、組織内での多様性、知識の蓄積システム、統合的価値共有が重要となる。要するに、色々な人種・性別・宗教等がごちゃ混ぜの組織内で、皆がそれぞれ自分自身の頭で考えて意見を言うことができ、過去の失敗や成功を振り返りつつ、皆で一つの目標のために意思決定ができる組織、が理想なのである。

おわりに:日本企業と日本軍の類似点

以上、本著に記載された日本軍の失敗要因と、理想の組織を述べてきた。女史は、ここで日本軍と現在の日本企業の共通点を多く見た。

特に、人的ネットワークを重視する点と、個人の結果よりもプロセスや動機を評価するシステムである。他人との根回しに無駄な時間ばかり使う人たちを、女史は会社で多く見てきた。また、人事評価においては、何を成したか、ではなく、どれくらい長く働いたか、等が評価されることも多々ある。

本著では、環境に的確に変化し、イノベーションを生み出す組織が理想であるとされた。果たして、現存する日本企業の中で、環境に応じて価値観を変化させ、イノベーションを続けている企業がいくつあるだろうか。

近年、日本の大企業が他国のグローバル企業に押し負かされている状況をよく見る。日本企業の古臭い組織を見れば、それは当然のことであるように女史は思う。

そして、女史は、環境に適応できない、したがらない、進化を拒む企業は、滅んでしまえばよいと思う。

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