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文字の連なり
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#エッセイ

床屋

「いつもと同じ感じで」

二ヶ月に一回ぐらいの頻度で床屋に行く。飲食店などのお店に行くときは予約はしていかないのだが、床屋は必ず予約をしていく。ふらっと行って、空いていたから立ち寄ってみたよ、なんていう粋なことはできない。すみません今日一杯です、と言われてしまったときの、浮かれた気持ちを狙撃されたような感覚に耐えられない。

店内に入ると、待ってましたと電動椅子に案内される。座ると理髪師から、今日

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温冷交代浴

温冷交代浴

とあるサウナのドラマを見て、温冷交代浴という入浴方法を初めて知った。どういうものかと言うと、サウナで体温を上昇させた後、水風呂に入り急激に体温を下げ、またその後にサウナに入り体温を上げる。きっと正式なルールがあるのだろうが、ざっくりいうとそんな感じのものだ。要するに、暑いと寒いを交互に繰り返すという、一見、何の拷問?という入浴方法だ。

そのドラマいわく、短時間で体温の上昇と下降を繰り返すことによ

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スイッチ

スイッチ

私は暗いところが好きだ。道を歩いていて暗がりがあれば、吸い込まれるように行ってしまう。家の中にいて、気が付いたら日が暮れて真っ暗になっていたということが度々ある。小さい頃は、布団に入って電気を消した後も、真っ暗な天井をじっと見つめているような、ちょっと心を心配されそうな子どもだった。

私達は一日何回電気のスイッチを入れているのだろう。思えば不思議なものだ。指一つの労力で、広い空間に灯りが付いたら

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カレーと中島

カレーと一口に言っても、いろいろなカレーがある。辛口か甘口か、牛か豚か、それとも鳥か。野菜は何が入っているのか。キーマ、スープ、インド風、欧風、スリランカ風。枚挙に暇がない。料理としての間口が広いので、どこかに自分の好きなカレーが必ずある。

私はオーソドックスなカレーが好きだ。市販のルーを使って、大きめにカットされたジャガイモとニンジンが入っている。玉ねぎは飴色とまではいかなくとも、くたくたにな

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フグ

フグ

味は美味だが毒がある。
私はこの間、生まれて初めてフグを食べた。ひょんなことから冷凍のものを頂き、鍋にして食べた。身は白く、普通の白身魚より弾力があるように感じた。味はというと、私の期待が大きすぎたせいか、正直、これぞフグ、という程ではなかった(漁師さんすみません)。良く言えば滋味を感じさせる淡白さ、悪く言えば味が無い(漁師さん本当にすみません)。味以外のことだと、骨が多かった。
フグといえば高級

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煙草

煙草

私は煙草を吸わない。生来より肺が弱い為というのもあるが、殊更吸いたいと思ったこともない。しかし、吸えた方が良かったのかなと思うこともままある。

小説を読んでいると、よく登場人物が煙草を吸うシーンが出てくる。それが好きなキャラだったりすると、喫煙の魅力に少し惹かれる。また、これもよく喫煙者の言うことだが、山頂などの空気の美味いところに行くと、煙草も美味く感じるらしい。煙草と空気の新鮮さは相反する要

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そこにプレゼンがあるから、夏

入社してまだ3ヶ月ほどしか経っていない、夏の暑い日の話。

私が朝出社すると、先輩から、

「〇〇さん(私の上長)が、出社したらそこの番号に電話しろって」

キョトンとした私が自分のデスクの上を見ると、A4コピー用紙の紙面に無造作に書かれた携帯番号があった。

言われるがままに会社の電話から掛けると、上長の声がした。

上長「おはよう」

私「おはようございます」

上長「突然だが、今日が件のプレ

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初めての遠出他社訪問にて

私は朝早くから特急電車に乗り、単身長野へと向かった。一人で他社訪問しなくてはならないという緊張感、不安はあるものの、旅気分である。

車窓から見える景色を写真に撮り、妻に送ったりした。乗車前に売店で買ったタマゴサンドウィッチを開閉式のテーブルに上に乗せ、これも写真に収めた。

駅に到着し、よさげな店で昼食を済ます。完全に旅気分である。このまま温泉でも行ってしまおうかと思うが、さすがにそれは気が咎め

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初めての他社訪問

私が初めて他社訪問をしたのは、入社して一月ほど経った頃だ。もちろん一人ではなく、上司と一緒にだ。

一人ではないという安堵感はあったものの、その緊張感たるや、山のごとしである。それまでレジを打ったり「こんにちわー」と言うだけの仕事しかしたことがなかった私にとって、勤務時間中に会社の外に出るというのは新鮮だった。こうやってただ駅に向かって道を歩いているだけでも、賃金が発生しているのだと思うと、不思議

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